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幻想を歩く旅人  作者: 幻桜ユウ
第一章 幻想の旅人
7/13

第七頁 これは『始まり』






 白銀の刀を僕に振り続ける雫さんとそれを避け続ける僕。


 『世界の情報』が殆ど存在しないこの世界では全ての感覚が狂う。僕が存在している(・・・・・・)と認識している空間のみ、世界が成立している(・・・・・・・・・)


 僕がそれを知っているのは、先程雫さんによって強制的に取り込まれた情報の中にあった。


 しかし、あまりにも沢山の情報量と複雑さによって何も理解できていない。言うなれば、人ひとりの人生の全てを紐解かなければならない。


 人生、なんて一言で言えるものであるけれど、実際に切り詰めようと思えば、無限に切り詰められるのだ。つまり、普通の人間には処理できない情報量なのだ。だから、さっきその情報量に押し潰されそうになったのだから。


 視認できない速さで繰り出される雫さんの斬撃を、『僕の情報領域に発生する異様さ』で判断して避け続ける。


 しかし、僕に攻撃手段は無いため、説得を試みるしかないのだ。



 「どうして、攻撃するんですか!?」

 「さっきも言ったわ。今の(・・)貴方を外に行かせたら、すぐに死んでしまうもの。それなら、力づくでもここに留まらせるわ」

 「その割には、殺す気しか無いようですが?」

 「貴方なら分かるでしょう? ここには世界を構成する情報は無いわ。よって、貴方が死んだとしても、『死』という情報はこの世界には出てこないわ。したがって、死ぬような事があっても死ぬ事は無いわ」

 「怖っ」



 説得の意味なし。雫さんの意思が強固過ぎて、説得しても意味がない。


 いや、答えは得てはいるんだ。雫さんは僕の死を望んでいない。つまり、少なくとも、外のミノタウロスより強くなれば問題ないのだ。


 ……問題は僕に攻撃手段がない事だ。唯一の攻撃手段である剣が手にないため、攻撃魔法を持たない僕は雫さんに攻撃できる手段がない。


 強いて言うなら体術くらいだが、近づき過ぎると細切れになる未来しか見えない。


 どうしようか。もういっその事、僕の中にある情報をワザと暴発させて、複雑化した情報をバラバラにして、使える情報を『幻想魔法』で顕現するか。


 そう思った僕は『情報領域』を自分の外側ではなく、自分の内側に向かって押し込む。それによって、雫さんの攻撃を認識する方法が無くなり、斬撃をモロに受ける。


 あ〜まずいな〜。一度しか斬撃を受けなかったはずなんだけど、身体中が切り刻まれている。もし、外でこれを受けたら一瞬で死んでいた。


 それによって身体中が痛いのに、さらに内側からも暴発しそうな情報で痛みが溢れる。


 しかし、気合で抑える。更なる圧力を僕の内側に与えていく。




 ◾️◽️◾️◽️◾️




 それは偶然の事だった。本来ならあり得ない到達方法。しかし、ユウには『記憶消失』という自己を(・・・)確立できない(・・・・・・)要因(・・)があった。だからこそ辿り着いた己の魂の領域。


 そこに存在するのは魂を保護する、人の手には負えない障壁だった。しかし、ユウの強大な圧力を内包する情報はその障壁に、目に見えない程小さく、しかし確かな穴を開けたのだ。




 ◾️◽️◾️◽️◾️




 「ユウ君なら、きっと至れると思ったわ」



 そう呟く雫と地に倒れるユウの間に、一人の女性が現れる。


 その容姿は白銀の長髪と瞳を持ち、桜の装飾を施した刀を左腰に差す女性。


 その女性は刀の柄に右手を添えると同時に、雫はその場から飛び退く。そして、雫が立っていた地面は粉々に砕け散る。



 「しばらくそこで待っていなさい」

 「言われなくてもそのつもりだわ、『シエル』ちゃん」



 雫は刀を仕舞い、両手を上げて降参の意を示す。


 それを見たシエルと呼ばれた女性はすぐさまユウの横に転移し、ユウを治療する。


 とは言っても、右手をユウに翳しただけで、ユウの体は回復した。


 

 「君、は?」



 意識が回復したユウは目の前の女性にそう尋ねる。


 女性は片膝をつき、ユウに頭を下げる。さながら、従者のように。



 「『シエル・ラグナロク』。主様の危機に馳せ参じました」

 「ああ、うん、ありがとう。その主っていうのは?」

 「……なるほど。主様の状況を理解しました。どうやら『情報過多による記憶障害』を起こしているようですね。私の事を知らないのも納得です」



 シエルはユウの疑問に一瞬キョトンとしたが、何か納得したようだ。



 「では、改めまして。私の名前は『シエル・ラグナロク』。『我が主(マイマスター)幻桜(・・)ユウ様に仕える者です。普段は主様の『魂の最奥』にて、主様のサポートをさせていただくのですが、以前の(・・・)主様によって、『魂の壁』を創られた結果、今まで干渉不可能でした」



 つまり、『記憶消失』前の僕が、彼女を従者にしていて、その僕が作った『魂の壁』というもので出てこれなくて、今の僕が内部に押し込めた『情報圧力』が『魂の壁』を突破したのか。



 「でも、こうして出てこれたってことはその『魂の壁』は無くなったの?」



 ユウの質問にシエルは首を横に振る。



 「いえ、『魂の壁』は無くなっておりません。今の主様の『情報圧力』では『魂の壁』に穴を開けるのが限界でした」



 マジですか。以前の僕はどれだけ強固な壁を創ったんだ……。


 僕がその途方も無さに呆れると、シエルは立ち上がり僕に手を差し伸べる。



 「それでは、主様。まずはこの世界から出ましょう。そのためにも、雫さんに強さを証明しなければ」

 


 僕はその手を取り、立ち上がる。



 「そうだね。頼りにしてるよ、シエル」

 「はい、主様」



 シエルが僕の中に入る。その時、僕の領域が広がった。


 

 『主様、領域に存在する情報は全て私が処理します。まずはこれを』



 シエルがそう言うと、僕の右手にシエルが持っていた刀と全く同じものが現れた。



 『それは【幻桜刀】と呼ばれるものです。私が持っていた刀、そして雫さんが持つ刀も同じです。あとは【剣術】の情報も処理します』



 これで、基礎条件が雫さんと揃った。


 僕は前に踏み出す。雫さんも嬉しそうな顔をしながら、僕に向かってくる。


 

 「さあ、見せてもらうわ。貴方がどれだけ強くなったのか」

 『行きますよ、主様。これは【始まり】です』


 









 《登場人物紹介》


 幻桜 雫


 不思議な世界にて、ユウを待ち受けていた女性。黄色混じりの白銀の長髪と瞳を持つ。剣術の腕は世界最強レベル。ユウとは特別な関係にありそうだが、本人は話すつもりはないらしい。


 『ステイタス』


  非公開




 シエル・ラグナロク


 ユウの魂の中にいた女性。白銀の長髪と瞳を持つ。少なくとも雫を圧倒できる実力。ユウの従者を名乗るだけあって、ユウについては良く理解している。


 『ステイタス』


  非公開






 

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