第三頁 第10層
第9層――
そこには楽しそうに少年を見守る少女と少女に連れ回されている少年がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ。きっつい!」
「ふふっ。頑張ってくださいね。《ヒール》」
傷だらけになっているユウはシオンに辛さを訴えるが、シオンは全く聞き入れず、ユウに回復魔法を掛ける。
シオンに(無理矢理)連れられているユウはここまでのモンスターの全てを一人で相手にしている。シオンは少し離れた所で回復魔法で援護するだけである。
ユウは油断せずに最後のモンスターと戦う。今、自分の前にいるのは『スケルトンナイト』。剣と盾を装備したスケルトン。ぶっちゃけ相性が悪い。剣じゃ盾を持っている相手に余り有効打は与えられないし、何せ攻撃魔法が一切無いため、本当に手詰まり一歩手前なのだ。
それを理解したのかは分からないが、スケルトンナイトは攻撃に転じ始める。スケルトンナイトの攻撃に対し、ユウはギリギリで防御と回避をする。
速さは同等。スケルトンナイトの防御力が僕の攻撃力より高い。
ユウは冷静に分析して、勝ち筋を手繰り寄せる。
ユウはカウンターでスケルトンナイトの頭を上段切りで攻撃しようするが、スケルトンナイトの盾に止められる。しかし、ユウはすぐに体勢を低くし、盾を障害物にしてスケルトンナイトの死角に移動する。そして、スケルトンナイトの盾を持っている左腕を切り上げで破壊する。スケルトンナイトは片腕を失いながらも動揺する事なく距離を取る。
これによって、両者の条件はほぼ等しくなる。両者は剣を正眼の構えで相対する。
何処からともなく雫が地面に落ちた音が響いた瞬間、両者は一斉に動き出す。
両者の剣は甲高い音を立ててぶつかり合い、命を賭けた鍔迫り合いが繰り広げられる。状況はユウがやや不利である。しかし、それでもユウは足を一歩も引かず、それどころか前へ前へと押し出していく。スケルトンナイトも負けじと押し返すが、片腕と両腕では込められる力の差がある。よって、徐々にスケルトンナイトの剣は自身の体へと近づき――
「ハァッ!」
ユウの剣はスケルトンナイトの剣ごと胴体を切り裂いた。スケルトンナイトが魔石になって地面に落ちるのと同時にユウも座り込んだ。
ユウが肩で息をしている時、シオンは拍手しながら近づいて来た。
「流石ですね。私の見込んだ通りです」
「もう、流石に、疲れました」
「ふふっ。疲れただけで済んでいる辺り、凄いですよ」
「あまり、嬉しくない」
ユウのその言葉もシオンは嬉しそうに聞く。そして、満足したかのようにユウに背を向けて、帰り道を歩く。
「シオンさん?」
「ここからは君だけで問題無いと思います。第10層はモンスターが出ない安全階層ですし、地上に戻れるワープポータルがありますから」
「シオンさんも来れば良いのでは?」
「いえ、私は少し野暮用があるので寄り道してから帰ります」
「分かりました」
シオンさんが姿を消した頃、僕も次のモンスターが現れない内に第10層への階段を降り、大きな扉を開ける。
今までの階層よりも明るい光が目に差し込み、思わず目を細める。視界が回復し、第10層を見渡すとふと地面の上に1冊の本が落ちているのを見つけた。
誰かの落とし物だろうか? と、それに近づき、その本を手に取った。
銀と青で装飾されている本で、表紙には『孤独の少女は外の世界を夢見る』というタイトルが付けられていた。裏表紙も確認したが、名前らしきものは何も書かれていなかった。とりあえず、内容を確認しようと思って、表紙を捲る。
『第一章』
〝少女は突如として生まれた。何の意味もなく、何の意図もなく、ただ世界より生まれた〟
〝少女は時間も空間も存在しない世界にただ一人漂っていた〟
〝少女はとても不幸だった〟
〝少女は心を持っていた〟
〝そんな当たり前の事が少女を苦しめていた〟
〝少女は◾️◾️◾️を待っていた〟
〝しかし、少女の世界に辿り着ける者はいなかった〟
次の頁を捲ると白紙だった。その次も次の次も白紙だった。その様子に頭痛が発生し、その場に蹲る。
「うっ、ぐっ、あぐっ」
頭が、痛い。忘れてはいけない何かを忘れているような。体の奥底が、心が、魂が求めているような。
そして、頭痛を抑えるかのような涼やかな声が頭上から掛かる。
「大丈夫?」
「……あ、えっ?」
僕は頭を押さえながら立ち上がり声の主を見る。
そこにいたのは銀に青が混ざったまるで氷のような髪と瞳をした少女がいた。
その姿に更なる頭痛とそして何故か凄い安堵感を得た。口が勝手に言葉を紡ぐ。
「君は、一体?」
「私? 私に名前は無いわ。できれば、貴方に付けて欲しいわ」
「名前……」
青が似合うような少女。ただ、それ以上に心にはまるものがあった。
「『葵』」
「葵? アオイ? それが私の名前?」
「うん」
「葵。葵。うん、葵。分かったわ、ありがとう! それじゃ、貴方の名前は?」
「僕はユウ。ただのユウだよ」
「ユウ! これからよろしくね!」
「ああ、うん」
「それで、これからどうするの?」
「とりあえず、地上に帰ろうかな。もう、ヘトヘトだから」
「そっか。じゃあ、またね」
葵のその一言に僕は一瞬、身を引き裂かれるのような気持ちになった。僕は少し泣きそうな気持ちを抑えて、葵に尋ねる。
「え、一緒に来ないの?」
「えっ? でも、行っていいの? 迷惑じゃない?」
「? 別に迷惑じゃないよ。というか、なんていうか僕が一緒に来て欲しいな〜、なんて」
「! ええ、分かったわ。ユウと一緒に行くわ!」
僕達は部屋の隅にある青く発光する魔法陣の上に乗る。
《登場人物紹介》
葵
ユウが『アインディア迷宮』の第10層にて『孤独の少女は外の世界を夢見る』の本を読んだ後、ユウの前に現れた少女。青混じりの白銀の瞳と髪を持つ。ユウと同じく記憶喪失で自分が何者なのかは知らない。しかし、本人はあまり気にしていない。
『ステータス』
【レベル】 1
【クラス】
【スキル】 幻想魔法 1
水魔法 1
氷結魔法 1
剣術 1




