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Space Sights  作者: 津辻真咲
8/14

ひこうき雲は地球儀の中から見た白い赤道

「エリカ」

廊下を歩いている彼女をサラ・ブラウンが遠くから引き留める。

「前回の調査、騒ぎになっているよ」

 サラ・ブラウンが笑顔で容赦なく、その話題に触れる。

「あの人工惑星の知的生命体たちに姿見られてたでしょ?」

「はい」

「あの惑星で、宇宙生命体か、新種の生物扱いされてる」

「はい」

 エリカの返事をする声がだんだん小さくなっていく。

「それで〈連合調査課〉の手伝いに行ってもらってもいい?」

「はい、え?」

エリカは少しきょとんとし、サラ・ブラウンの方をみた。すると、サラ・ブラウンはエリカではなく、別の方向を向いていた。

「そこに隠れている須木君もよ?」

サラ・ブラウンの声が遠くまで響く。廊下の曲がり角で壁にもたれていた通は少し顔を覗かせた。

「分かってるよ」

彼は渋々、返事をした。


頭上には、〈アンドロメダ支部 連合調査課 第1係〉の文字が書かれたプレートがある。

――わぁ。

エリカが通路の角から中を覗くと、たくさんの職員たちが忙しそうに立ち歩いていた。

連合調査課は、今、久しぶりにどよめきたっていた。それは、新しく宇宙生命体が宇宙連合へ加入するからだ。

 連合調査課とは、新たに宇宙生命体が宇宙連合へ加盟する際、その宇宙生命体の主要人物たちと連絡を取って、科学力を調べたりする課である。

「エリカ」

 少し優しい呼び声が聞こえてきた。エリカはその方向へ視線をやる。

「あ!」

 エリカはその方向を見て、表情を明るくする。そこには、優しく微笑む連合調査課の職員が立っていた。

彼女は大洲戸らりあ(おおすと らりあ)。エリカの旧友で、連合調査課の中では珍しく人類である。

容姿は淡い茶色の虹彩と髪色をしており、ミディアムボブの髪はとてもやわらかく空気を抱えていた。

「らりあ、久しぶり」

エリカは笑顔で手を振った。

「上司から聞いてる。応援調査に来てくれたんでしょ?」

「うん」

大洲戸らりあは、笑顔でエリカを迎え入れてくれた。

「隣の方は、須木通さんですね?」

「あぁ」

 大洲戸らりあはエリカの隣の通にも笑顔を向ける。

「今回の調査は、宇宙連合へ加入する宇宙生命体の方々がパニックを起こさないように科学力を調査して、〈連合加盟課〉へ報告をする事」

 連合加盟課とは調査報告を受けて、実際に加入する知的生命体の主要人物たちに接触し、連合加入手続きをしたり、宇宙連合加盟国のルールを知らせたりする課である。

「でも、今回はネット投票で人工惑星の保護が過半数にならなかったでしょう?」

「うん」

 エリカは頷く。

「だから、宇宙生命体の方々には宇宙コロニーへ移住してもらう事になったの」

「そっか」

大洲戸らりあが説明してくれた。

ネット投票で保護派が過半数を超えなかった場合、その惑星や人工惑星の生命体は保護されない。しかし、文明を持つ知的生命体だと確認された生命体がいる場合は、その知的生命体のみを移住用宇宙コロニーへ招き入れるというルールになっている。

「それで、君のパートナーは?」

説明をしてくれていた大洲戸らりあに通が尋ねた。

「紹介しますね。あちらに……」

「ポール・真我ポール・シンガと申します」

大洲戸らりあが紹介しようとした時、少し細めな体型で長方形の眼鏡をかけた青年が声を遮ってこちらへやってきた。彼は黒い虹彩に黒い髪、そして黒ずくめの服を着ていた。喪服を思わせるような四角四面の雰囲気は、彼特有の世界観だ。

