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幻想を歩く旅人  作者: 幻桜ユウ
第二章 孤独の少女は外の世界を夢見る
9/13

第九頁 幻想の道標






 ◾️◽️◾️◽️◾️




 僕は目を開けた。


 

 「ここは? また、師匠が作った世界?」


 

 そこには、師匠が作った草原の世界ではなく、どこかの館の中にいた。


 とりあえず、動いてみよう。


 しかし、僕の身体は動かなかった。金縛りにあったかのように、僕は自分の意志で自分の身体を動かす事ができなかった。


 シエル? シエルもいないのか?


 自分の魂に呼びかけるが、反応は無かった。


 シエルもいないって事は、『僕の情報』だけドコカに飛ばされたのだろうか?


 

 「どうかしたの? ユウ」



 その時、僕に声が掛けられた。僕は()()()()()()()()()。そう、動けたのだ。僕は()()()()()()()()()()()()()


 続いて、僕の口が勝手に開く。



 「ああ、『葵』。何でもないよ。君こそどうしたんだい? 明日は早いよ?」

 「それを言うなら、貴方もでしょ? ()()()はもう寝ちゃったし、私達も早く寝ましょう?」



 僕の目の前にいる『葵』は、青混じりの白銀の容姿に似合う淡い空色のネグリジェを着ていた。身体の完璧なプロポーションがふんわりとしたネグリジェの中に秘められており、大人の女性としての色香を纏っていた。


 

 「そうだね。あんまり遅いと、娘に怒られちゃうか。不貞腐れるのはまずいね」

 「ふふっ。あの子はまだまだ子供だもの。貴方がいないと寂しいのよ」



 娘て。なに? 僕に『娘』いるの? それも、葵との? マジで? 


 なんか、現実味が無さすぎて、夢にように思えてきた。


 しかし、僕の考えとは裏腹に、『世界の時間』が進む。




 ◾️◽️◾️◽️◾️




 次の場所は、『書斎』だった。


 いや、書斎は少し違うかもしれない。


 前も後ろも右も左も上も下も、果てまで続く本棚があった。


 師匠の世界のコンセプトが『草原』なら、この世界のコンセプトは『本』のように思える。


 僕はこの世界において唯一許されている『思考』をもって考察する。


 しかし、それすら許さない『情報の波』が僕を襲う。


 

 「全く、ここに来るのも久しぶりだね。とりあえず、目的の物だけ回収しようか」



 『僕』は前に手を向け、目的の物を呼び寄せる。


 そうすると、一冊の本が前方より飛んでくる。


 『僕』はその本を手に取る。


 その本は『孤独の少女は外の世界を夢見る』ーーつまりは葵の本だった。


 『僕』は頁を捲る。


 『第一章』


 〝少女は突如として生まれた。何の意味もなく、何の意図もなく、ただ世界より生まれた〟

 〝少女は時間も空間も存在しない世界にただ一人漂っていた〟

 〝少女はとても不幸だった〟

 〝少女は心を持っていた〟

 〝そんな当たり前の事が少女を苦しめていた〟

 〝少女は()()()を待っていた〟

 〝しかし、少女の世界に辿り着ける者はいなかった〟


 

 「な〜に読んでるの?」

 


 本を読んでいる『僕』の後ろから、『葵』が抱きついてきた。


 『葵』は『僕』の首に両腕を回し、自身の身体を余す事なく『僕』にくっ付ける。『僕』の肩から顔を覗かせ、『僕』が読んでいる本を見る。


 『葵』は懐かしむ様に目を細め、頁を捲る『僕』の手に自分の手を重ねる。


 その手はほんのりとした温かさを持っており、『僕』はそんな宝物を愛おしく思っていた。


 

 「君の本だよ。そろそろだと思ってね」

 「そっか。もう、そんなになるのね」

 


 『僕』と『葵』はさらに本の頁を捲る。



 『第二章』


 〝世界は少女を拒絶した〟

 〝少女の存在を世界は恐れた〟

 〝世界は少女を外に出さない檻であり、他のナニカを中に入れない壁だった〟

 〝しかしある時、世界に侵入者が現れた〟

 〝侵入者は特異性が際立っていた〟

 〝侵入者は無限の意志が介在する空間の中で、自分の意志を寸分の狂いなく確立していた〟

 〝侵入者はその世界で孤独な少女を見つけた〟

 〝それが、少女の『始まり』だった〟


 『第二章』ーー『葵』の『始まり』。



 「この時に、私は貴方に会うことができたのよね」

 「そうだね。それにしても、『侵入者』なんて酷い言い草だね。別に入りたくて入ったわけじゃないのに」

 「入る原因を作ったのは貴方だけどね?」

 「面目ありません」



 『僕』はすぐに謝る。そのことは遠い昔に謝ったのだが、今でもたまにネタにされるのだ。


 ()()()()は本当に酷かった。お陰で僕は3回ほど死んだし、その度に皆に怒られた。


 

 「まぁ、そのお陰で『葵』に会えたから、『僕』は良かったと思うよ。何事も、何に繋がるかはわからないものさ」

 「まぁ良いわ。それで騙されてあげる」

 「そういえば、どうしてここに来たの?」

 「ん〜? 暇だからね。あの子は二人に預けちゃったし、私自身の支度も終わったからね。だから、ユウとイチャイチャでもしようかなって」

 「あぁ、『妹』と『姉』に預けたんだね。あの二人なら、心配はないか。もしかして、イチャイチャしたいがために、『娘』を二人に預けたの?」

 「……そんなんじゃないもん」



 『僕』の質問に、『葵』は頬を膨らませて顔を背ける。どうやら、図星の様だ。



 「よしよし。『僕』も目的の物は回収したし、部屋に行こうか」

 「……うん」



 『僕』は立ち上がろうとするが、『葵』が立たなかった。



 「どうしたの?」

 「……抱っこして?」



 『葵』は僕に向かって両腕を開く。その様子は大人の女性としての色香を纏いつつ、童女のような無邪気さを兼ね備えていた。


 『僕』はやれやれと思いながら、『葵』をお姫様抱っこで運ぶ。



 「さて、『僕』のお姫様? 『王子』に喰われる覚悟はあるかな?」

 「ふふっ、私達の『主様』? 私達はいつも貴方様のためにってね?」




 ◾️◽️◾️◽️◾️

 

 


 『世界の記録』は閉じられた。


 『世界の情報』は削除された。


 『世界の時間』は未だ進み続ける。






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