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Last rewrite  作者: 蒼了一


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七郎[3]

 七郎には、ふたつの願いがあった。


 ひとつは、雷振筒を手にすること。


 もうひとつは、工藤内匠頭と会うこと。


 そして、その願いはすでに叶った。


 加納宿で、夢にまで見た雷振筒を手にし、牛丸村では、骨喰党を相手に撃ちまくった。


 命懸けの修羅場だった。


 敵の刃が迫り、荒々しい野伏せりの叫びが山々に轟く。土煙と硝煙が視界を覆い、いつ自分が討たれてもおかしくない。そんな状況にあって、七郎は恐怖とは別の感情に支配されていた。


 それは歓喜。


「こげな……こげな鉄砲が、この世にあっとは……!」


 全身が震えた。


 連射性能だけではない。弾丸の直進性も、有効射程距離も、自分の知っている鉄砲とは次元が違う。戦場で数多の鉄砲を見てきた七郎の常識が、ことごとく覆されていく。


 撃つたびに驚かされた。撃つたびに胸が躍った。


 もっと撃ちたい。もっと使いこなしたい。こいつの力を、余すところなく味わいたい。


 命の危険など、頭から吹き飛んでいた。


 いや、危険だからこそ、なおさら胸が躍るのかもしれなかった。


 それでも渇きは癒えず、ますます深まっていく。


 そして、この鉄砲を生み出した男──工藤内匠頭。


 関ヶ原の折、大垣城ですれ違ってはいたが、心ゆくまで話ができたのは白雲城に来てからだった。


 雷振筒はいかにして生まれたのか。この男の頭の中には、いったいどれほどのものが詰まっているのか。


 聞きたいことは尽きなかった。話せば話すほど新たな疑問が湧き、拓真への興味は深まっていく。


 七郎にとって、拓真は単なる武将ではない。自分が心を奪われた鉄砲を生み出した、途方もない男だった。


 ふたつの願いは叶った。ならば、この城に留まる理由はない。


 それでも七郎は、白雲城を去らなかった。


 小早川秀秋への怒りは、確かにある。権力を笠に着て理不尽な要求を突きつけ、思いどおりにならなければ力ずくで押し通そうとする傲慢さは、七郎の癇に障った。


 だが、それは理由のひとつに過ぎない。


 七郎がここに留まる最大の理由は、もっと単純で、もっと始末に負えないものだった。


 ──戦がしたい。


 ただ、それだけ。


 父の家久と戦場を駆けた。伯父の義弘とともに敵陣へ突き進んだ。


 怒号が飛び交い、鬨の声が天地を揺らす。馬が嘶き、刃がぶつかり、血と硝煙の臭いが鼻を突く。


 一瞬の判断が生死を分ける。


 目の前の敵を斬らねば、自分が斬られる。


 恐怖に呑まれれば死ぬ。迷えば死ぬ。敵の動きを見誤れば、それで終わりだ。


 そんな極限の中で、七郎の感覚は研ぎ澄まされていく。


 敵の呼吸。足運び。刃の軌道。


 周囲の景色さえ、別のものに見えてくる。


 そして、敵をねじ伏せた瞬間。


 胸の奥から、何ものにも代えがたい歓喜が湧き上がる。


 生きている。


 今、自分は生きている。


 その実感を、七郎は戦場でしか得られなかった。


 武将にとって、戦は領地を守り、家を存続させるための手段である。戦そのものを目的にするなど、本末転倒もいいところだ。


 だが、七郎は疑問にすら思わなかった。


 戦うために生きる。


 生きるために戦うのではない。


 だからこそ、関ヶ原は七郎にとって、生涯消えない傷となった。


 天下分け目の大戦。幾万もの兵がぶつかり、名だたる男たちが武名を懸けた、あの大舞台。


 自分はそこにいた。


 それなのに、ほとんど戦えなかった。


 目の前の戦いを見つめながら、己の血が沸き立つのを感じていた。今すぐ駆け出したい。敵陣に斬り込みたい。誰よりも先に刃を交えたい。


 だが、それは叶わなかった。


 その悔しさが燻る胸に、あの日、雷振筒の轟音が撃ち込まれた。


 戦えなかった己が、あの轟音の中でなら、思う存分に戦える。


 七郎が雷振筒に惹かれたのは、そういうことだった。


 だからこそ、白雲城に留まった。


 いずれ、小早川秀秋との大戦が始まる。


 敵は大軍を擁し、井伊直政をはじめとする歴戦の将が控えている。戦場には無数の死体が転がり、血が大地を濡らすことになるだろう。


 多くの者にとって、それは恐ろしい未来に違いない。


 だが、七郎は想像するだけで口元が緩んだ。


 敵は何万いるのか。


 どれほどの鉄砲が火を噴くのか。


 どれほどの強敵が、自分の前に立ちはだかるのか。


 これほどの楽しみが、ほかにあるだろうか。


 戦場で命を落とすかも知れない。


 だが、それがどうしたというのだ。


 畳の上で長生きすることに、七郎は何の魅力も感じなかった。明日をも知れぬ戦場で、己のすべてを出し切る。その一瞬のために生きていると言ってもよかった。


 関ヶ原で果たせなかった思いを、今度こそ晴らすために。


 そして何より──。


 待ちに待った大戦で、思う存分に殺し合うために。


 その日が近づいている。


 そう思うだけで、七郎の胸はどうしようもなく高鳴るのであった。

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