宇宙環境省エリダヌス本部
「エリカ」
遠くからの通の声に振り返る。
「俺と来い」
そう言うと、彼はエリカの手を引き、すたすたと歩き出した。
「何ですか?」
エリカは慌てて尋ねる。すると、前方からサラ・ブラウンと李四がやって来た。
「あ」
「頑張って……」
笑顔のサラ・ブラウンの側にいた李四は、小さな声で再びエリカを応援した。
――誤解されてる気が。
戸惑うエリカに対して、彼女の手を引っ張っている通は、無言で突き進む。
「あの、どこへ行くの?」
「出国ターミナルだ」
手を引かれて少し慌て気味のエリカに、通は淡々と答えた。
「エリダヌス座の二重惑星の本部へ一緒に行ってもらう。もちろん調査員のパートナーとして」
「本部?」
「あぁ、そうだ。行くぞ」
「え、あの」
通は、エリカの声など気にせず、出国ターミナルへと突き進んでいった。
ここの出国ターミナルは、全宇宙にある地方都市と比べると、比較的大規模なものだ。アンドロメダ支部は、エリダヌス本部、ヘルクレス支部、ペガスス支部、そして、カシオペヤ支部に次ぐ、巨大な都市である。
「着の身着のままでいいの?」
焦って問うエリカに、通は振り返らずに答える。
「あぁ、アンドロメダ時間1日で戻れるさ。」
アンドロメダ時間1日=地球時間72時間である。
――人類ってそんなに起きていて大丈夫なのだろうか。
エリカは、自身の手を引く通の心配をした。
「さ、行くぞ」
「はい」
エリカは、黙って彼の指示に従った。
《ワープ・シャトル発射まで3.2.1.0…》
シャトル内にアナウンスが流れたあと、シャトルは静かに発射した。
《二重惑星〈エリダヌス本部〉へのワープまで3.2.1.0…》
ワープ・シャトルは轟音と共にワームホール型ワープを行った。
《二重惑星〈エリダヌス本部〉へ到着。入国ターミナルへドッキングいたします。座席からお立ちにならずに、少々お待ちください》
そうアナウンスが流れると同時に、ワープ・シャトルは、出力を次第に落としていく。
《ドアが開きます》
二人は、エリダヌス本部の二重惑星に到着した。
――うわぁ。広い!!
エリダヌス本部の入国ターミナルへ入ると、エリカたち二人の頭上には、巨大な吹き抜けがあった。天窓からは、もう一つの惑星に隠れた恒星が顔をのぞかせている。そのため、この惑星時間では昼なのに少し薄暗かった。
「ここからは、エレベーターで行く」
「はい」
ここのエレベーターは惑星間を行き来するために作られたものである。なぜなら、このエリダヌス本部の二重惑星は、一方の惑星からしか入国出来ないことになっているからである。入国ターミナルのある惑星WAVIには主に広報部が、惑星SAVIには研究・開発部が入っている。
広報は、希少な惑星や銀河を見つけたら、それを保護するかどうか、ネット投票を行う部署である。もう一方の研究・開発部はセキュリティ重視のため入国ターミナルがないのである。
「あの、なぜわざわざ本部に?」
エリカは、急に思い出したように尋ねた。
「言ってなかったか?」
「うん」
エリカが、笑顔でその答えを聞きたがった。
「内蔵型機器の点検だ。人類型調査ロボットはここが開発したから、ここで点検してもらうんだ」
「それじゃ、須木君はどうして?」
エリカはきょとんとして尋ねた。
「俺は元々、本部の職員だし。だから本部での点検」
エリカは、きょとんと瞬きを2回する。
「お前な、何か言……」
通の声を遮って、頭上で巨大な爆発音がした。
「何!?」
地響きまで伝わってきた。
「上を見ろ!!」
周りにいた職員の一人が指を差して叫んだ。
上を見ると、惑星SAVIの耐衝撃シールドが粉々に砕けていた。
――どうして!?
エリカは、周りの人たちと同様に何も出来ずに立ち尽くしていた。
「エリカ、行くぞ」
「え?」
エリカは我に返り、現実の通の姿を見た。
「早く!」
「はい!」
二人は、エレベーターに乗り込んだ。エリカは表示画面を見つめる。一方、通は少し焦っていた。
――嫌な予感がする。
《GATE 2南口に衝撃を確認。GATE 2南口に衝撃を確認。研究スタッフおよび、開発スタッフの皆様は至急この惑星SAVIから避難してください》
研究員たちの逃げ惑う声に混じり、アナウンスが流れていた。
「みんな、早く! エレベーターが到着したぞ!」
「早く乗り込め!」
惑星SAVIの研究員たちがエレベーターの到着を待っていた。
エレベーターの電子音が鳴る。ドアが開くと、二人は惑星SAVIの研究員たちと入れ替わりにエレベーターを出た。そして、惑星WAVIで見た時に、爆発の噴煙が上がった所へと向かった。
――皆、避難しているだろうか。
通は辺りを確認しながら走っていく。エリカはそのあとを追う。
「警備ロボットがいない」
エリカは辺りを見て、気付いた。
「南口へ向かったんだろう」
通は振り返らずに答えた。その会話の最中ずっと大音量の避難ベルが鳴り響く。エリカと通のそれぞれの声がかき消されるほどの。
「エリカ、一応調査員なんだから、携帯用シールドぐらい持っているよな?」
「もちろん」
エリカは答える。すると。
「作動させておけ。ここからは、危険だ。がれきと落下物に気を付けろ」
「はい」
しばらく進むと、二人は煙幕の向こうのある複数の気配に気付いた。誰かが歩いて来ていた。
――なぜ、歩いているの?
エリカは疑問に思う。その足音は走って逃げ惑うものではなかったからだ。
――怪我をしていて、逃げられないのかな?
エリカは目を凝らす。
だんだんと足音がはっきりしてきた。煙幕で見えていなかったシルエットも。
――え!?
そこには人類の女性が立っていた。
「研究員の方ですか? なら、急いで……」
ヒュッ……、パリンッ。
――え。
「!」
エリカはその場に倒れた。シールドが破られ、傷口からは人工知能の電子循環液が漏れ出していた。目の前の人類の女性、ナンシー・ロイに頭部を撃たれたのだ。通は、急いでエリカに駆け寄り、上半身を抱きかかえた。
――人工知能が!
今度は、複数の機械音が聞こえてきた。それに通は振り向く。
機械音の停止と共に、残り二人の姿が煙幕の中から現れる。その二人は、移動用粒子リフターに乗っていた。
移動手段を長年の進化の過程で退化させてしまったのだろう。人類でいう脚は存在しなかった。頭部には、脳で粒子リフターを操作できるようにカチューシャのようなものをしていた。顔には瞳しかなく、腕は胴体の半ばからあり、平らで指もなく銃は腕先をまきつけて持っていた。
――テロだったのか。
表情を険しくした通は、その三人の姿をじっと見ていて、気付いた。見覚えがある、と。
――俺が調査へ行った惑星の知的生命体。
通が自分たちの正体に気づいたと思ったテロリストたちは、銃を構える。
二人のテロリスト、オーター・ブールとウト・マリは銃の焦点を合わせる。
通は焦る。調査員である彼には、何もできない。テロリストを制圧する能力など。
テロリストのウト・マリが銃を構える。次の瞬間、ウト・マリは腕を撃たれ、倒れ込んでいた。
「誰!?」
ナンシー・ロイは、突然の被弾に身構えた。




