第八頁 それこそが『ユウ』が『ユウ』足る所以
僕と雫さんは互いに腰に差した刀に触れる。
その瞬間、僕達の間にて空間が軋むレベルでの衝撃が発生した。
『斬撃を起こした』という情報がぶつかり合った。
その数は数百にも及ぶ。
『剣術』の情報をシエルのおかげで会得したため、雫さんの剣術にも対応できるようになった。
「相当な強化ね。予想より数十倍は強いわ」
「『むしろ予想を超えて当然』みたいな言い方をされても」
「ユウ君だもの。当然じゃない?」
「褒め言葉として受け取っておきます!」
僕は踏み込んで雫さんへと接近し、抜刀する。
「幻桜流抜刀術『時雨・波紋』」
「やっぱりソレも使えるわよね。なら、幻桜流抜刀術『時雨・嵐夜』」
僕が繰り出す一撃速攻の抜刀術に雫さんは乱撃を壁状に展開して防御する。
幻桜流ーーその名の通り、『幻桜』由来のもの。先程の抜刀術に加え、剣術、刀術、槍術、拳術、体術等々、沢山の武術を内包している。さっき、シエルが僕のことを『幻桜ユウ』と言った。そして、目の前にいる『幻桜雫』さん。二人に共通する『幻桜』の名、そして用いる『幻桜の武術』。
それが意味することはすなわちーー
「考え事なんて、余裕ね?」
ハッと気づいた時には遅かった。
既に雫さんの刀は眼前に迫っており、僕の顔を斬り裂く所だった。
僕は反射的に目を閉じたが、僕の身に痛みが走ることはなかった。
恐る恐る目を開けると、雫さんは僕の顔の前で刀を止めていた。
「え、えっと? 痛いっ!?」
叩かれた。刀の峰で。頭を。めっちゃ痛い。
雫さんは刀を鞘にしまい、ため息を吐く。
「流石に覚醒したてだから、まだまだ甘いわね。シエルちゃん、ユウ君は私が育てても良いわよね?」
「別に構いませんよ。客観的に見てもそれが自然でしょうし」
いつの間にか僕の隣に出てきたシエル。
話がトントン拍子に進んで、何のことか全然把握できない僕。
「さて! ユウ君、君はまだまだ弱いわ。よって、今から鍛錬をするわ。拒否権はないわ」
「えっ、えっと。できれば、葵を助けに行きたいから後にしてほしいかな、なんて」
「心配いらないわ。この世界は外界と隔絶されていて、あちらの時間は停止しているし、そもそも葵ちゃんも『こことは違う世界』で『私じゃない私』が鍛錬を施しているし」
「……もしかして、あのミノタウロスってわざとだったりします?」
この手の込みようはそうとしか思えない……
「……さて、鍛錬を始めましょうか」
「露骨に話を逸らされた!?」
「ほらほら主様。強くなるに越した事は無いですよ」
「シエルまで!?」
おっかしいなぁ? 迷宮探索二日目にして、とんでもない事に巻き込まれてしまった。
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どれくらい時間が経ったのだろうか?
数秒、数分、数時間、数日、数ヶ月、数年、数世紀。そのどれもな気がするし、どれでもない気がする。
鍛錬の過酷さに時間の感覚が狂った。
いや、元々この世界に『時間の概念』は存在しないから、『どれくらいの時間が経った』なんていう『変化』は無いんだけど。
シエルによって、『過度な情報の波』に晒されながら、雫さんーー師匠の斬撃を受け続けるという鍛錬。
たったそれだけではあるのだが、それがキツすぎる。
ちなみに鍛錬を始めるにあたって、雫さんに『師匠』呼びを強要された。
今も今とて、その鍛錬中である。
またまた、師匠に考え事していると怒られそうだが、『過度な情報の波』に晒され続けて、脳の情報処理能力が上がった。よって、『並列思考』ができるようになった。それができるまでに数億の斬撃をこの身に受けた。体感数秒。化け物です。
それに行き着いた瞬間、更なる斬撃を身を襲う。
その数は『履歴』を見ると、兆を超えていた。
履歴ーー自身を構成する『情報』というのは常々変化する。しかし、一度構成された情報はそのまま『魂』に保管される。その保管された情報の事を『履歴』という。
思考が読まれた。というか、ほぼ誘導された上にそこに行き着いた瞬間に強くするって理不尽では?
というか、割と余裕だな僕。
現在、シエルの情報の波の方に多く思考を割いていて、師匠にはそこまで思考を割いていない。
必然的に最悪に近いコンディションで斬撃を受けるわけだが、さっきから一割は避けられるようになった。
一割って低くね? と思うだろうが、数兆の内の一割だぞ? よく避けてるわ僕。
さっき、師匠も言ってたし、
「ユウ君の強みは『心』。どこまでも冷静かつ客観的に物事を見つめる事が大事。それはまさに『本を読むが如く』で。それこそが、『ユウ』君が『ユウ』君足る所以だから」
って。
僕が僕足る所以って何だろうね?
でも、意外としっくり来るんだよね。その『本を読む』っていう感覚。
自分の感情すらも『本の中に置いてきた』ような、あるいは『本の外に忘れた』ような。
僕って何者何だろうね?
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まぁ、気にしなくていいか。