「よろしく」

「はい」

ポール・真我は笑顔で握手を求めた。

「よろしく」

「こちらこそ」

今度は、隣の通と握手をした。

「それじゃ、そろそろ出発時間だし、出国ターミナルへ行こう?」

大洲戸らりあはエリカに微笑みかける。

「うん」

エリカは嬉しそうに返事をしていた。



「らりあ」

「何?」

 大洲戸らりあはエリカに話しかけられ、彼女を見る。

「桜色の雨が一年中降っているって知ってた?」

「そうなの? 楽しみ」

大洲戸らりあはエリカに微笑んだ。

――あいつは、俺たちのミスでこうなっている事を分かっているのか?

通は横目でエリカを見ていた。彼は自身とエリカの失敗に少し責任を感じているようだ。

すると、それをポール・真我が黙って見ていた。彼は意外と周りを観察する能力が高い。

《おうし座プレアデス星団M45の惑星系第12惑星に到着しました。おうし座プレアデス星団M45の惑星系第12惑星に到着しました》

4人の頭上のスピーカーからアナウンスが流れてきた。それと同時に微かに低い地響きが聞こえてきた。

エリカは不思議に思い、窓の外に目をやる。

「え!?」

エリカは、思わず声に出して驚いてしまった。なぜなら、窓の外にもう1機スペース・シャトルが到着していたからだ。

「どこの部署よ!」

大洲戸らりあは窓に両手をつき、顔を近づける。

ピピピ……。

ポール・真我に内蔵されている通信機器に報告が届いた。

「らりあ」

「何?」

大洲戸らりあは、勢いよく振り返った。少し苛立ちを覚えているみたいだった。

「向こうのスペース・シャトルは連合加盟課らしい」

「え!?」

 大洲戸らりあには意外だったらしい。少し大きめの声で驚いていた。

「もうすでに、この惑星の知的生命体たちがいろいろと勘づいているから、らしい」

ポール・真我は大洲戸らりあの様子など気にせず、淡々と答えた。

「仕方ない。合同調査だわ」

大洲戸らりあは一つ溜め息をつき、腕組みをした。

 今回は、エリカと通の二人が知的生命体たちに目撃されたことにより、惑星外生命体だと知的生命体たちが勘づき始めた。なので、連合調査課は連合加盟課の応援調査をすることになったのだ。よって、エリカと通は応援調査のそのまた応援調査を行っているということになる。


