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変異

 その場にいたのは、京子率いる『パビリオン』の連中。


 こいつらが、みんなを──


「お前も、ここのコミュニティのメンバーかい?」


「……」


「随分嫌われたものだな」


 京子は、そう言うのと同時に僕の胸ぐらを掴み、壁に押し付けてきた。


「事情もちゃんと理解していないのに、目の前で見た事だけで判断して情けない。ガキかよ……あ、ガキか」


「ふっ! ふざけるな! この状況を見て、疑わない方がおかしいじゃないか!?」


「だから……私の部下を殺した……状況判断もせず、感情のままに……」


 ──ッ!?


 京子から凄まじい殺気が放たれ、胸のあたりがざわつく。


「お前のした事は、野盗と変わらないなぁ? どうなんだい? 返事次第じゃ……殺すよ?」


 胸ぐらを掴んでいる手に力がさらに入り、女とは思えない力で僕を持ち上げてきた。


 この怪力もハーフゾンビの能力なのか?


 僕はゾンビらしき者を3体しか仲間に出来ない能力だというのに。


 祐希奈さんは、大量のゾンビらしき者を仲間に出来るし、京子とやり合ってるのを見ると力だって強いんだろう。


 しずくをゾンビらしき者に変えたハーフゾンビも、しずくを硬化させる能力があった。


 なんで僕だけ弱いんだ?


 なんでいつも僕だけっ……!!


「何も答えらんないの……って、あんた泣いてるのかい!? はーはっはっは! 傑作だね! 怖くて泣いてるなんて本当にガキだねぇ? 」


 ──僕の中で何かが吹っ切れた。


 両足で胸を蹴飛ばしてやると、京子の体は後ろにぶっ飛び、僕を掴んでた手が離れる。


 そのまま尻餅をつきながらも、すぐに体勢を整えて起き上がり、頭を潰された篠崎さんに僕の腕を口に突っ込んでやり、血を飲ませた。


 どうして、そんな事をしたのかわからないけど、そうしろって頭の中で言われたんだ。


「やってくれたね、ガキ。それと頭を潰されたそいつに血を与えても無意味よ! 何も知らないガキ──」


 突然骨が軋む、嫌な音が周囲に鳴り響いたのと同時に、左腕がグネグネとタコの足みたいにうねうねと激しく動き始め、足はどんどん肥大化していき、体も一回り大きくなってきている。


「なに? 何が起きてるの? 頭を潰された奴に血を与えても何も起きるはずないのに、なんでアレは動けてるの?」


 僕にだってわからない。


 こんな事今までなかったし、僕の血に力があったのか、篠崎さんに隠された何かがあったのかわからないけど、こいつは……この化け物はパビリオンの連中を倒してくれる!


「ヴォォォォォォォォ!!」


「くっ、五十嵐君あの化け物は!?」


「自分でも何がなんだか……でも、祐希奈さん離れて! あいつは多分僕以外を攻撃する!」


 変形が終わり、人間の姿を留めていない化け物が荒々しい息を吐き出し動かない。


 何故だ? 僕の命令を待ってるのか?


 それとも──


 京子がその間に隊列を整わせて、倒れているゾンビらしき少女に駆け寄り抱き抱えた。


 あの少女は生きているのか? 死んでいるのかここからじゃわからないが、京子にとってあの少女が特別って事がわかる。


「残ったメンバーで奴を食い止める!」


「京子さん正気ですか!? あんな3m以上あるような化け物をどうやって!?」


「黙れ! 食い止めなければどっちみち死ぬぞ! ならば戦士らしく戦って死ぬ道を選ぶ! 田中! 佐藤! 鈴木! 攻撃を仕掛けろ!」


 めちゃくちゃな事言う女だな……。


 誰だって死にたくない。


 なのに、あんな化け物に突撃して死ねなんて命令をするという事のリスクを考えられていないのか?


 それも、後方から指示するような総隊長に誰が従うんだろ? 


