表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last rewrite  作者: 蒼了一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/106

典膳暗躍[4]

 即答だった。


 そのあまりの躊躇のなさに、三成の内で何かが軋む。


「貴様……何を言っているのかわかっているのか?」


「無論にございます」


 典膳は穏やかに、しかし確固として言い切った。


「ですが、この件が大事になれば──宰相様にとって、大きな災いとなりましょう」


 その言葉は、まるで氷の刃のように、静かに突き刺さった。


「……どういうことだ?」


「私の調べましたところ、雷振筒は闇で数十挺が流れているとのこと」


 雨音が、遠のいた気がした。


 三成の意識が、その一言にすべて引き寄せられる。


 数十挺──。


 その数は、あまりにも重い。


「もしかしたら、宰相様もその事にお気づきになっておられるのでは?」


 典膳の視線が、じっと三成を射抜く。


 逃げ場はない。


 ──此奴は知っているのだ。


 龍仙寺衆が六十挺の雷振筒を紛失していることを。


 島左近を中心に、極秘裏に調査を進めているにもかかわらず、いまだ糸口すら掴めていないことを。


 その事実を、この男は掴んでいる。


 なぜ。


 どうやって。


 思考が追いつかない。


 ただ確かなのは、主導権がこちらにないということだった。


「……仮にお主の言うことが誠だったとして、それをなぜ今、儂に言うのだ?」


 ようやく絞り出した問い。


 だがその声には、先ほどまでの鋭さはなかった。


「この件は、それがしが責任を持ってお調べいたします。ゆえに、真相がわかるまでお待ち頂きたいのです」


 典膳は一歩も引かず、言葉を重ねる。


「もし何十挺もの雷振筒が闇に流れていることが世に知れ渡れば……一体どのようなことが起きるか」


 わずかに目を細め、低く続けた。


「ああ、考えるだに恐ろしいことでございます」


 静かな声音。だが、その裏にあるものは明白だった。


 脅し──。


 いや、それ以上だ。


 現実の提示。


 石田家が龍仙寺衆を擁することが許されているのは、厳格な統制への信頼あってこそ。


 それが崩れればどうなるか。


 五大老としての立場も、政治的信用も、すべてが瓦解する。


 ──追い込まれている。


 三成は理解した。


 そして同時に、認めざるを得なかった。


 この男は、自分の急所を正確に掴んでいる。


「……待てというのは、どれくらいだ?」


 言葉を選びながら問う。


 すでにこれは、拒絶できる類の話ではない。


「まず、一年」


 典膳は迷いなく答えた。


「それだけお待ち頂ければ、闇に流れた雷振筒、必ずや突き止めてみせまする」


 沈黙が落ちる。


 雨音だけが、時を刻む。


 長いようで、短い時間だった。


 やがて三成は、ゆっくりと口を開く。


「今その話をしたということは……内ヶ島の件も含めて、ということか?」


「さすが宰相様」


 典膳の声に、かすかな満足が滲む。


「内ヶ島の件は、しょせん一揆まがいの小競り合い。一年のお時間をいただければ、すべて解決いたしまする」


 その言葉を聞いた瞬間、三成の中で何かが音もなく沈んだ。


 理はある。


 だが、それを貫けば、自らが崩れる。


 ならば──。


 選べる道は、ひとつしかなかった。


 こうして、石田三成は沈黙した。


 その沈黙によって、小早川は一年の猶予を得る。


 後に直江兼続が違和を覚えることになる、あの煮え切らぬ態度。その根にあるのは、まさにこの瞬間だった。


 ──そして。


 三成は、まだ知らない。


 目の前で静かに頭を垂れているこの男こそが、六十挺の雷振筒を盗み出した張本人であることを。


 雨はなおも降り続けている。


 その音は、まるで何かが静かに崩れていく気配を、覆い隠すかのようだった。

読んでくださり、本当にありがとうございます!


この作品を「続きが気になる」と思っていただけたら、

ぜひブックマークとポイント評価をお願いしますm(_ _)m


応援が増えるほどヤル気が爆上がりします……!


感想も一言でもくれたら即返信+X(旧Twitter)で感謝ポストします!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