死線[1]
街道の向こうで、土煙がもくもくと立ち上がっていた。
やがてその中から、黒い影が次々と浮かび上がる。
騎馬の群れだった。
地面を蹴る蹄の音が重く響き、山あいの空気を震わせる。
数は五十あまり。
騎馬の後ろには徒士も走っている。遠目には、まるで一隊の軍勢のようだった。
だが近づくにつれ、その正体ははっきりする。
武装はばらばら。
兜を被っている者はわずか。あとは鉢金か、ただの鉢巻き。
徒士の中には陣笠すらない者が多い。
そして何より──。
動きに統制がない。
隊列も何もなく、それぞれが勝手に馬を走らせ、笑いながら村へ向かっている。
まるで獲物を前にした獣の群れだ。
典型的な野伏せりの集団だった。
村の影からそれを見つめながら、七郎は低く唸った。
「敵は思っちょったよっか、すっくなかッ!」
振り返り、鋭く言い放つ。
「オイん指図どおいに動っせば、勝てっどッ!!」
返事はない。
だが男たちは皆、ぎゅっと竹槍を握りしめていた。
七郎が立てた策は、柵を守る防御戦ではない。
──誘い込む。
それがすべてだった。
木柵の入口はわざと開けてある。
村は一見すると無防備に見える。
略奪を目的とする野伏せりは、必ず村へ雪崩れ込む。
そして我先にと獲物を求め、家々へ散っていく。
そこが──狩り場だ。
村の男たちは五人一組で家の影に潜んでいた。
戸板を立てかけ、街道からは見えぬようにしている。
竹槍を構え、息を潜める。
足音が近づく。
ガチャガチャと鎧の音。
下卑た笑い声。
「へへ……こりゃ楽な仕事だぜ」
「女もいそうだなァ」
野伏せりが二人、家へ近づいた。
次の瞬間──。
「今じゃッ!!」
戸板が跳ね飛ぶ。
男たちが一斉に飛び出した。
「うおおおおッ!!」
五本の竹槍が、突風のように突き出される。
ドスッ!!
肉を貫く鈍い音。
「ぐぁっ!?」
野伏せりの一人が目を剥いた。
胸から竹槍が突き出している。
もう一人が刀を抜こうとした瞬間──。
ザクッ!!
腹へ槍が突き刺さる。
「が……っ!」
息を吐きながら崩れ落ちた。
不意打ちだった。
反撃の暇などない。
同じことが、村のあちこちで起こっていた。
「突けぇッ!!」
「殺せぇッ!!」
家の影から男たちが飛び出し、竹槍が乱れ突きに叩き込まれる。
野伏せりは完全に散開していた。
仲間同士の連携などない。
一人、また一人と倒れていく。
その頃──。
村の中央、権兵衛の家の前では別の戦いが始まっていた。
女たちが集まっている。
家の周囲には、河原から集めた石が山のように積まれていた。
「来たぞ!」
見張りの声。
野伏せり三人が、笑いながら近づいてくる。
「女が集まってるじゃねえか」
「運がいいぜ!」
その瞬間──。
「今じゃ!!」
石が飛んだ。
ヒュッ!
ヒュッ!
ヒュッ!!
二十人の女たちが一斉に石を投げる。
つぶての嵐だった。
「ぐぁっ!」
ゴッ!!
石が顔面へ直撃する。
野伏せりの額が割れ、血が噴き出した。
「がぁぁっ!!」
別の男の腕に石が叩きつけられる。
ボキッ!
骨が折れる鈍い音。
「目が……目がァァ!!」
鋭い石が目へ突き刺さり、男が転げ回った。
だが石は止まらない。
「投げろッ!!」
「次ッ!」
「もっと寄越せ!!」
投げる者と補給する者が組になり、次々に石を供給する。
空気が唸る。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
石の雨が容赦なく降り注いだ。
女の腕力でも、数が揃えば凶暴極まりない。
野伏せりは悲鳴を上げながら倒れていく。
顔を砕かれ、腕を折られ、血まみれで転げ回る。
ついには──。
「ぐ……げっ……」
目玉が飛び出した男が、その場に崩れ落ちた。
村のあちこちで、悲鳴と怒号が交錯する。
牛丸村は今、巨大な罠となっていた。
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