2.大きな虚像
神がいなくなった直後、私の永劫回帰の歯車は再び動き出した
――拍動を感じる 思考が回っている つまり私は生きている
私は新生児としてこの世界に生まれることに成功したらしい
しっかりと赤ん坊らしく一年二年三年と過ごし、他の赤ん坊と何も変わらないように努めた
これからの人生に響いてくるからだ
しかし、意識がはっきりしてきて、外の世界を直視し始めたとき、
私は現実を理解した
どうやら神によって歯車は狂ったようだ
そこは私の知っている世界ではなかった
私が55年生きてきて一度も見れなかった剣と魔法の交じり合いが目の前で起こり、
異形の怪物がそこらを蹂躙している
私にとってしたら当然、あり得ない世界だ
しかし、そんな世の中でも私の生まれた家の者たちは強かった
両親は毎日、異形の魔物を正しく恐れ、しっかりと対策も用意していた
私は深く感心した
彼らは私にアルトという名前をつけた まあ、ほぼ使わないだろう
そして、もう一つわかったことがある
どうやらこの世界でもスキルとやらは存在するらしい
私の血潮の中、神を殺したときのあの興奮と力をかすかに感じたのだ
ただ、まあ私の心は踊った
その時は赤ん坊ながらも早くあそこに交じりたい…早く私も戦いをしたい… そう思った
しかし、それはしばらくは叶わなかった
この村は平和だったのだ
赤ん坊のころに見たあの景色も何十年に一度の稀なことだったという
俺は20年の間、ずっと農作業を行った
だが、しっかりと私の心はまだあの闘志と興奮を忘れなかった
そして"その時"はいきなり来ることとなる
私の村にある男がやってきた
彼は自らを近くの教会の大神父と名乗った
「私の名前はデルテス・セインティ トリア正教会の大神父であ~る」
彼はうざったらしく胡散臭かった
確かに長く強く生きた人物であることはわかったが、彼の瞳にはどこか嘘があった
「今回、私がこの村に来たのは他でもない 布教で~す」
「さあ、皆さ~ま 神を信じ、加護を受けてましょ~う」
村のやつらは彼の話をしっかりと聞いていたが、私は聞く耳を持たなかった
大体、神は死んだのだ 神なんていないのだ 私が殺したのだから
『デルテス神父、いま…』
「"大"神父で~す」
『デルテス大神父、今までに神は我々に何をしたのですか?』
私はそう聞いてみた
村の人々に騙されてほしくなかったからだ
「そ、そうです~ね… 神は私たち人類をおつくりになられま~した!」
大神父は青年にしては面白くない質問に困惑しながらもそう答えた
しかし、私は討論と批判は得意なのだ
『それは何百年、何千年と前の話でしょう 創作の可能性も十分にある』
「な、なんて失礼な子供なんでしょ~う…! しっかりと教育が行われているのか心配で~す」
そこに私の母親が割って入ってきた
「すいません… うちの子が…」
「あら、この子の母親さ~んですか?」
「全く御宅の教育はどうなって…」
そう大神父が言い終わるより前に母親の口が動いた
「しかし… うちの子は何か誤ったことでもしましたか…?」
そう言う母の顔は笑っていたが、
確かに怒りがにじみ出ていて、ある意味一番怖かった
「で、ですから… そちらの子が神を否定したのであ~りますぞ⁉」
「ええ、ですからそれの何が誤りなのかを聞いているのです 私は」
確実に大神父の怒りはたまっていた 顔に全て表れている
「誤りですと…⁉ 神は正しいのです! よってその加護を受けた私も正しいのでありますぞ!」
さすがにこの発言は私も疑問に思った
私は母親の手を振り切り、また彼に反論する
「それだけでは理由にはならないでしょう この世に証拠がない絶対的な真実などないのですから」
「くっ、どこまでもしょうもないガキが育ったもんだなぁ!この村は!」
「そうだよ!確かに俺も十年前ぐらいから神から何も声が届かなくなってたんだよ!」
「だけど、権力者にはなあ 真実を曲げる権利があるんだよ!」
「それで十年前からずっと偽りの虚像を信じさせてきたんだよ!」
十年前… やはりそういうことか
やはり俺は神を殺していたようだ
『ああ、そんなことだと思ってたんだよ爺、なんでかって?』
『神は死んだんだ 私が殺したからな 十年前、世界と世界の狭間で』
<今回の知識メモ>
「永劫回帰」
ニーチェが唱えた根幹思想
「もし、あなたの人生や苦悩が全て同じ形で繰り返されているとしたら?」という問いに対して、
それらの苦悩や運命も全て肯定して生きることこそが良いとする思想




