第二頁 初めての探索
『アインディア迷宮』第1層――
「ここが第1層。予想以上に暗い……」
『アインディア迷宮』の最大到達階層は60階層。まぁ、まだまだ初心者の僕には縁遠い話ではあるけど。
第1層は石造りの遺跡のような空間。正直、暗すぎる。壁に灯りが備え付けられてはいるけど、それでも余り見えない。何か自前の灯りを持ってくるべきだったかな?
はぁ、こういう時魔法で灯りを付けられたら良かったんだけどなぁ。幻想魔法ってそういうイメージはないからな〜。
そもそも幻想魔法って、どういった魔法なんだろうか? シオンさんから貰った『誰でも分かる世界常識 著 シオン』なるものには、何も書かれていなかった。そもそも、魔法には火、水、風、土、光、闇という属性が主である。まぁ、あくまで主だから他にも属性はある。しかし、幻想魔法に似ていそうな幻惑魔法は光、闇属性に分類される。つまり、そもそも幻惑は属性扱いではないのだ。
そして、ステータスに刻まれているのは属性魔法のみ。つまり、幻想という属性の魔法なのだ。問題はそれが分かったところで、何ができるか分からないという事だ。
「はぁ。何か効果があれば、推測できそうなのに。『明るくなってくれないかなぁ』」
そう何気ない一言を言った瞬間、僕の見る世界は変わった。暗かった空間は地上と同じくらいの明るくなったのだ。
「はっ? えっ、はっ?」
な、何が起きたんだ?
僕は思わず、壁に掛かっている灯りを見る。灯りはずっと小さく輝いている。その明るさは迷宮に入った時から変わらない。しかし、事実暗い部分は明るくなり、果ての壁まで視認できるようになっている。
つまり、変わったのは僕の眼の方なのか?
魔法が発動した?
さっきの呟きで?
幻想魔法は願いを叶える魔法?
ならば、これならどうだ?
僕は手を前に出し呟く。
「風よ、集まってくれ」
……何も起きない。
何かしらの条件があるのだろうか?
もしかしたら、そもそも『願いを叶える』という所が間違っているかもしれない。
ちょっと実験しよう。
数時間後……
とりあえず、以下二つの事が分かった。
・『願い』の影響が出るのは自分の体のみ
・『願い』は口に出さなくても良い
今はこれぐらいしか分からなかった。
レベルとかそういった問題があるのかもしれない為、レベル1じゃこんなものだろう。
でも、だからといって幻想魔法は索敵とかには使えそうだが、戦闘には少し不向きに感じる。う〜ん。
ユウが悩んでいると、奥の方より一匹のモンスターが現れる。
そのモンスターは灰色の毛並みに血のような紅い瞳の狼型のモンスター。確か『誰でも分かる世界(以下略)』だと、シャドウウルフっていうモンスターだった気がする。闇属性に分類される影魔法を使うモンスターなのだが、《シャドウダイブ》という影に潜る魔法しか使えず、潜っている最中その部分の影は波が立っているのだ。その上、シャドウウルフ自体も速さはそれなりなのだが、余りステータスは高くない。真っ暗闇なら問題無いなのだが、第1層は元々明るいし、今は僕の《ナイトヴィジョン》(さっき命名)によって視界はさらに明るい。つまり、分かりやすいのだ。まぁ、第1層のモンスターらしいと言えば、らしいのだが。
「グルルルル!」
「わぁ、戦意剥き出しだ」
僕は直ぐに腰に下げている剣を鞘から引き抜き、自分の前に構え、シャドウウルフへと駆け出す。
後手に回ったシャドウウルフだが、《シャドウダイブ》を発動して自身の影へと潜る。しかし、それは僕に対しては悪手で、僕は直ぐ様、剣を逆手持ちにし、体重をかけてその波立つ影に突き刺す。
「グルゥオ!?」
「少し浅い」
シャドウウルフは直ぐに影から脱出し、僕から距離を取る。
シャドウウルフの左目から血が流れ、シャドウウルフは影魔法は無理だと理解したのか、己の脚力をもって僕に接近する。
シャドウウルフの接近を見て、シャドウウルフの速さが自身より上だと判断したユウは逆手持ちの状態で剣を自身の前で横向きに構えて、カウンターを狙う事にした。
それに気づかないシャドウウルフは誘われるがままにユウへと迫り、その口を開ける。それを確認したユウは体を左に倒して、剣をその口から一閃する。
体を一閃されたシャドウウルフは絶命し、その体を魔石へと変え、地面を転がる。
僕はその魔石を拾い、ポケットに入れる。そして、少し一息入れる。
「ふぅ、これで一体か。それで、そろそろ出てきたらどうですか、シオンさん」
ユウがそう呼ぶと、後ろの角からシオンがひょこっと出てきた。その顔はどこか見つけてくれて嬉しそうである。
「初めての戦いにしては良い動きでしたね。それに私に気づけたのも良いですね」
「はぁ、ありがとうございます。それで、どうしてここに?」
「ふふっ、しっかり探索できているのか見に来たんですよ」
「あ、そうだ。シオンさんからくれたこの本、とても役に立っています。ありがとうございます」
「いえいえ、役に立ったのなら良かったです。
僕との会話にシオンさんは楽しそうに参加する。
さて、とシオンさんは手を叩き、僕にとって予想外過ぎる提案をしてきた。
「ユウ君。このまま第10層くらいまで降りてみましょうか」
「はい? 第10層? いやあの、僕まだレベル1なんですけど」
「ええ、分かってますよ。でも、私もいますし、貴方なら問題ありません」
「いや、そういう問題では――「さあさあ、行きましょう!」――ちょっと待って下さい! 力強い!」
僕に有無を言わせず、シオンさんは僕の腕を掴み移動する。僕はそれに全く抵抗できなかった。




