贄玉[1]
拓真がこの時代に滞在した十五日間。
そのすべてが、雷汞の製作に費やされていたわけではない。
むしろ拓真は、残された時間の一分一秒を惜しむように、別の可能性を探り続けた。
絶望的な戦力差。
雷汞を増産したところで、それだけでは埋め切れない。
兵を増やすことは出来ない。
時間も増やせない。
ならば、知恵と工夫で乗り越える。
そのために拓真が目をつけたものの一つが、弾丸だった。
火縄銃の弾丸は球形である。
鋳造が容易で、多少形が歪んでいても発射出来る。だが、その一方で、銃身との間に隙間が生じるため、火薬の爆圧を効率よく弾丸へ伝えることが出来ない。
そこで考案したのが、釣鐘のような形をした弾丸だった。
ミニエー銃に用いられたプリチェット弾を、その発想の元としたものである。
構想そのものは、拓真が龍仙寺にいた頃からあった。
雷振筒の弾丸を開発する過程で試作され、形状を変え、寸法を変え、何度も作り直された。
円筒形の胴体。
その先端は尖り、その姿はまさしく小さな釣鐘だった。
そして実際の釣鐘のように底部が凹んでいる。
拓真が考えたのは、褐色火薬を糊で固めて作ったカートリッジを、その凹みに接着してしまう方法だった。
弾丸と火薬を一体化する。
発想はケースレス弾に近い。
だが、雷振筒では採用しなかった。
連射を前提とした場合、ケースレス弾には薬莢のような冷却効果がないため、排熱という大きな問題が付きまとうからだ。
雷振筒に求められているのは、一発の威力だけではない。
確実に撃てること。
続けて撃てること。
そして何より、安全であること。
その条件を満たせないものを、拓真は採用しなかった。
だが、そこで得た知識と経験が、無駄になったわけではない。
今度は、それをここで活かす。
拓真が賀津に持ちかけたのは、単純な発想だった。
雷振筒には採用しなかったこの弾丸を、既存の火縄銃に転用する。
「タクミサマ、それって龍仙寺で作ったよな。あれを使おうって話か?」
「ああ。雷振筒じゃ使わなかったけど、種子島の弾にならいいんじゃないか?」
「そっか……なるほど…………。たしか龍仙寺でも、種子島を改造したっけ……。あれだったらまた作れるけどよ。そんなに変わるかな?」
「少なくとも、今よりは良くなるよ」
拓真はそう答えた。
確信があったわけではない。
だが、試す価値はある。
それだけは確かだった。
こうして、プリチェット弾の製作が始まった。
とはいえ、これは新しい武器を一から開発するような話ではない。
拓真にも賀津にも、龍仙寺で積み重ねた経験がある。
何を作ればいいのか。
どこを変えればいいのか。
その答えは、すでに二人の頭の中にあった。
手元に型はないが、拓真が当時を思い出しながら原型を削り出す。
完成図が頭にあるおかげで、考案した翌日には試作品が完成した。
*
「じゃあ藤四郎さん、とりあえず十発。連続して撃ってみて。あ、危ないと思ったら止めていいから」
「はっ、承知しました」
藤四郎は頷くと、改造された火縄銃を手に取った。
いつもの種子島とは、どこか様子が違う。
それでも藤四郎は何も言わなかった。
長年、火縄銃を扱ってきた者だけが持つ、静かな集中がその顔に浮かんでいる。
銃を構える。
狙いを定める。
そして──。
轟音が山間に響いた。
一発。
藤四郎の手が動く。
再装填。
再び構える。
轟音。
二発。
三発。
四発。
間髪を入れず、乾いた発砲音が続いた。
十発。
最後の銃声が山肌に反響し、やがて静寂が戻ってくる。
現場にたまたま来ていた源次郎と六左は、しばらく言葉を失っていた。
「雷振筒ではないのに……これは驚きました!」
「こりゃあ、たいしたもんだ!」
二人が驚いたのは、威力ではない。
その連射速度だ。
火縄銃を撃つには、本来いくつもの手順が必要になる。
一、銃口を上へ向け、火薬を入れる。
二、弾丸を挿入する。
三、カルカと呼ばれる槊杖で弾丸を押し込み、先に入れた火薬と圧着する。
四、銃を水平に戻し、火皿へ火薬を充填して火蓋を閉じる。
五、火鋏に着火した火縄を挟む。
ここまでやって、ようやく発射準備が整う。
あとは構えて火蓋を外し、引き金を引く。
そして次弾を撃つためには、火縄を一度外し、さらに銃身内を清掃しなければならない。
これだけの手順がある。
通常の火縄銃なら、再装填から発射まで三十秒から四十秒。
熟練した者でも二十秒程度は必要だった。
それが──。
藤四郎の再装填間隔は、十秒にも満たなかった。
藤四郎が火縄銃の扱いに長けていることは間違いない。
だが、それだけでは説明出来ない。
どれほど技量が高くても、手順そのものを省略することは不可能だからだ。
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