第六頁 白昼夢
『アインディア迷宮』15階層ーー
「葵!」
「『氷結魔法』《アイスブレイド》」
ユウは現在鍔迫り合いになっていた『ゴーストナイト』の剣を弾き、隙を作る。そこに、『氷結魔法』で氷の剣を作り出した葵が入り込み、氷の剣を相手に突き刺す。
『ゴーストナイト』は15階層にしては弱い部類に入るが、物理無効なので魔法でしかダメージを与えられない。ちなみに『幻想魔法』を体に纏わせている僕は、剣でもダメージが通る。
葵は氷の剣をゴーストナイトに刺し、込められた魔力を解放する。
「蒼く咲きなさい。『蒼薔薇』」
その言葉と共に氷の剣は形を失っていき、その魔力は花の形へと昇華する。それはまさに白銀の雪が舞う様な姿だった。
生み出された氷の結晶は悉くゴーストナイトの体を呑み込み、ついには全てを覆った。
パチンッ
葵が指を鳴らすと、その氷の結晶は内部のゴーストナイトと共に粉々に砕け散った。
「お疲れ、葵」
「ユウもお疲れ様」
互いにハイタッチを交わし休憩に入る。
「ふぅ。初めてにしては良い連携で行けたわね」
「そうだね。思ったより良いペースで降りて来られてる。このまま行けば、日没までには地上に帰れそうだね」
「そうね。油断せず行きましょう。『迷宮』は何が出てきてもおかしくないからね」
二人は数分という時間ではあったが、体を休め話に花を咲かせることができた。
しかし、そんな花も一度悪風が吹けば、枯れてしまう。
『オオオオオ!!』
「「ッ!?」」
突如、通路の奥からモンスターの声が聞こえて来た。二人はすぐに『幻想魔法』を見に纏い、《ナイトヴィジョン》を使って通路の奥を見る。
そこには手に片手斧を持ち、二足歩行の牛人ーー『ミノタウロス』がいた。
『ミノタウロス』ーー推奨レベル20の階層徘徊型のモンスター。11〜19階層の間を自由に徘徊する。基本、この周辺を主として活動するパーティーは平均レベル23ぐらいであるため、そこまで脅威にならない。しかし、ユウ達は現在レベル16。勝てる可能性は限りなく低い……と言われている。
生憎、情報だけで勝ち負けを判断するような文官気質ではないんだ。
ユウは隣にいる頼れる相棒に目をやる。
葵も戦意をみなぎらせている。
思わずユウも笑みが溢れる。
「相手にとって不足なし、だよね?」
「ええそうね。今までのモンスターは味気なかったもの。ーー最初から本気で行くわよ」
「了解!」
二人は同時に駆け出す。二人の戦意に反応したミノタウロスは猛々しい声をあげて斧を構える。
最初に攻撃を仕掛けたのはミノタウロスだ。
「ブモォ!」
「フッ!」
ミノタウロスは斧を振り下ろし、ユウがその横を剣で当てることで弾く。しかし、ミノタウロスの斧が重過ぎて、軌道をずらすことしかできなかった。
葵は地面に刺さった斧に足をかけ、そのままミノタウロスの腕を上り、首を狙って剣を振る。しかし、ミノタウロスの角によって阻まれる。
二人はこのミノタウロスが通常の『ミノタウロス』より強い事を確認して、一度退く。
ただでさえ強いのに、『強化種』なのか!?
『強化種』ーー碌に討伐されずに、長い期間生き続けたモンスターに多い。戦いの経験や他のモンスターを食う事によって、通常よりも強くなったモンスター。強化幅は勿論、質と量による。ここら一帯のモンスターの質はたかが知れているが、それでも沢山食えばそれなりの強化になる。
先程の力から判断するに、相当な強化ーーざっと27レベルくらいまで上がっている。
「くっ!?」
ユウは考え事をしていると、ミノタウロスが急速に迫り、斧を水平に振る。ユウは剣でそれを受け止めようとするが、強力な一撃にユウは壁まで吹っ飛ばされる。
「ユウ!? 『氷結魔法』《コールドフィールド》」
「ブモォ!?」
《コールドフィールド》はミノタウロスの体を呑み込む。しかし、
「ブモォオオオオオ!」
「うっ!?」
ミノタウロスは容易くその氷を破壊する。その衝撃に葵も吹っ飛ばされた。
「ブモォオオオオオオオオオオ!!!」
◾️◾️◾️◾️◾️
おーーさい
おきーーい
起きなさい
「ハッ!」
そこで僕は起きた。
僕は周囲を見渡す。そこは『迷宮』ではなく、地平線の先まで広がる草原だった。
「ここ、は?」
「やっと起きたのね」
「ッ!?」
僕は声が聞こえる後ろの方を振り返る。
「あら、どうしたの? そんなに慌てて振り返って、そんなに驚くことでもあった?」
そこにいたのは、形のないナニカだった。しかし、不思議と恐怖といったものは感じない。むしろ、安心したものを覚える。まるで、無くしたものが戻っていくような。
そのナニカはゆっくりと僕に近づき、手と思われるナニカで僕の顔を触る。
その瞬間、とんでもない情報量が僕の中を駆け巡り、僕は思わず膝と手を地面につく。
「カハッ! ゴホッ、ゴホッ!」
「あらあら」
体の内側から外側に向かって、ナニカが飛び出そうとしている。僕はそれを無理やり抑え込もうとするが無理だった。
形のないナニカは優しく僕の肩に手を置き、
「『魂の器』を広げなさい。少しは楽になるわ」
「ガッ! た、まし、いの、うつ、わ?」
そう言われて、本能的に自分の中にナニカの領域を感じる。
「そう。今なら知覚できるでしょう? その領域を広げなさい。できるだけ広く」
「ぐっ、うっ」
「落ち着いて、少しずつ」
「ふぅっ、ふぅっ」
言われた通り領域を広げ、沢山の情報量をそこへ少しずつ入れていく。そうすると、内側の圧迫感が無くなった。
「一体、何が?」
「ごめんなさいね。ついつい剥き出しの状態で触れてしまったわ。今の貴方の身体は普通だものね」
「貴方は僕の過去を、知っているのですか?」
「……そうね。知っていると言えば知っているし、知っていないと言えば知っていないわ」
中々に要領を得ない答えが返ってきた。しかし、何故か意味は分かってしまった。
だとするならば、もうここにいる意味はない。早く現実に戻って、葵を助けないと。
「待ちなさい。今の貴方の身体はボロボロよ。それに貴方達の力は全く通用していなかったわ。どうして行くの?」
「何故、か? そんなの決まっていますよ。『負けっぱなしではいられない』からです」
「ッ! そう。なら、もうこれ以上は言わないわ」
形のないナニカは諦めたかのように、脱力する。そして、僕の首に刀を添えていた。
「ッ!?」
「言っても聞かないなら、力づくで分からせるしかないわね」
「クッ!」
僕はすぐに後ろへと飛び、ナニカと距離を取る。
全く動く気配が読めなかった。間違いなく僕より強い。さっきのミノタウロスより、下手したらシオンさんより……。
ナニカは少しずつ形を持っていき、やがて人が現れた。
容姿は葵に似ているが、葵よりも幾分か成長した体に葵とは違い、青ではなく黄色が混ざった白銀色の髪と瞳だった。
「私の名前は『幻桜』雫。行くわよ、ユウ君」
「なっ!?」




