↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last rewrite  作者: 蒼了一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/245

残酷[2]

「手負いの者は後ろへ下げよ! 亡骸は一所(ひとところ)に集めるのだ!」


 重綱の檄が飛ぶ。


 その声に応じ、兵たちが慌ただしく動き始める。


 だが、誰もが疲弊していた。


 先ほどまで繰り広げられていた戦闘は、あまりにも苛烈だった。


 第一陣、およそ五百。


 そのうち、死傷者は二百人近くに達している。


 一度の戦闘でこれほどの損害を被ることなど、そうあるものではない。


 血に染まった胴丸。苦痛に呻く者。仲間の亡骸を運びながら、唇を噛みしめる者。


 つい先ほどまで、敵を追い詰めたという高揚感に包まれていた兵たちの顔には、今や疲労と緊張が色濃く浮かんでいた。


 生き残った三百人は、負傷者とともに白川砦まで下がる。


 入れ替わるように、後続の兵が前へと進み出た。


 第二陣、およそ六百。


 こちらはすでに敵を追って大牧村を越え、さらに先へと進んでいる。


 重綱の手元に残された無傷の兵は、これで七百。


 後方の広場から大牧村の入口にかけて、細長く伸びた道に兵たちが展開している。


 だが、道幅は狭い。


 兵が増えれば増えるほど、隊列は間延びし、互いの距離が開いていく。


 大牧村の確保は手つかず、死者の収容も始まったばかり。


 戦場の整理はまったく終わっていない。


 誰もが次に何をすべきかを考えながら、目の前の作業に追われていた。


 その時だった。


 西側の山。


 木々が密集する森の奥から、凄まじい音が轟いた。


 バババババババババババババババッ!!!!!


 乾いた爆発音。


 兵たちの動きが、一斉に止まった。


 次の瞬間。


 パン! パン! パパパパパパパパパパーン!!


 バチバチバチバチバチバチバチィィィッ!!!


 一発や二発ではない。


 森の奥で、爆発音が次々と連鎖していく。


 木々が震え、鳥たちが一斉に飛び立った。


 何が起きているのか分からない。


 だが、戦場に身を置く者ならば、その音が意味するものを知っていた。


「鉄砲だ!」


「山の中に敵がいるぞ!」


「伏せろ! 撃ってくる!」


 兵たちの間に、たちまち動揺が広がった。


 誰もが山の斜面へと目を向け、身構える。


 だが、弾丸は、飛んでこなかった。


 ただ、爆竹を何十本も一度に鳴らしたような、けたたましい音だけが森の中から響き続けている。


 銃撃ではない。


 しかし、銃撃ではないと断じるには、音があまりにも不気味だった。


 何が起きている?


 敵はどこにいる?


 重綱が森の奥へ目を凝らした、その時。


 木々の隙間から、何かが飛び出した。


 空を舞い、弧を描きながら、こちらへ向かってくる。


 両手のひらに収まるほどの、小さな壺。


「何だ、あれは……?」


 誰かが呟いた。


 壺は兵たちの頭上を越え、地面へ落下した。


 次の瞬間──。


 ドンッ!


 壺が炸裂した。


 土煙が噴き上がり、無数の石や陶片が周囲へ飛び散る。


 近くにいた兵が、何が起きたのか理解する間もなく、地面へ叩き伏せられた。


「うわああっ!」


「何だこれは!?」


「敵! 敵だぁー!」


 悲鳴が上がる。


 だが、それは一発では終わらなかった。


 森の奥から、次々と壺が飛来する。


 ひとつが地面に落ち、炸裂する。


 その直後、別の場所でまた爆発が起こる。


 石と陶片が飛び交い、土煙が視界を覆い隠していく。


 どこから飛んでくるのか分からない。


 次はどこに落ちるのかも分からない。


 兵たちは身を伏せようとするが、伏せるべき場所すら判断できない。


 逃げようとする者が、隣の兵とぶつかる。


 隊列が崩れ、怒号が飛び交う。


 先ほどまで整然と並んでいた七百の兵は、瞬く間に恐慌状態へ陥った。


 重綱は歯を食いしばり、飛来する壺と森の奥を交互に見やった。


 敵は、どれほどの数を潜ませている?


