第一頁 少年はまた歩く
「はぁ、はぁ、はぁ、くっ!」
一人の少年が深い森の中を彷徨う。その者はただ走る。その体に幾つもの傷を付けては、怪物から逃れようとする。
しかし、捕食者は獲物を逃さない。その捕食者は大きい口を開けて、その矮小なる存在を喰らおうとしていた。
その状況を手助けするかのように、少年は木の根に躓き地面に倒れ込む。
「こ、来ないで……」
もはや、少年には怪物から逃れる力は残っていなかった。
怪物はその開いた口を閉ざそうとし、同時に少年の物語の幕も閉じようとしていた時――
「――やめて貰おうか」
静かな森に一つの声が響く。
その声に対して怪物は本能に刻まれた危険察知能力に従い、すぐに逃走した。
声の主は少年のすぐ後ろの木の影から現れ、少年に声を掛ける。
「大丈夫? 災難でしたね」
「あっ、えっ、はい」
少年は辿々しくも、その声の主に応えていく。
声の主は白銀の髪と紫混じりの白銀の瞳に白銀の服を着た少女で、この暗い森には似合わない神秘的な雰囲気を纏っていた。
少年は少女にお礼をしようと立とうとして、失敗した。
慌てて少女は少年に近寄り、少年の状態を確かめる。
「――ふぅ。どうやら、極度の緊張状態が解けて上手く体に力が入らないだけみたいですね。軽傷の様だし、これなら痕は残らないでしょう――《ヒール》」
少女が《ヒール》と唱えると、少年の体はみるみる回復していった。
ただ、少年は体の回復と同時に眠気が襲って来て、少年の意識は沈んで行った。その時、少女の声が聞こえた気がした。
「今はゆっくり休んでください。――ああ、そうでした。自己紹介をしないとですね。私の名前はシオン。旅人です。私は貴方の来訪を歓迎しますよ。――ユウ」
そこで少年の意識は完全に落ちた。
◾️◾️◾️◾️◾️
「――はっ」
少年――ユウの意識は覚醒する。ユウは体を起こし、周囲を確認する。
今、自身が寝ていたベッドを始めとし、机やクローゼットといった家具があった。どこかの部屋らしい。
いや、知っている。ここはアインディア国のギルドが所持する宿舎。確か、僕はシオンさんに助けられて、このアインディア国まで運ばれた――んだっけ?
僕は少し前の記憶を映し出した夢を見て、自分の事を整理していく。
僕はシオンさんによってアインディア・ギルドに登録されて、探索者となった。
シーカーは下から、E、D、C、B、A、Sと言ったランクが振り分けられていて、依頼の達成度など能力の高さによって振り分けられている。僕はもちろんEランクで下っ端も下っ端だ。ちなみにシオンさんはSランクのシーカーだそうだ。凄い人である。
僕はシオンさんから貰った服に着替え、部屋を出てギルドへと向かう。本当にシオンさんさまさまである。
◾️◾️◾️◾️◾️
「おはようございます」
「おはようございます。ユウ君」
「おう。おはようさん」
ユウはアインディア・ギルドに入り、受付にいたシオンさんとギルドマスターのアレクさんに挨拶する。
アレクさんはアインディア・ギルドのギルドマスターで元Sランクシーカー。赤髪赤目の筋骨隆々の大男。まさに熱血タイプの人物である。
シオンさんは近寄る僕の服を隅から隅までジロジロと見る。どうしたのだろうか? 少し居心地が悪い。僕は自身の服装を見つめ直す。
僕の服装は黒いインナーに黒いズボンに黒い外套――あれ? 僕真っ黒じゃね?