エリカたちがいる空間のドアが開いた。

「初めまして。我々が今回この惑星を担当することになったアンドロメダ支部の連合加盟課のコッカ・イチュと申します」

「と、コクイ・ローです」

エリカたちが振り向いたそこには、二人の宇宙生命体たちがいた。

「今回は、知的生命体たちが攻撃という選択肢を選ぶ前に会談を行う。君たちも我々に同行し、その会談が終わり次第、知的生命体たちの宇宙コロニーへの誘導を頼みたい」

「分かりました」

「応援調査の具体策の資料を下さい」

大洲戸らりあとポール・真我は慣れた様子で返事をした。



2機のうちの1機のスペース・シャトルがこの間の更地へ着陸した。もう1機は、上空で待機中である。連合調査課も連合加盟課も着陸した1機の方へ搭乗し直していた。

「もうすでにこの惑星の主要人物たちには、連合加盟課の広報係から連絡がいっている。あとは我々が直接、会談を行うだけだ」

「はい」

コッカ・イチュの説明に、皆返事をした。

「今回はワープを行う。主要人物たちの居場所はこのドーム型都市の中央の高層ビルらしい。では、行きます」

隣のコクイ・ローは、そう言うと、ワープ専用機器を作動させた。

ヒュン。

エリカたちは全員、主要人物たちのいる会議室へワープした。

――ここが。

エリカは慣れないことに少し緊張していた。もちろん、調査しかしたことのない通もだ。

「初めまして。アンドロメダ支部連合加盟課から参りました、コッカ・イチュと申します」

「それと、コクイ・ローです」

二人は、それぞれ名を名乗った。知的生命体の代表団の前で。

「宇宙連合加盟の手続きに参りました。代表者はどなたでしょうか?」

二人は表情を変えず、尋ねる。

「私です」

真ん中の席にいた女性の知的生命体が席を立ち、前に進んできた。それに続き、周りの主要人物たちもやってきて、後ろで横一列に並んだ。

「この惑星についての資料を事前にもらいました。私たちは操られていたのですか?」

その代表者は悲しそうな表情をしているように見えた。

「いいえ。私たち宇宙連合はこの惑星の環境には手を出しておりません。ただ、宇宙環境の変化から保護をしていただけでございます」

「心配はいりません」

コッカ・イチュとコクイ・ローは、順に答える。コクイ・ローは、少し表情を柔らかくしていたように見えた。

「では、始めます。調査員の4人は、室外で誘導の準備を」

「はい」

大洲戸らりあとポール・真我は、返事をする。コッカ・イチュは一層、真剣な目の色になり、代表団の方を向き直した。



「もうすぐやって来る宇宙コロニーへの誘導人員の代表として、私たちは仕事を行います。そして、住民に対する宇宙コロニーへの移住説明は、ここの知的生命体の代表者の方に行ってもらいます」

「はい」

大洲戸らりあの説明に皆返事をする。すると。

ガチャ。

手動のドアが開いた。

「手続きは終了した。誘導内容はすでに各自の内蔵機器へ送信済みだ。見ておくように。では」

コッカ・イチュとコクイ・ローは、立ち去った。その前にコクイ・ローは、少し口角を上げて立ち去る挨拶をしていた。

「さ、行こう」

生命体のほとんどに内蔵されている通信機器の受信覧を、先に見ていたポール・真我が言った。



「今日説明して、今日移住できるのか?」

通は腕組みをして壁にもたれて尋ねる。

「誘導人員はたくさん導入されているし、上層部は自分たちの都合で時間を指示している。だから、知的生命体たちの気持ちなんて見ていない。宇宙生命体なんてたくさんいる。どこかで四捨五入しなくては」

「そうか。分かった」

通は目線を落とし、立体映像型操作パネルで誘導内容を確認した。


 頭上から影が落ちてくる。

――移住用の宇宙コロニー。

通もエリカの隣で見上げる。

宇宙コロニーが地表へ着陸すると、知的生命体代表者の指示なのかドーム型シールドの半径が1.5倍に大きくなった。そのせいか、宇宙コロニーの巨大な正面入り口は雨にぬれずに開いた。

 エリカたちは正面入り口で降りて来る誘導人員の方々を迎えた。

「確認している通り、人工惑星計画破壊までアンドロメダ時間2時間です。では、始めてください」

「はい」

大洲戸らりあの言葉に大人数の人員が返事をして、散らばって行った。

「エリカたちはこのシールド内を巡回して? 私たちはここで指揮をとっているから」

大洲戸らりあがエリカたちの方へ振り返り、笑顔で指示を出した。

「うん」

エリカが返事をした。

「行くぞ」

通は指示を聞くとすぐ、歩き出した。

「待って」

そんな通をエリカは走って追いかけた。



「ねぇ」

「どうした?」

シールド内を歩きながら、エリカは通へ話しかけた。

「人工惑星の計画破壊って、どうやって行われるの?」

「別に。ただ大気圏の上にある保護シールドを開放するだけだ」

通は目を逸らし、エリカの方を見ずに答えた。

「そうやって自動的に惑星環境を変化させ、生物たちを死滅させるんだよ」

「そっか」

エリカは少し下を見た。

「こら、お前たち! 早く移住の支度をしなさい」

――え!?

突然の叫び声に二人は、思わず振り返った。


――もしかして?

