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幻想を歩く旅人  作者: 幻桜ユウ
第二章 孤独の少女は外の世界を夢見る
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第十一頁 『幻桜』の第一歩






 白い草原の上にて、世界の『白さ』に対し異彩を誇る『黒さ』がいた。


 言わずもがな、ユウである。


 しかし現在、シエルによってユウの真名が解明され、『幻桜ユウ』となった。これからユウは『幻桜ユウ』と名乗る事になる。


 ちなみにこれは葵も同様で、葵の真名も『幻桜葵』となった。この二人が『幻桜雫』とどう関係あるか未だ疑問ではあるが。


 さて、修行期間が終わりを迎え、ユウと葵はいよいよ元の世界へと戻る事になった。


 

 「準備はできた? ユウ君」

 「あっ、大丈夫です! 師匠」

 「それは良かった。しつこいけど、もう一度言うよ? この世界はあくまで『夢』。この世界での経験は貴方達の『魂』に刻まれているけど、元の世界の貴方達の『器』はこの世界に来る前のまま。だからーー」

 「自分の技術に振り回されない様に力を制限すること、ですね?」

 「うん、よくできました。特に君達のように劇的な成長をしたら、その差が酷くなるから。もしかしたら、一つ歩くことすら難しいかもよ?」

 


 そう言う師匠。


 あの。僕達、強化種のミノタウロスの側で気絶しているんですがそれは。


 下手したら、ここに来る前よりも弱体化しているんですがそれは。



 「君の懸念は最もだ。そしてそれは正しい。間違いなく、目覚めたら産まれたての子鹿のようにプルプル体が震えるだろうね」



 そう笑って見せる師匠。


 師匠よ、僕にとっては全く笑えないんですが。



 「さて、もうそろそろ時間のようだ。行ってくるといい。あぁそうだ、もし、『アインディア迷宮』を踏破したら、私が居る国『ケルディア国』に来るといい。今回は『夢』だったけど、現実であるのを楽しみにしてるよ」


 

 白い世界が崩れる。硝子が割れるように、バラバラに。遂に僕の足下が崩れ、重力に従って僕の体は下に落ちていく。


 その中、師匠だけは宙に浮いたまま僕に向かって手を小さく振っていた。


 もはや、声が届かないくらいに遠くなると、雫は呟いた。



 「まぁ、安心したまえ。君なら勝てるさ、そう、君はもう誰にも縛られていない。これは『君の物語』だ。陰ながら応援してるよ、がんばれユウ君」

 


 

 ◾️◽️◾️◽️◾️




 パチッ


 僕は目が覚めた。


 目に光が、鼻に匂いが、耳に音が。


 『夢』では感じる事のできなかった五感が正常に機能していくのを感じる。


 僕は体を起こす。体の傷は既に癒えていた。


 しかし、体を起こす事はできても、立ち上がる事はできない。


 理由は単純。まだ『魂』と『器』の接続が上手くいっていない。『魂』からの指令が『器』全体に行き届いていない。



 「『幻桜刀』」



 愛刀の名を呼べば、右手にその姿を現す。


 良かった。ちゃんと使える。『夢』は夢だとしても、嘘ではなかった。


 幻桜刀を支えにして、何とか立ち上がる。


 幻桜刀を支えにすれば、歩く事もできそうだ。


 なんて、客観的に見れば相当におかしい絵面だろうな。無傷なのに、まるで重症かのように振る舞っているのだから。


 仕方ないけどね。『器』の情報と『魂』の情報が乖離しすぎて、今も体が捻じ切れそうだし。


 どうしようもないため、『幻想領域』を展開して、『器』と『魂』を『ご都合主義デウス・エクス・マキナ』で繋ぐ。


 戦闘後が怖いけど、流石に今回は仕方ない。


 体の不自由さが消えた僕は、瓦礫の山から抜ける。


 幸か不幸か、ミノタウロスはこの部屋に留まっていたようだ。


 ミノタウロスは瓦礫から出てきた僕の方と、そして、少し潰れた壁の方から歩いてくる葵の方にも警戒を向ける。


 本能とこれまでの戦闘による経験から理解したのだろう。目の前の二人の敵が、いかなる変貌を遂げたのか。


 さあ、行こう。第二ラウンドだ。


 これは、幻桜ユウとしての戦いの第一歩だ。


 幻桜刀を構え、走り出す。



 「ブモオオオオオ!」


 

 ミノタウロスは咆哮する。僕はそれに臆する事なく近づく。



 「『幻桜流剣術』《桜閃(おうせん)



 刀はミノタウロスの胴体を斬り裂く。以前とは違い、技術が確立した今では力は同じでも与えるダメージは違う。


 ミノタウロスはその痛みに動きを一瞬止め、葵はその隙を見逃さなかった。



 「『幻桜流抜刀術』《雷桜(らいおう)》」



 雷の如き一閃がミノタウロスの背中に大一文字を書く。


 更なる追撃にミノタウロスは対応が遅れる。しかし、元の『ステイタス』の差があるため、すぐに体勢を整えられた。


 ミノタウロスは大きくジャンプし、全体重をもって斧を振り下ろす。


 それに合わせて刀を置き、斧を逸らす。


 ミノタウロスの攻撃はそれだけに留まらず、蹴りを入れてくる。



 「『幻桜流体術』《(ごう)》」



 その蹴りに僕も蹴りで対抗する。


 ミノタウロスの力に対抗はできないため、ミノタウロスの蹴りに自身の蹴りを合わせて、後ろに飛ぶ。


 

 「やっぱり強いわね」

 「そうだね。技術を身に付けただけじゃ、差は簡単には埋まらないね。それはそれで、対処法はあるけど」

 「相手が自分よりも格上なら、戦いながら自分が相手を上回る程強くなれば良い、わよね?」

 「そうだね。折角の格上との戦闘なんだ。思いっきり有効活用しないとね」


 

 僕も葵も自然と笑みが溢れる。


 それは、ミノタウロスもだった。


 三人に共通する感情はただ一つ、『楽しい』。


 それだけで、この戦いは成り立っていた。


 悪いね。仕切り直そう。


 さあ、第三ラウンドだ。






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