僕の髪と瞳も黒色で、本当に真っ黒である。暗殺者に見えなくも無い。暗殺の技能は皆無だが。
「うんうん。よく似合ってますよ。さあ、記念すべき初仕事です。じゃあ、アレク君。説明よろしく」
「ここで俺に丸投げかよ……。まぁ良い。よし、ユウ。まず、俺たちシーカーの役割とは?」
「『迷宮』の探索と依頼の達成、です」
「その通りだ。中でも『迷宮』の探索が俺たちの主な役割だ」
『迷宮』――各国に一つずつ点在している地下空間。数々のシーカーが日々迷宮へと挑み、成果を上げる。迷宮にて取れる物――主にモンスターの核となる『魔石』――を回収して、ギルドが買い取り、シーカーはそれによって富や名声を得る。魔石はエネルギーが含まれているため、様々な開発に用いられている。
「というわけで、ユウ。これがお前の『ステータス』だ。本来なら、そこの『鑑定玉』でお前さんだけで調べるはずなのだが、そこの非常識が勝手に調べやがったからな……」
アレクさんが横にいるシオンさんに目を向けながら言う。対するシオンさんは終始笑顔のままである。僕は苦笑するしかなかった。
僕はアレクさんから『ステータス』が書かれた紙を貰い、確認する。
【名前】 ユウ
【レベル】 1
【クラス】 シーカー
【スキル】 幻想魔法 1 剣術 1
うん。初心者らしいステータスである。
アレクさんは何やら思案している様だが、どうしたのだろうか?
「どうかしましたか? アレクさん」
「いや、何でもない。とりあえず、今日は安全第一に進んでくれ。決して、先走るなよ」
「あっ、はい」
アレクさんが余りにも強い気迫で言うので、僕はほぼ反射的に反応する。
そうして、僕は城下町から少し離れた『迷宮』へと向かうのだった。
ユウを見送った二人はユウのステータスを見て、神妙な顔になる。
「なあ、『幻想魔法』なんて聞いたことあるか?」
「一応はあります。とは言っても、聞き齧った程度ですが……」
「それは一体?」
「……『世界のはみ出し者』だそうですよ。幻想魔法を所持する人は」
「『世界のはみ出し者』? 何じゃそりゃ?」
「さあ? 私にも分かりません。ただ言えるのはユウ君は普通の人間ではないということですかね」
「ったく。『記憶喪失』に訳の分からない『魔法』。問題だらけじゃねぇか。そして、そういった問題を拾ってくるお前もな」
「とても心外な評価ですね。ただ人助けしただけなんですけどね」
「……よくよく聞いてみれば、お前が人助けとか気持ち悪いな。お前、人に全く興味無いはずだろ」
「……貴方が私の事を何だと思っているのか、少し聞いてみたいですね」
シオンは魔法で手に白い炎を出現させ、アレクへと向ける。
「ちょっ、待て! その炎を俺に向けるな! 洒落にならんぞそれは!」
「嫌なら、少しはデリカシーを覚えてください。女性に掛ける言葉はしっかり選んでください」
「……お前がもう少しお淑やかならしっかり考えるがな」
「何か?」
「いえなんでもありません」
シオンはため息を吐いて炎を消した。
「さて、ユウ君の監督でもしましょうかね」
シオンは魔法で自身の姿を消して、ユウの後について行った。
アレクはその様子を見て、やっぱり気持ち悪いなと口に出す事なく、心に秘めたのだった。
《登場人物紹介》
ユウ
記憶喪失の少年。黒髪黒目の童顔少年。ある程度の常識以外全ての記憶が消えてしまった。ユウという名前はシオンに付けてもらった。シオンに助けてもらった後そのまま拾われ、ある程度の戦闘技術を身につけた後シーカーとして活動を開始する。
『ステータス』
【レベル】 1
【クラス】 シーカー
【スキル】 幻想魔法 1
剣術 1
シオン
ユウを拾った少女。白銀の髪と紫混じりの白銀の瞳を持つ。Sランクシーカーで世界でトップレベルの強者。意外とユウに対して過保護(アレクに気味悪がられる程に)。それ故か、世界トップクラスの知識を詰め込んだ『誰でも分かる世界常識 著 シオン』を渡す始末。ちなみにユウのシーカーデビューの前日に五時間掛けて作った。
『ステータス』
非公開
アレク・ディルドレス
アインディア国のギルドマスター。赤髪赤目の筋骨隆々の男。元Sランクシーカーであり、シオンに物怖じ無く色々言える人間(許されるとは言ってない)。独身である。
『ステータス』
【レベル】 158
【クラス】 シーカー アインディア・ギルドマスター 聖炎騎士 闇炎騎士 混沌騎士
【スキル】 聖炎魔法 95
闇炎魔法 92
混沌魔法 59
双剣術 124
大剣術 113
探索術 106
状態異常耐性 147
自己回復 143
その他…