エリカたちの頭上を知的生命体の子供たちがフリーランニングして去って行った。

「あいつら」

このドーム型シールドの都市の自警団の男性が息をきらして走ってきた。

「大丈夫ですか?」

珍しく通が話しかけた。

「えぇ、大丈夫です」

その男性は、表情を緩めて答えた。

その一方、エリカは子供たちの方を見て追いかけようとしていた。なぜなら、その子供たちの中に前回来たときに遭遇した少女がいたからだ。

「須木君」

 エリカは通へ話しかける。

「何だ?」

 通が振り返ると、ちょうどエリカの後ろ姿が見えた。

「私、ちょっと追いかけてくる」

「は?」

「じゃ」

「え、ちょっと待て」

 通は慌ててエリカの方へ手を伸ばすが、エリカは返事を聞かず、初速度がほとんど重力脱出速度になるほどの速さで後を追いかけた。


「待って!」

エリカは、屋上を伝っていく。

――気付いているかな?

エリカはもう一度叫ぶ。

「待って!」

 すると、一番後ろにいた少女が振り返った。

「あ、この間の人!」

少女が振り返ってエリカを指差した。

「ねぇ。どうして、フリーランニングしているの?」

エリカは、大きな声で尋ねた。

「え?」

 少女はきょとんとした表情で何も答えない。

「早く移住しないと、この人工惑星、崩壊しちゃうの」

エリカも必死に少女のあとをついていく。

「見納め」

 少女はくるっと縦に回転して、エリカの質問に答えた。

「だって、この荒地都市オアシスの景色好きなんだ」

 少女はもう一度回転する。そして、一番高いビルの屋上へ着地した。

「ごめんね」

 エリカが少女へ謝った。それを見て、少女はきょとんとした。

「勝手に移住しろなんて」

エリカは申し訳なさそうにした。すると、少女は2~3歩エリカに近づいて立ち止まる。

「怒るわけないよ。この惑星を守ってくれていたんでしょ? 隕石からも」

少女は笑顔になった。


「あ、何あれ!?」

後ろにいた男子が空を見上げて言う。

エリカは、目を疑った。

青空に白いシールドの切れ目が一層深く入っていく。

――シールドが開いていく?

「誤作動だ! この人工惑星のメイン・コンピュータが時間を間違えたんだ」

「須木君!?」

通がエリカたちのあとを追ってきていた。

「どうするの?」

通はエリカの問いに答えられなかった。

――一体、どうすれば。

通はただ、白い線を見ていた。


「私、メイン・コンピュータの所へ行きます」

エリカが沈黙を破った。

「私が直接、時間を書き換えます」

「それじゃお前が……」

 通は珍しく、判断に迷った。

「私は大丈夫、機械です」

エリカのその言葉に通は一瞬固まった。

「だから、須木君は避難してください」

エリカは自分が逃げ遅れていなくなるかもしれないという恐怖など知らないままの心で、少し元気なく微笑んでいる。通にはそう見えた。

「科学は生命体の為にあるんです」

 エリカは微笑む。

 通はその笑顔を見て、下を向く。

通は長年封印してきた機械への憤りを思い出した。人類に振り回されて戦い、人類の都合で悪者にされ、自由意志まで組み込まれた事。

――どうして、対立しない?

――どうして、人類に優しい?

――どうして、自由になりたがらない?

「俺らの先祖は、最悪だな……」

通は微かにつぶやいた。積年の思いと共に。そして行動に移した。目の前で失われに行くと言った、心の強いたった一人の女の子を失いたくなくて。

「命は心だ」

「?」

エリカは、きょとんとしていた。

「だから、自由意志のあるお前も生命体だ! 早く戻って来い、お前も一緒に避難するんだよ!」

通の声が自然と大きくなった。

「待っててやるよ。絶対戻って来い。一緒に避難だ」

通は、少し苦笑した。

「はい」

――機械の私が生命体扱いされました。SHINOHARA。

エリカは笑顔を見せて顔を赤くした。

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