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襲撃、撃退、決着

 どうして僕は、今まで徒歩で行動していたのだろう?


 そう思わずにいられないほどの快適な乗り物……自転車!


 道路のあちこちに放置された車、縁石に乗り上げている車、真っ黒焦げになっている車、そんな事はお構い無しにスイスイと進める自転車、燃料を必要としない自転車、考え方によってはバイクより使い勝手がいい。


「祐希奈さん、あのゾンビらしき軍団は連れて来ないんですか?」


「ぷっ! ゾンビらしき軍団って何? ゾンビで良いじゃない」


「いえ、僕達みたいなハーフゾンビがいるって事は治るかもしれないじゃないですか? だったらゾンビと言いきってしまうのはどうなのか? って思ってまして……」


「五十嵐君は真面目だね~。あと、敬語じゃなくても良いよ? タメ口で構わないから」


 祐希奈さんは、とても明るくフレンドリーな人だ。


 僕が人間のコミュニティにいる事を知っても、こうやって協力してくれる。


 あ、僕が先導しないとなのに並走してどうするんだ? 最初の分岐点に差し掛かり、まっすぐに進んでくださいって言わないと。


 ──え?


 祐希奈さんは、迷う事なくまっすぐに進んだ。


 たまたま?


 たまたまだよね。


 話に夢中になってたし、僕も直前まで何も言わなかったからだよね。


「そういえば祐希奈さんの能力って何ですか? 僕は──」


「おっと! 五十嵐君、そういう話はするもんじゃないよ? 自分の能力を知られるって事は、こんな世界じゃ、死に繋がりかねないからね?」


 確かに……。


 敵にこっちの手の内を知られるって事は、対策を練られる。


 僕なんかは、ゾンビらしき者を3体仲間に出来て、身体能力は生前のままに。って程度。


 祐希奈さんの能力は、多分ゾンビらしき者を大量に仲間に出来る事って推測。


 それなら、ハーフゾンビの僕達にとっては無力なような物だから、あそこで一人で暮らしていたのかもしれない。


 ちなみに座敷牢に入れられていた人間達は、屋敷を出発する時に全員をゾンビらしき者に変化させてしまった──言っても一齧りしただけなんだけども。


 とにかく、祐希奈さんを仲間に出来たのは大きい。


 あのゾンビらしき軍団を使って、祐希奈さんと僕とでハーフゾンビだと思われる敵リーダーを叩ける。


「あ、ここを右に入って行くんだよね?」


 やっぱり偶然じゃない。


 何で祐希奈さんは、コミュニティまでの道をわかっているんだ?


 来た事……偵察しに来た事がある?


「あ、はい! 右に入ってください! あとは、まっすぐ進むだけです」


「OK」


「祐希奈さん……何でコミュニティまでの道をわかっているんですか?」


 そう問いかける僕に、祐希奈さんは呆気に取られた表情をした。


「ごめん! 不安にさせたよね。"匂い"だよ」


 匂い?


 確かに僕も人間の匂いを感じる事は出来るけど、何キロも先の匂いなんかわからない。


 祐希奈さんは、嘘をついている?


「信じられないって顔してるね? 私の嗅覚は、かなり発達しちゃったみたいで5キロくらい先の匂いならわかっちゃうんだ」


 僕の気持ちを見透かしたように、祐希奈さんは答えてくれた。


 ……気持ちを見透かす?


 もしかして、祐希奈さんは、他人の心が読める能力?


 いや、さすがにSF過ぎるし、現実離れし過ぎている。


「……っ!?」


 血の匂い?


 コミュニティの方から?


 凄く強烈な。


「やっと気がついた? これ、やっぱり五十嵐君のコミュニティから?」


 やっと?


 祐希奈さんは、ずっと先から気づいてたのに教えてくれなかったのか?


 なんで?


「どうして気づいてたのに教えてくれなかったんですか!?」


 自転車を漕ぐ足を速め、急いで藤崎さん達の所へ向かう。


「ちょっ!? 五十嵐君!?」


 祐希奈さんの事なんか、今はどうでもいい。


 速く! 速く! 速く!


 現場に着いて、絶望した。


 20人近くのバイカー達。


 転がっているバイカーの死体、篠崎さんと篠崎さんの両親、コミュニティにいた女子供の死体。


 双葉さんは!?


