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Last rewrite  作者: 蒼了一


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山寺[3]

「それでは御院主は、荷の中身をご存じないと」


「知らぬが仏、と申しますからな。箱はすべて封じられておりました。拙僧は中身など存じません」


 それでいい。むしろ、その方が都合がいい。中身を知らないからこそ、考顕の証言には余計な脚色が入り込んでいない。


 そして、持ち込んだ男が栢谷典膳であることは、ほぼ間違いない。荷駄方としての立場を使えば、十頭の馬と二十人の足軽を動かすことは難しくない。戦の混乱に紛れ、小早川家の重要な荷という体裁を取れば、誰も怪しまないからだ。


「頼んできた男は、なんと名乗っていましたか?」


「たしか……小山様……でしたな」


 勘兵衛は表情を変えなかった。だが、心の中では即座に答えが出ていた。


 ──偽名だ。


「左様でござるか。しかし、それほどの荷物を預かるのは、大変だったのでは?」


 勘兵衛は境内を見渡した。三百貫を超える荷物を二畳ほどの広さに並べれば、それだけで腰ほどの高さまで積み上がる。これだけの量を、寺のどこへ置いたのか。


「裏手に炭小屋がございましてな。あの頃はまだ使っておりませんでしたので、とりあえずそこへ置きました」


「なるほど……」


 勘兵衛は小さく頷いた。また一つ、推理が現実と重なった。物的証拠はまだない。だが、考顕が嘘をつく理由もない。ならば、これは事実と認定してよいだろう。


「それで……その小山某は、いつ頃荷物を引き取りに来ましたか?」


「そうですな……確か、雪が降り始めた頃でしたから、ふた月ほど後でしたかな」


「ふた月……」


 勘兵衛の頭の中で、時間の流れが組み上がっていく。


 考顕の話によれば、典膳は荷駄方の兵ではなく、雇った馬借を連れてきた。しかも、一度にすべてを運び出すことはせず、一か月ほどの期間をかけ、三回に分けて運び出したという。


 搬入の時とは、まるで違うやり方だった。あの日は荷駄方としての立場を使い、大人数で一気に運び込んだ。だが引き取りは私事にすぎない。大人数で目立つより、時間をかけて分割し、痕跡を薄める道を選んだのだろう。


 その手口からも、典膳という男の慎重さが窺い知れた。


「それで、御院主様ならば、その小山某という男の顔は分かりますな?」


「申し訳ありませぬ。拙僧は、あまり係わりませんでしたので。顔はおぼろげにしか覚えておりませぬ」


 そして、ふと思い出したように続けた。


「ですが、寺男の喜平なら、よく覚えているでしょう」


「喜平?」


「おい、喜平!」


 考顕が声を上げる。しばらくして、境内の奥から一人の男が姿を現した。


 背は低いが、肩幅が広く、肉付きもいい。いかにも力仕事に向いた体つきをしている。年の頃は四十前後だろう。そして何より目についたのは、額に残された古い刀傷だった。


 勘兵衛は、その傷を一目見て、この男がかつて足軽として戦場に出ていたのだろうと察した。


「喜平。そなたは小山某の顔を、今でも覚えているか?」


「へえ。よおく覚えております」


 喜平は即答し、額の傷を撫でながら苦笑する。


「あの時は、小山様に随分と打擲されましたから」


「ほう……」


 勘兵衛の目が鋭くなる。


 喜平は搬入の際、荷物の運搬を手伝わされたという。その時、うっかり箱の一つを落としてしまった。幸い、箱の一部が壊れただけで、中の物に大きな損傷はなかった。だが──。


「小山様は、それはもう酷く怒りましてな。何度も殴られました。あの時の恐ろしい顔は、今でも忘れられません」


 その言葉に、勘兵衛は静かに頷いた。


「左様か。それほどの目に遭ったのであれば、顔を見間違えることはないな」


「へえ。あの顔を忘れろと言われても、無理でしょうな」


 喜平はそう言って、懐へ手を入れた。


「それで……その時に、このようなものを」


 取り出したのは、小さな布包みだった。勘兵衛の視線が、その包みに吸い寄せられる。


「これは?」


「開けてみなされ」


 喜平が布を解いた。中から現れたものを見た瞬間──。


「なんと!?」


 勘兵衛の声が、思わず上ずった。


 そこにあったのは、見間違えようのない雷振筒の弾丸だった。小さな弾丸が、掌の上で鈍い光を放っている。四年前、典膳が運び込んだ荷の一部。その現物が、今こうして目の前にある。


「箱からこぼれたものです」


 喜平が説明した。


「あの時は夜だったので、全部は拾いきれませんでした。これは翌朝、見つけたものです」


 勘兵衛は弾丸をじっと見つめた。ここまで来れば、もう疑う余地はほとんどない。推測が証言になり、証言が物証になった。そして、その二つが一本の線となって、栢谷典膳へと繋がっている。


 勘兵衛は弾丸を慎重に布へ戻した。


「御院主」


「はい」


「しばらく、喜平をお貸しいただきたいのですが、よろしいか?」


 考顕は一瞬も迷わなかった。


「はい。近江宰相様の御家老様のお頼みでしたら、如何様にも」


「かたじけない」


 勘兵衛は深く頭を下げた。


 これで終わりではない。むしろ、ここからが始まりだ。


 勘兵衛は喜平を伴い、山寺を後にした。向かう先は佐和山。城主、島左近に、すべてを伝えるために。

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