死線[4]
村の入口。
踏み荒らされた土と、まだ消えぬ血の匂いが漂うその場所に、七郎は一人、静かに立っていた。
その背後、わずかに間を置いて藤四郎が控える。
二人の間には、言葉のない呼吸があった。
やがて──。
土煙が、再び上がる。
先ほどとは比べものにならない濃さだった。
地鳴りのような足音が重なり、地面がかすかに震える。
野伏せりの群れ。
今度は百を超えていた。
黒い影がうねるように広がり、村へ迫ってくる。
だが──。
七郎の姿を認めた瞬間、その動きがぴたりと止まった。
距離を取る。
警戒しているのだ。
あの雷振筒。
あの、常識を外れた射程と破壊力。
それを、すでに思い知らされている。
それでもなお──。
百を超える群れを前に、たった一人で立ち塞がる。
その異様さに、野伏せりたちの中にさえ、わずかな戸惑いが生まれていた。
やがて、その中から一騎が前へ出る。
重々しい鎧をまとった男。
眼光は鋭く、ただの野盗とは明らかに格が違う。
「ワシは骨喰党の頭! 赤城弾正!」
低く、腹に響く声。
「大人しく下れば、手荒な真似はせん!」
最終通告。
だがその声音には、妙な粘りがあった。
──時間を稼いでいる。
七郎は、すぐにそれを悟る。
視線をわずかにずらす。
群れの後方。
竹を束ねた盾。
さらに分厚い木盾。
それらが、じわじわと前へ出てきている。
あれで押し上げてくるつもりだ。
盾を並べて前進されれば、雷振筒でも撃ち抜くのは難しい。
──厄介じゃ。
だが、七郎の顔には焦りはなかった。
「さてん……」
ぽつりと呟く。
「ちっと、捨て奸ばすっかな……」
そのまま、路上に胡座をかいた。
砂煙の中、あまりにも無防備な姿勢。
だが、その手にはしっかりと雷振筒が握られている。
銃口を、ゆっくりと前へ向けた。
「あっほど憧れった雷振筒で、戦んできって……」
かすかに笑う。
「オイは、なんちゅう果報者なごわっ……!!」
その声には、戦場に立つ者だけが持つ奇妙な昂りがあった。
「もう、ここいで死んでん良か……!!」
次の瞬間。
引き金が引かれる。
ドンッ!!
雷鳴のような銃声。
続けざまに、
ドドドドドンッ!!
六発の爆音が、空気を引き裂いた。
硝煙が噴き上がる。
弾丸は盾へと吸い込まれる。
──が。
バンッ!!
隙間を抜けた弾が、後ろの男の肩を吹き飛ばす。
「ぐぁあっ!!」
悲鳴。
さらに一発。
顔面を撃ち抜かれ、血飛沫が舞う。
完全には防げない。
その事実が、じわじわと野伏せりの足を鈍らせる。
七郎は間を置かない。
素早く次弾を込める。
火薬を詰め、弾を押し込み──。
再び撃つ。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
連続する銃声。
硝煙が風に流れ、視界が白く霞む。
野伏せりたちも応戦する。
弓が引かれる。
ヒュンッ!!
矢が飛ぶ。
だが──。
距離は五十間(約九十メートル)近い。
狙いは大きく逸れ、矢は七郎の周囲に突き刺さるだけ。
土が跳ね、乾いた音を立てる。
一本、頬のすぐ横を掠めた。
それでも七郎は微動だにしない。
撃つ。
撃つ。
撃ち続ける。
やがて──。
三十発。
すべて撃ち尽くした。
七郎は、ゆっくりと立ち上がる。
その顔には、どこか満ち足りたような色があった。
「次は、孫市どんの番なごわすッ!!」
そう叫び、後ろへ下がる。
その背を、藤四郎が追い越した。
すでに構えている。
呼吸も、狙いも、すべて整っている。
引き金。
ドンッ!!
轟音。
後方にいた徒士の頭が弾け飛ぶ。
ドンッ!!
騎馬の胸を撃ち抜き、馬ごと崩れ落ちる。
ドンッ!!
ドンッ!!
撃つたびに、確実に一人、また一人と消えていく。
その精度は、七郎とは別次元だった。
まるで、死神が指を差しているかのように。
だが──。
それでも。
野伏せりたちは止まらない。
じり、じり、と距離を詰めてくる。
盾を前に出し、損害を承知で前進する。
──ある線を越えれば。
一斉に飛びかかってくる。
その圧力が、確実に迫っていた。
藤四郎は一歩、また一歩と後退する。
間合いを保つために。
撃ちながら、下がる。
だが、距離は縮まっていく。
そのとき──。
背後から、七郎の声が炸裂した。
「大変なごわす、孫市どんッ!!」
ただならぬ響き。
「前っからも寄せっきた! 騎馬なごわすッ!!」
その言葉に、藤四郎の背筋が凍った。
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