 鉄砲なのか。


 それとも、見たこともない新たな兵器なのか。


 判断がつかない。


 そして、判断できないことこそが、何よりも恐ろしかった。


 その頃。


 山の上では、賀津が発射筒の前に立ち、煙の向こうに広がる戦場を見下ろしていた。


 傍らには十名の兵と長吉、そして藤四郎。


 彼らの足元には、使い終えた木製の筒と、空になった箱が転がっている。


「お賀津様! 弾は全て撃ち尽くしました!」


 兵の報告に、賀津は満足そうに口角を上げた。


「よっし! あとは六左のオッサンに任せて、俺たちは引き上げるぞ!」


「はっ!」


 兵たちが慌ただしく撤収の準備に取りかかる。


 賀津は最後にもう一度、山の下へ目を向けた。


 木々の隙間から敵兵たちが右往左往する姿が見える。


 それを見届けると、彼女は小さく息を吐いた。


 これでいい。


 自分達が敵を殺し尽くす必要などない。


 敵の目を、耳を、意識を、すべて山へ向けさせ、混乱を引き起こす。


 その隙さえ作れれば、六左の奇襲は成功する。


 そして、その狙いはすでに果たされていた。


 賀津が用いたのは、拓真が龍仙寺で設計した兵器、迫撃砲である。


 飛翔装置を取り付けた陶器の壺に火薬を詰め、発射筒から撃ち出す。


 雷汞さえあれば製造できる、簡素な構造の兵器だ。


 砲身には、くり抜いた丸太の内部に鉄板を敷き、外周を縄と鉄輪で補強したものを用いている。


 この時代には、すでに青銅砲の代用品として木砲が存在していた。


 そのため、発射筒の製造そのものは、さほど難しくない。


 従来の木砲との違いは、弾丸ではなく、雷汞によって着火する飛翔装置を取り付けた迫撃弾にあった。


 砲身の内部で火薬を爆発させる木砲とは異なり、発射筒そのものにかかる負担は小さい。


 耐久性は、格段に上がった。


 賀津は十名の兵と長吉を伴い、山の上から二門の迫撃砲で弾を撃ち込んだ。


 その数、二十発。


 陶器の生産が追いつかず、弾薬には限りがある。


 派手に撃ち続けられるほど、余裕のある兵器ではない。


 だからこそ、一発一発の使い道は慎重に選ばなければならなかった。


 今回の目的は、敵兵の殲滅ではない。


 大量の爆竹を鳴らし、山の上から迫撃弾を撃ち込む。


 敵の意識を山へと引きつけ、混乱を生み出す。


 そのためだけに、二十発の弾を使ったのだ。


 賀津は、すでにその成果を確認した。


 敵は山を見ている。


 爆発の正体を探ろうと、周囲を警戒している。


 だからこそ、敵は気付かない。


 水堀の向こうから何が迫っているのか。


 堀の水面が大きく揺れた。


 浅い水を蹴散らし、対岸の森から兵たちが一斉に飛び出してくる。


 先頭を駆けるのは、槍を手にしたひとりの男。


 その顔に、迷いはない。


 水野六左衛門勝成。


 率いる兵は三百。


 敵が山に気を取られている、今こそが好機だった。


 六左は鋭く目を細め、前方の混乱を見据えた。


「行くぞッ!」


 飛沫を上げて、三百の兵が一斉に駆け出す。


 水堀を越え、敵の側面へ。


 重綱が異変に気づいた時には、すでに遅かった。


 爆音と迫撃弾に紛れ、別の災いが降りかかってきたのである。

読んでくださり、本当にありがとうございます!


この作品を「続きが気になる」と思っていただけたら、

ぜひブックマークとポイント評価をお願いしますm(_ _)m


応援が増えるほどヤル気が爆上がりします……!


感想も一言でもくれたら即返信+X(旧Twitter)で感謝ポストします!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。