奪還者のリーダー
車が走り、人が行き交い、たまに道端でのんきに談笑しているおばさんやばあちゃん達がいて、おもちゃ屋はいつも電気は点いてるのに何故か入口をガチャポンの機械たちで塞ぐという謎の事してたり、平和だった時の事を思い出し、口元を緩めて歩いている五十嵐。
「何か楽しいことでも思い出しましたか?」
クスっと笑っているのは、ハーフゾンビで大勢のゾンビを従わせる事が出来る祐希奈。
「気持ち悪い奴ぅ~」
「は? お前が言うな! そもそもお前なんで獣耳生えてる癖に尻尾ないんだよ? 中途半端──」
言い切る前に獣耳少女が、五十嵐の首に手を伸ばしそのまま一気に締め上げる。
ミシミシと骨が軋む嫌な音が、静かになってしまったこの土地では、よく聞こえる。
「がっ……はっ!」
目の前が霞み始めてきて、何かふわふわした感じになって体が軽い……「ぎにゃあ!?」と変な声が小さく聞こえたと思ったら、突然血液が一気に流れ込み始め、どくどくと脈の鼓動を感じ、すぐに頭痛が襲ってきて酸素を早く取り入れなければと呼吸を深く、深く吸っては吐いてを繰り返し、落ち着いてきたらだんだん吸う息を浅くして呼吸を整えた。
「いったーい! 何するのさ! この木偶の坊! レディにはもっと優しくするものよ!」
獣耳少女はぶん投げられた場所でわーわーと騒いでいた。
獣耳少女をぶん投げた当の本人は、あっけらかんとしたもので、何事もなかったように歩を進めている。
「ありがとう篠崎さん。助かったよ」
体は3m近くあり、腕だって一般の成人男性の太ももくらいの太さになり、今では変わり果てた姿になってしまったけど心は人間のままなのか、はたまた五十嵐の新しい能力かはわからないが、言う事は忠実に守り、主に危険が迫ればきちんと護衛してくる所から敵にはなり得ない存在だ。
言葉を発する事が出来ないのか、何を話掛けても無反応であり、命令をした時だけ「う"」と短い単語を紡ぐだけ。
五十嵐には、篠崎に声をかけた後に何の返答もないと表情が曇り、そのまま目線を下に落とした。
ぽん。と頭に暖かい手を置き、困ったような笑顔を浮かべながらそのまま頭を撫でてくれる祐希奈。
顔を赤らめ、恥ずかしくもあるが頭を撫でられる事に悪い気はしない。
ただ、そこは思春期真っ只中の17歳の高校生。素直になれずに、子供扱いするなと置かれていた手を弾いた。
「はいはい、そりゃ怒るよね。子供扱いされたら。ただ、人の厚意は素直に受け取るもんだぞ?」
「……」
「何か少しは答えなさいよー」
からかうように五十嵐に声をかけても、返答はなし、しかし何故か耳が赤くなり、歩くペースまで上げて、祐希奈から離れる。
「やっばぁ……怒らしちゃったかな?」
たはは。と乾いた小さな笑みを浮かべながら、頭をポリポリとかいて背中にじわりと変な汗が一気に吹き出してきた。
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「美奈! 遊んでないで早く行くよ! 置いてくよ!」
獣耳少女の美奈に檄を飛ばしたのは長い黒髪に、目は性格を表すようにキツイつり目をした京子。
「だって~、あの木偶の坊が私を投げ飛ばすし、五十嵐は何か見てるだけでムカつくんだもん!」
「そう言うな。仲間になったんだ私達は。」
「でも!」
「仲良くだ……わかるな?」
ずいっと美奈に顔を近づけ、声のトーンを少し落とし圧をかける。
「わ、わかったよ……」
頬をぷくぅと膨らませ、爪先で地面を蹴り、明らかに不満気な表情を浮かべるが、その苛立ちをぶつける所がなく、さらに不満気な表情になる。
「わかればよろしい!」
そんな美奈にお構い無しで、満面の笑みで美奈の髪の毛をわしゃわしゃにこねくり回す。