「な!? 我々が先陣を切って攻撃するんですか!?」


「冗談じゃねーよ! 俺は逃げるぞ!」


「あんたが可愛がってる、そのゾンビのガキに戦わせりゃ良いじゃねーか! やってらんねーよ!」


 ドン! という音とともにボーリング玉ほどの大きな拳が地面にクレーターを作り、先程までそこにいた男が消えた。


 続けざまに触手になったその腕で、もう1人の男の体を絡み取りそのままバイクに投げつける。


 と、思ったら即座に移動し、次々とバイクを破壊してまわってる。


「皆でかかれぇ!! 乗ってきたバイクは全部破壊され、逃げ道はなくなった! ここで倒さねば私達に生きる道はないぞ!」


 一番に誰よりも速く一撃を加えんと京子が飛び出して行き、それに続けとばかりに8人の男達も飛び出して行った。


「ボウガンの奴らは後方から援護を! 叩いたり、斬ったり出来る武器を持っている奴らはガンガン攻めるよ!」


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「グォッ!?」


「食らいやがれー!!」


 化け物は、一斉攻撃を物ともせずに攻撃してきた連中を力の限りに引きちぎったり、叩きつけたり、ひねり潰した。


「くそ、私の仲間を……よくも私の仲間をー!!」


「グルォォォォォォォォ!!」


 この一撃で、京子と化け物の戦いに決着がつくだろう。


 だけど、それで良いのか? 藤崎さん達の情報も聞けてないのに?


「篠崎さんやめろ!」


 化け物は僕の声に反応して、ぴたりと動きを止めた。


 ただ、京子の方はその動きを止める事なく手にした斧の一撃をズガンと化け物にお見舞いしたが、頭蓋で止まり致命傷を負わせる事が出来なかった。


「……」


 化け物は、ただ黙って僕を見つめ、京子の攻撃を全く受けていない感じだ。


 だけど、こいつは僕の言う事を聞いて止まったのか、篠崎さんという言葉に反応して止まっただけなのかわからないが、とりあえずはもう危害を加えてこないって事だろうか?


 試す必要がある。


 この化け物を従わせられる事が出来たなら、かなり心強い。


「おい! ガキ……」


「しっ! 黙って!」


 僕は、そっと化け物に手を伸ばしその体に触れようとしたら膝を付き頭を垂れる。


 やっぱり僕に従ってるのか?


 だとしたら、僕の血を与えた者は──


「五十嵐君……」


「祐希奈さん心配しないで、大丈夫だから」


 垂らしてきた頭をそのまま撫でてやると、グルルルゥと喉を鳴らし、猫のようにその顔を腕にすりすりと擦り付けてきた。


「ガキィ! やっぱりその化け物はお前が生み出したのか!? ふざけやがって! 私の部下達を!!」


 京子離れて!


 その声と同時に姿を京子の前に現した獣耳の少女。


「美奈!? だめ! そいつと戦ったら!」


 ブウォォォォォォォォ!!


 シャァァァァァァァァ!!


「篠崎さんやめろ! もうこれ以上殺したらダメだ!」


 両者ともに動きを止めたものの、美奈と呼ばれてる少女も化け物も警戒心は解かない。


 僕達ハーフゾンビや人間には警戒心らしいものを感じさせなかったのに、あの少女には警戒心を持つという事はそれだけ強いって事なんだろうか?


「ガキィ……とりあえず休戦だ」


「そうだね、お互いにこれ以上争っても何の利益にもならないしね」


「あなた達一体何なのよぉ!? 五十嵐君も京子もそんな戦闘兵器みたいな化け物を持っててさぁ!」


 今まで大人びてた祐希奈さんの情けない声が、なんだか可愛いくもあり、面白くなって僕も京子さんもぷっと息を吹き出し笑ってしまった。


「とりあえず、お前達私のギルドに来い。そこで話をしよう。なに、取って食ったりしやしないさ。あんた達は貴重な戦力になるってわかったしね」


「ちょっ!? 京子正気!? こいつら……祐希奈の方は多少知ってるにしても、ガキの方は素性がわからない上にこんな化け物を飼ってんだよ!? 信用できないよ!」


「まぁ、そう言うな。今私達には戦力が必要だ。わかるな?」


 むぅー。とふくれてみるも、う~う~考えた後にうんうんと何か納得したみたいで、ようやく落ち着きを取り戻したみたいだ。


「じゃあ、納得してくれたみたいだし、パビリオンに行こうか。それと僕の名前は、ガキじゃなく五十嵐浩晃ってちゃんとした名前とあるんだ」


「五十嵐な。わかった、じゃあギルドに向かう道中で大体の説明をしちまうね。それと私らは、今回の件で一番ぶつかりたくない相手と戦闘になるかもしれないから、その辺の経緯も話ちまうよ」


 今回の件?


 今回の襲撃は、パビリオンの連中の仕業じゃないのか?


 そして、ギルドと呼ばれる集団はどうなってるんだろ?


 とにかく藤崎さん達の手がかりを掴むには付いて行くしかないか、パビリオンに──

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