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Last rewrite  作者: 蒼了一


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213/219

七郎[1]

 慶長五年九月十五日。


 平地を覆っていた濃霧が、ゆっくりと薄れていく。


 朝の冷気を含んだ白い帳が晴れるにつれ、その向こうから人影が浮かび上がってきた。


 ひとつ、ふたつではない。


 幾千、幾万という兵が大地を埋め尽くし、旗指物が波のように揺れている。甲冑の煌めき、馬の蹄、兵たちの怒号。


 天満山中腹の陣から眼下を見渡していた男は、思わず息を呑んだ。


 島津家に生まれ、幼い頃から戦場を住処として育った。


 戦場の何たるかは、誰よりも知っているつもりだった。


 だからこそ。


 次の瞬間、眼前で起きたことが理解できなかった。


 ──轟ッ!!


 大地を揺るがす轟音が響く。


 一発ではない。音は途切れることなく連なり、幾重もの雷鳴が地を這い回っているかのようだった。


「……なんじゃ……?」


 最前線。石田勢の陣から、凄まじい勢いで煙が噴き上がっている。


 その向こうで、黒田勢が崩れた。


 いや、崩れたなどという生易しいものではない。


 兵が次々と吹き飛ばされ、列が千切れ、隊伍が見る間に乱れていく。精強をもって知られる黒田勢が、抗う術もなく押し潰されていた。


 さらに轟音。また轟音。


 そのたびに土煙が上がり、兵が倒れていく。


「な……なんじゃ……あいは……」


 男の喉から、掠れた声が漏れた。


 鉄砲は知っている。火縄銃ならば、戦場で幾度も命を預けてきた。


 撃てば煙が上がり、弾が飛ぶ。だが一発ごとに次弾を込めねばならず、その間には必ず「間」が生まれる。


 それが鉄砲というものだ。


 ところが、眼下で使われている鉄砲にはその「間」がない。


 轟音は止まず、黒田勢が逃げ始めても、追い打つように轟音が響く。


 そして今度は、加藤勢へ。長岡勢へ。


 暴威は戦場を横切り、次々と敵を食らっていく。


 兵の叫びが風に乗って届き、次の轟音に呑まれた。


「いったい……何が起きちょっとじゃ……」


 男はただ、立ち尽くしていた。


 自分の目で見ているはずなのに、頭がそれを現実として受け入れない。


 刀を振るい、槍を突き、鉄砲の煙を掻い潜ってきた。敵の動きを読み、一瞬の隙を突いて勝機を掴む。それが彼の知る戦だった。


 だが、あれは違う。


 あれは、戦の形そのものを変えてしまう何かだ。


 この時、|中務大輔島津又七郎豊久《なかつかさのたいふしまずまたしちろうとよひさ》の運命は変わってしまった。


 後に、彼は知ることとなる。石田勢が用いた、あの異様な鉄砲の名を。


 ──雷振筒。


 その名を知るよりも先に、七郎の魂は、あの雷鳴に撃ち抜かれていた。

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