一行が、そうこうしているうちに橋を渡りきり、久しぶりに見るその光景は、世界がこんなんになる前と一緒とまではいかないが、腐敗臭はせず、もちろん死体も転がっていなかった。
五十嵐が物資調達に行っていた地域とは、全然違う様相だった。
「これ、京子さんが?」
「京子……あんた」
"まぁ"と小さな声の返答をしてお仕舞い。
人に褒められるのは慣れていないらしく、みんなとは全然違う方向に顔を向けて視線を合わさないようにしていた。
「ちゃんと綺麗に整備してたんだなぁ……京子さん」
「あんた、本当にその口の聞き方を直せば良い女なのにねぇ。したら、あんたの処女をもらってくれる男も現れるかもなのにね? にひひ。」
祐希奈の言葉は、確実に京子をからかうものであり、京子も京子で簡単に挑発に乗り、「何を~!?」と祐希奈に飛びかかる。
ひらりと体を横に流し、後ろに回り込み羽交い締めにされた京子はバタバタと暴れるが、祐希奈の力が強いのかびくともしない。
「五十嵐君! 京子の処女をもらってあげて! 私が抑えておくから! 多少の年齢差は気にしないの!」
「ふ、ふざけるなよ!? 何で私の貞操をこんなガキに!!」
「え、いや、あの……」
しどろもどろして、何とも情けない表情を浮かべる。
しかし、次の瞬間、五十嵐の口から出た言葉が場を凍りつかせた。
「僕にも選ぶ権利はあるので……」
時間が止まるとは、こういう時に使うのだろう。
6つの目玉が全て五十嵐に向けられ、静寂の後に轟音と言っても言い過ぎではない怒鳴り声と笑いが巻き起こり、一時的に混沌の空間が生まれた。
「五十嵐てめぇ!? 死んだぞお前?」
「五十嵐君最高だよ! そりゃ五十嵐君にだって選ぶ権利あるよね? にゃはははは!」
「ぼ、僕、何か悪い事言いましたか?」
「十分言っただろ!? 私じゃ不満だってのかい!? やっぱ同世代や2~3コ上じゃなきゃ嫌なの──って美奈ぁ!! お前何を笑ってんの!?」
かがんで体を震わせてる少女。
手は口に当ててる。
間違いなく笑ってる。
そして、そのまま手を地面につけ、四つん這いになってもまだ体を小刻みに震わせている。
「ちょっと、いい加減に……」
京子が美奈の肩を掴んだ時、美奈は笑っているんじゃなく本当に体を震わせていた。
体は、熱くなっており額には大量の汗の粒が現れていた。
「美奈!!」
叫び声にも近かった声に、二人も異常を感じ、すぐに駆け寄り背中をさすってあげた。
「美奈ちゃん、辛いかもだけど絶対横にならないで。」
「篠崎さん! 辺りを警戒していて!」
「う"」
自分に出来ることを最優先にやる。五十嵐も祐希奈もそれをちゃんと理解していた。
慣れてもいないのに、あれもこれもなんて対応していたら、結局やれる事が後手に回り、助かるものも助からなくなる。
「だけど、突然なんで……待って、これと似た事が以前にも──逃げて! みんな逃げて!」
突然京子が逃げてと叫び声をあげた。
ゆらっと空間が歪み始める。
本能的に早く逃げなきゃと思うものの、足が言う事をきかない。
祐希奈もそれは同じらしく、腰が引けてる。
「逃げてなんてつれねーじゃねぇかよ、京子ぉ? そのガキ相変わらず弱いなぁ、"敵の能力を無効化する能力"の影響をもろに受けちまうんだからよぉ。」
明らかに異質、この男が現れた途端に五十嵐達は足がガクガクと震え始めている。
武者震いとかではなく明らかに恐怖からくる震え。
「遊木……なんで、あなたが」
コミュニティ『奪還者』のリーダー遊木竜也。
間違いなく、ここいら一帯の最強コミュニティのリーダー。
「理由なんか、教えるわけないだろ? 今から死ぬ連中によぉ」




