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Space Sights  作者: 津辻真咲
4/14

青色

「エリカ」

その呼び声に彼女は振り返る。そこには、李四が立っていた。

「あの……」

引っ込み思案な彼は、口ごもる。

 ……。

「サラは?」

李四のいつもの性格にエリカもサラ・ブラウンを頼る。李四は恥ずかしがり屋で、しかも人見知りだ。よって、無口である。

「……お化粧室です」

彼は下を向いたままだった。

 ……。

李四は、サラ・ブラウンがいないととても一人では生きていけない感じである。彼が感情を少しでも表に出せるのは、彼女が側にいるからだ。

「それ、今回の資料ですか?」

エリカは李四の持っている資料に気づいた。

「うん。実は、こぎつね座の惑星状星雲M27付近にある惑星系の恒星が赤色巨星になりかかっているんだ」

まだ下を向いていた。

「それで……」

「エリカ、資料見た?」

声が遮られた。サラ・ブラウンが笑顔で手を振りながら歩いて来た。エリカは、サラ・ブラウンを見上げる。彼女は女性の中では背が高い方だ。だから李四とは背の高さが変わらない。

「スー、資料渡し……てないのね」

彼女は李四の持っている、まだ渡していない資料に気づいた。

「ごめん……」

李四は、下を向いたままだった。

「……」

エリカは二人を黙って見て、待っていた。

「はい。資料ー」

サラ・ブラウンは、資料を差し出す李四に合わせて、笑顔でアテレコする。

「……」

そんな二人を見てエリカは毎度ながら、対応に困っていた。

「じゃ、よろしくー」

サラ・ブラウンは笑顔で手を振ると、李四と共に去っていった。エリカは立ち去る二人を見送ると、受け取った資料を見始めた。


『調査惑星:こぎつね座惑星状星雲M27 惑星系第11惑星

番号:人工惑星P2021555

備考:過去に一度の保護あり』


人工惑星とは、保護すると決定された惑星系や環境、生命体などを守る為に作られたものである。その人工惑星は、基となった惑星と同じ自転と重力を持ち、大気圏の外側にはシールドがあり、自然環境までもを今まで通りになるように調整されている。


「エリカ」

彼女は通の声に振り返る。

「資料、覚えたか? 行くぞ」

通はそう言うと、シャトル搭乗口へと歩き出した。

「はい」

そう返事をして、エリカは通の後を追った。



現場へ向かうスペース・シャトル内、エリカは黙って今回の資料に目を通している。そんな彼女の横で通は、一面漆黒の宇宙が映る窓をずっと見ていた。

エリカはその様子に気付き、顔を通の方へ向けた。

「どうした?」

「え」

エリカは通に話しかけられるとは思っていなかった。なので、少し戸惑い、言葉につまった。

「えーっと、別に何も」

 エリカがそう答えると、通は彼女から顔をそらす。

「お前、用もないのに俺を見てたのか?」

「え」

「何だよ?」

「楽しいよね?」

「何がだよ?」

「この仕事」

 ……。

少しの沈黙のあと、通は答えた。

「別に。中途半端だよ、この仕事も……」

そう言うと、顔をエリカからそらした。

――え?

エリカは、少し戸惑った。そんな彼女をよそに通は、また窓の外を見つめた。

――身勝手だよ、生命体なんて。

通の表情が険しくなっていた。

「……」

エリカは何も話さず、ただただ通を見ていた。

――中途半端?

――こんな時代になっても、生命体の作り出すものは完璧じゃないの?

――このシステムも法律も科学も価値観も、未完なのかな?

「どうした?」

「ううん、大丈夫」

エリカは苦笑した。戸惑いを隠して。

「……」

通は、そんなエリカをしばらく見ていた。


《こぎつね座惑星状星雲M27惑星系第11惑星P2021555へ到着。こぎつね座惑星状星雲M27第11惑星P2021555へ到着》

アナウンスがかかる。スペース・シャトルも低空飛行で準備は完了していた。それと同時に通は、携帯用シールドを作動させる。


 携帯用シールドとは、主に調査員が使う透明性のあるシールドで、耐熱・耐衝撃・対X線など外部からの刺激に耐える機能を有している。調査員が外部刺激により、負傷したり、死亡したりしないようにするために配られている。


「行こう」

「はい」

二人は、スペース・シャトルから飛び降りる。そして、いつものように不時着する。すると。

――わぁー。

――青い大地。

エリカは、辺りを見回して目を輝かせた。資料でも見ていたのに、その美しさに驚いた。

そこには白い半透明な大地の上に、ふわふわした青いものが積もっていた。それが大地を青く見せていた。

「何か青いものが降ってくる……」

それは、通の手のひらにも降り注ぐ。

「なるほど、酸素の青い雪だ」

――生命体が守りたかったものはこれか。

手で溶けていく青い雪を見て感嘆した。

「これって氷の大地だね」

一方、エリカは足で雪を掘りながら、通に話しかける。青い雪の下の層を見ようとしていた。

この惑星では、酸素が地球でいう水、水が地球でいうマントルという役割になっている。よって、この惑星には、青い雪や雨が降る。

「エリカ、火口へ行こう」

 エリカが彼の方へ振り向く。

「この人工惑星に生命体が誕生していないかどうか、確かめるぞ」

通は、すたすたと歩きながら話す。どうやら、火口から溢れた水から探すようだ。この惑星では、火山の噴火がまるで間欠泉だ。



二人は青い雪の上を歩いて行く。

――青いなぁ。生命体って、これを美しいと言うのかぁ。

――自然ばっかり、いいな。人工じゃだめなのかな?

エリカは少し、もやっとした。



二人は火口へ着いた。通はスポイトで火口の水を採取し、確認装置の中へ入れた。すると、電子音が鳴る。

「反応ありか」

通は、確認装置の画面を目の高さにまで持ってきて言う。

「今まで隕石も落とさせずに保護した結果だな」

――隕石も落とさせず?

エリカは今までの長い間、この仕事をしてきたのでその事実は知っていた。が、こんなにも不平等な事があるのだろうかと思っていた。

 保護対象と非保護対象。

――いつも損をするのは、非保護対象の惑星系。

――そんなことは分かっている。

――でも、全員のこと、考えてほしい。ずっとそう思っていた。

「エリカ?」

通はエリカの異変に気づいた。

「……」

しかし、彼女は黙ったままだった。

「エリカ、応答しろ」

「……」

エリカはうつむいていた。

「エリカ・ニチュードがシャットダウンした。スペース・シャトルをよこしてくれ、調査は中止する」

通は通信機でスペース・シャトルの操縦士に連絡を取った。

「分かった。待機する」



……SHINOHARA。


……機械は、役割が全てだ。


……だから、この気持ちだけは、理解しないでくれ。



エリカは瞳を開けて、意識を取り戻す。目覚めたそこは、アンドロメダ支部の修理室。

「大丈夫だった?」

サラ・ブラウンがすぐ側にいた。エリカは思う。

――今なら、聞けるかもしれない。どうして、保護するの?

「宇宙連合が勝手に環境や生命体を保護するのって、宇宙連合の利他主義ですか?」

サラ・ブラウンは彼女の問いに驚いて、目を大きくした。

「……」

その問いのあと、黙ってしまったエリカにサラ・ブラウンはいつもの楽観さで言う。

「でも、生命体はわがままじゃないと魅力がないよね?」

そう言うと、彼女は笑顔を作った。


科学は、生命体のわがままでできている。

自然環境を守りたいのも。

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