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Space Sights  作者: 津辻真咲
9/14

「エリカ!」

通の声を背に受けてメイン・コンピュータのあるセンター・ゼロへ向かった。そこは、この人工惑星を生成した当時に作られた大気圏シールドを制御する人工知能のある場所である。

エリカはしばらく走って移動すると、ある所で足を止めた。

――通信機器の情報によると、このビルの下。

エリカは目の前に佇む高層ビルを見上げる。

――どうやって地下へ?

エリカは地面を見てみるが、そこはこの惑星の知的生命体によって作られた化学物質で覆われているだけだった。そのため再びエリカは通信機器の情報へ目をやった。

――経緯度どちらも25度。やはり、ここ。

エリカはビルの裏へ回った。そして、地図と地図のデータを突き合わせてみた。

――ここの下に垂直150メートルのたて穴の通路がある。

地表を覆う化学物質が邪魔である。なので、エリカは表面を右手で叩き割った。割れた化学物質を払い、地表に現れた通路のふたを開けた。

ガタッ……。

――急ごう。

エリカはためらわずその中に飛び込み、ハシゴも足場もないところを落下していく。頭上にある光がだんだん遠くなっていく。数秒落下すると、やっとその底の部分に着地できた。しかし、通路はまだ続く。今度は、平行にトンネルのような通路が550メートルほど伸びていた。

――走ろう。

走り出す足音だけが通路内に響いた。ライトは一応、点灯はしているものの、ここも薄暗い。

 しばらく走り、エリカはあるものを見つけた。

――向こうに光? あそこに人工知能があるんだ。

走るにつれ、その光が次第に強くなってきた。青色を基本とした光はエリカを照らし始める。

それに伴って彼女は動きをゆるめていった。

そこにはもっと地下へとのびる巨大なシステムと、そこに内蔵されている人工知能の本体があった。


すると、エリカは驚く。

彼女の通信機器にここの人工知能から届いたメールの内容が勝手に映し出された。それはまるで、立体映像が瞳から入った光であるかのように脳で感知されていた。普通、アンドロイドなら視覚からの立体映像と内蔵されている通信機器からの立体映像との感知は区別がつく。しかし、今回は違った。

――これって、生命体の感覚?

《はい》

その声と共に立体映像が正面へ映し出された。人工知能が映し出したのだ。立体映像の女性は目を開き、また閉じる。それを少し繰り返している。

《用件は何でしょうか?》

そう聞かれ、エリカもメールで一瞬に目的を伝えた。

ヒュ。

《分かりました。時間を変更いたします》

その女性は瞳を閉じようとした。

《あなたは、どうなりますか?》

《?》

女性は、瞳を再び開ける。

《この作業が終われば、自動消滅いたします》

この人工惑星の人工知能には感情も思想もない。ただのプログラムの羅列である。

《一緒に来てくれますか?》

エリカは右手をのばす。

――自動自己解体なんて、嫌だ。

《違う言語でのアプローチをお願いします》

女性の立体映像が一回瞬きをした。

この人工知能には、その言葉の意味を理解するプログラムが入力されていなかった。プログラマーはわざとそうしたのだ。彼女が、全ての人工惑星の人工知能が、自動自己解体を必ず実行できるように選択肢を渡さなかったのだ。

《また、来ます》

エリカは右手をおろす。二度とこの場所へは来られない事を知ってはいたがそう言って。

《最終目的時刻の1時間前まで受け付けをしております。では》

その立体映像はそう伝えると、消えていった。その後、エリカは帰途を急ぐ。後ろ髪を引かれている。けど、約束したから思いきり走る。待っている〈4人目の理解者〉のため。



――シールドが閉まっていく。

通は知的生命体の子供たちを避難させたあと、一人空を見上げ、エリカを待っていた。

「!」

後方から、足音が聞こえてきた。

「エリカ?」

その足音がエリカなのだろうと思って、振り向き、名を呼んだ。その通り、エリカがこちらへ走って来ていた。

「大丈夫か?」

「はい」

 通は彼女を心配した。一方、エリカはほわっと微笑む。白い羽がしなやかに舞うように。彼女はとてもうれしかったのだ。心配されたことも、生命体扱いされたことも、待っていてくれたことも。

「行こう。俺たちが最後らしい」

「はい」

二人は見上げる。頭上に残された、たった1機の小さなスペース・シャトルを。


ひこうき雲の下、人類も何かを守りたかったはずだ。

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