 藤崎さん! よしみさん!


 生きているのか?


 いや、生きていてくれ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 転がっていたバイカーの死体を食いちぎった後に、鉈を取り上げ、20人のバイカー達に立ち向かって行ってた。


 数分もすれば、食いちぎった死体が僕の味方になってくれる。


 祐希奈さんは、もう信用できない。


 頼らない。


 僕が……全員倒す!


「おいおい、ガキが突っ込んできたぜぇ?」


「僕ちゃんは、お呼びじゃな──ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 右から左に鉈を振り回し、相手の顔面を叩き斬る。


 続いて、左にいた男の首に噛みつき引きちぎった。


 僕の猛進は、ここまで。


 すぐに他の男達に捕まり、羽交い締めにされる。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーッ!!」


 僕が先ほど食いちぎった死体が、ゾンビらしき者に変化し、僕を助けに来てくれた。


 動きは、生前と変わらず、痛みは感じず、恐怖もしない戦闘生物。


 腕に、顔面に、首に、次々噛みつき腹を裂き、あっという間にバイカー達を片付けてしまった。


「藤崎さん! よしみさん! 双葉さん!」


 なんとか藤崎さん達だけでも生きてて!


 その思いだけが、今は僕を支配していた。


「ぐぼぉっ!? がぁぁぁぁ!!」


「へぇ~。ゾンビなのに人間と変わらない動きをするんだね~?」


 "でも、弱い"


 そう言った少女は、僕の仲間になったゾンビらしき者3体を泥人形を壊すみたいに、字の如く八つ裂きにしてしまった。


「やっぱり狩猟班が、戻るまで待った方が良かったかな? ここまでやれるなんてね」


「だよね! 京子の能力に比べたら弱いけど、人間相手なら十分強い能力だったね!」


 なんなんだこいつら?


 一人は、京子って言うのか。


 ロングの黒髪に眼鏡、なぜかセーラー服の女の子。


 そばにいる、茶髪でおさげの女の子。明らかに小学生にしか見えないが、ゾンビらしき者をあっという間に八つ裂きにしてしまう馬鹿力。


「お前が、ハーフゾンビ?」


「そんな事よりも、藤崎さん達をどうしたんだ!?」


「質問に質問で返すな」


 刹那、強烈な吐き気と息苦しさ、額に滲む脂汗。


 遅れてやってくる、下腹部の鈍い痛み。


 僕のみぞおちに、深々と拳を埋め込んでいるおさげの女の子。


「で、お前がハーフゾンビ──あれ? 久しぶりだな……祐希奈」


 祐希奈さん……?


「久しぶりね、京子。その子がハーフゾンビよ」


 そう言うや否や、いつの間にか手にしていた鉄パイプで京子に襲いかかる祐希奈さん。


 すかさず、おさげの女の子が加勢するが、すぐに反応した祐希奈さんの強烈な突きの一撃が女の子の喉に直撃して、ぶっ飛んだ。


「祐希奈、てめえ、私の口説きには全然なびかねぇのに、そんなガキにはご執心とは、とんだ淫乱だね!! えぇ! おい!?」


「そんな風にしか見れない、つまらない貴女みたいな女よりよほど魅力的」


 祐希奈さんの蹴りが、京子の足に当たりバランスを崩す。


 続けざまに京子の背中に強烈なエルボーをかまし、全体重を乗せたまま二人で倒れこむ。


 間髪いれずに、祐希奈さんの腕は京子の首をがっちりと絞めた。


「さぁ、早くギブアップしなさい? 死ぬわよ?」


 ひゅーひゅーと呼吸が弱く、よだれを垂れ流すもギブアップしない京子。


 先ほどぶっ飛んだおさげの女の子が、動く気配がした。


 生まれたての子鹿みたいに、ぷるぷるしながら立ち上がってるおさげの女の子の視線は祐希奈さん達を見ている。


 いけない!


 加勢なんかさせるかよ!


 僕は一気に駆け出し、おさげの女の子に全体重を乗せたタックルをかました。


 勢いで、女の子はコンクリブロックに頭を打ち付けて動かなくなった。


 それと同時に、京子は祐希奈さんの腕をパンパンと叩きギブアップを示した。


 多数の犠牲を出して、僕達は勝った。


 それより藤崎さん……藤崎さん達の安否を聞き出さなきゃ──

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