表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last rewrite  作者: 蒼了一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/83

山影騒然[4]

 村の中央にある小さな広場へ、人々が次々と集まってきた。


 暗い空の下、篝火がいくつも焚かれている。乾いた薪が爆ぜるたび火の粉が夜へ舞い上がり、揺れる炎が人々の顔を赤く照らし出した。


 眠りから無理やり起こされた者も多い。


 肩に上着をひっかけただけの男、子どもを抱えた女、杖をついた老人。


 その数は百を優に超えていた。


 誰もが不安そうな目で、村長の権兵衛を見つめている。


 広場のざわめきは、風に揺れる木の葉のように落ち着かなかった。


 権兵衛は深く息を吸い込み、声を張り上げた。


「ともかく時間がねぇ! 野伏せりどもを迎え撃つぞ!」


 だがその言葉が終わる前から、人々の間にどよめきが広がる。


「迎え撃つって……」


「逃げた方がいいんじゃ……」


「相手は野伏せりだぞ……」


 不安と恐怖が、ざわざわと広場を満たしていく。


 それも無理はなかった。


 野伏せり──。


 戦場で生き残った落ち武者やならず者が徒党を組んだ存在。


 殺しと略奪を生業とする連中だ。


 ただの農民が敵う相手ではない。


 その空気を感じ取ったのか、権兵衛は歯を食いしばって怒鳴った。


「逃げ出した所で行く先はねぇ!」


 声は怒鳴るというより、必死に絞り出した叫びだった。


「野伏せりに追っかけられて、上手く逃げれたとしてもどうする!? 家は焼かれ、食い物も取られ、種籾だって残しちゃくれねぇ!」


 村人たちのざわめきが少しずつ弱まる。


「それじゃ俺達、生きていけねぇぞ!!」


 誰もが分かっていた。


 本当は逃げたい。


 だが逃げた先に、生きる道などないことも。


 もし村を焼かれれば、田も、家も、蓄えもすべて失う。


 それは、この山の中では死を意味していた。


 ならば──。


 ここで戦うしかない。


 頭では理解できても、心がついていかない。


 人々の顔には迷いが色濃く浮かんでいた。


 そのとき権兵衛が続けた。


「運が良いことに、ここに三人の助っ人がおる!」


 村人の視線が一斉に動く。


「この人たちが加勢してくれると言うておるんじゃ!」


 広場の端に立つ賀津たちへ、数えきれない視線が集まった。


 七郎と藤四郎は武士らしい体つきをしている。


 だが──。


 その横に立つ賀津は女だった。


 村人の多くは戸惑いを隠せない。


(あれが……助っ人……?)


 そんな疑いの気配が、はっきりと空気に滲んでいた。


 残された時間は少ない。


 本来なら野伏せりの討伐は役人の仕事だ。


 だが役人は高山にいる。呼びに行くだけで数日はかかる。


 しかも統治が小早川家に変わってからというもの、治安は明らかに乱れていた。


 訴えたところで兵が来る保証すらない。


 つまり──。


 今この場で戦うしかないのだ。


 それでも村人たちはざわめき続ける。


 二人の武士と、ひとりの娘。


 そんな者たちに自分たちの命運を託せるのか。


 その迷いを見かねたのだろう。


 藤四郎が静かに一歩前へ出た。


 手にしているのは雷振筒。


 彼は銃口を空へ向けた。


 次の瞬間──。


 ドンッ!


 乾いた銃声が夜を裂く。


 ドンッ!


 ドンッ!


 ドンッ!


 続けざまに、六発の銃声が山々へ響き渡った。


 反響した音が谷を渡り、遠くへ遠くへ消えていく。


 広場は、完全に静まり返った。


 人々は呆然と藤四郎を見ている。


 藤四郎は雷振筒を掲げ、声を張り上げた。


「よいか!」


 その声は、普段の穏やかな彼からは想像できないほど鋭かった。


「これは雷振筒!」


 銃を高く掲げる。


「今見たように、六発の玉を打つことができる鉄砲だ!」


 ざわめきが広がる。


「我らにはこれが二挺ある!」


 藤四郎の声がさらに強くなる。


「野伏せりどもは持っておらん!」


 一瞬の間を置き、叫んだ。


「これさえあれば、落ち武者なぞ恐るるに足らん!!」


 その声は、もはや檄だった。


 村人の胸に、火が落ちる。


「や……やるぞ!」


 誰かが叫んだ。


「村を守るのは俺達だ!」


「野伏せりなんぞに好きにさせるか!」


 恐怖のざわめきが、いつしか怒りへと変わっていた。


 七郎はその様子を見て、満足そうに小さく頷いた。


「よか」


 低く呟くと、すぐさま指示を飛ばす。


「よかかッ!! 男衆(にせどん)は今から、あすこん藪で竹ば()っくいやんせ!」


 腕を振り上げる。


竹槍(たっやり)竹盾(たっだて)ばこしらっど!!」


 男たちが一斉に動き出した。


 四十人あまりが鎌や鋸を手に、夜の闇へ駆けていく。


「おなご衆は河原で(いっ)ば拾いくっのじゃ! つぶてにすっでな!!」


 三十人ほどの女たちは、もっこや籠を背負い、荘川の河原へ向かう。


「わらんべと年寄いは、家々ん戸板ば外して木柵に立てかけっのじゃ! ありったけん縄ば用意しっくいやんせ!!」


 子どもと老人たちも動き始める。


 動けない者と乳飲み子は権兵衛の家へ。


 残りは戸板を外し、簡易の矢防ぎと目隠しに使えるよう、木柵に集める。


 村全体が、ひとつの生き物のように動き出していた。


 まさに総力戦だった。


 藤四郎と七郎は村を駆け回りながら指示を飛ばし、同時に戦の布陣を考える。


 賀津は権兵衛の屋敷に籠もり、黙々と作業していた。


 雷振筒を分解し、丁寧に拭き上げ、弾丸を並べる。


 そして──。


 炸裂弾を作る。


 小さな手の中で、火薬の匂いが立ち上る。


 夜は長かった。


 それでも作業は止まらない。


 やがて東の空が白み始める頃、ひととおりの準備が整った。


 村人たちは炊き出しの粥をすすりながら、短い休息を取る。


 誰もが疲れていた。


 だが逃げようとする者は、もう一人もいなかった。


 野伏せりがいつ現れるかは分からない。


 だが──。


 いつ来てもいい。


 牛丸村は、すでに戦う覚悟を決めていた。


 そして午前十時すぎ。


 巳の三つ時。


 街道の先で見張りをしていた男が、息を切らして駆け込んできた。


 顔は真っ青だった。


「来た! 来よった!」


 声が裏返る。


「野伏せりどもが来よったー!!」

読んでくださり、本当にありがとうございます!


この作品を「続きが気になる」と思っていただけたら、

ぜひブックマークとポイント評価をお願いしますm(_ _)m


応援が増えるほどヤル気が爆上がりします……!


感想も一言でもくれたら即返信+X(旧Twitter)で感謝ポストします!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