新しい出会い
逃げて行ったのは一人。
きっとこちらの情報は、流されてしまっただろうな。
僕が人間を食べてしまった事まで。
今回襲ってきた野盗集団が、しずくをゾンビらしき者に変えた集団かはわからないけども、もしもそうなら野盗集団のリーダーはゾンビらしき者と人間のハーフ……つまり、僕と一緒の可能性は大いにあり得るって事だ。
となると、僕がハーフって事までバレてるって予想して作戦を考えなきゃ。
早ければ今日の夜、遅くても明日の日の出と共に攻撃を仕掛けてくるはず。
「藤崎さん、今時間ってわかりますか?」
「お、待ってくれ。えっと……14時ちょっと過ぎだな」
「ありがとうございます」
藤崎さんは左手首につけた腕時計を見て、僕に時間を教えてくれた後に、少しを間を置いてから口を開いた。
「青年ちょっと良いか?」
「あ、はい。どうしました?」
「義人、どうしたの怖い顔して?」
今作戦会議中の為に、藤崎さんと篠崎さんによしみさん、それから双葉さんと僕5人で話をしている。
まず、杉山さんと狩野さんを助けたメリットとデメリットの話。
二人には悪いけどメリットなんか何もない。
食いぶちが増えただけだ。
大した戦力にもならないのに。
次にこのコミュニティ『手段を選ばぬ者』のメンバーが少なすぎる。
働かない、働けない者を生かす理由なんかないのにほとんどが戦えない。この会議に参加している僕らさえいれば十分なんだ。
「今回食いぶちが二人増えたわけだが、使いもんにならねぇ。唯一1人もんの篠崎と青年の夜の相手をさせるか結婚させ──」
「義人、それは思っても口にするもんじゃないよ」
「そうですよ藤崎さん! 女性は物じゃないんですよ!」
まぁまぁと、よしみさんがなだめるが、実際こんな世界になってから女性の役割って決まって男の相手したり、料理したり、それくらいしかない。
それより今は、そんなくだらない事で揉めている場合じゃない。早ければ今日中には奇襲をかけてくるかもしれないんだ。
はっきり言って、ここの戦力じゃ負けは必須。
僕の能力で二体までは、ゾンビらしき者を仲間にして戦力に出来るが、焼石に水だと思った方が良いだろうな。
とりあえず僕が捕食して食べた、野党のゾンビらしき者が一体。
日が少し傾いてるところを見ると、今は昼ちょっと過ぎかな……。
「あの、ちょっと良いですか?」
「どうした青年?」
「物資の調達とゾンビらしき者を仲間にしてこようって思うんですけど、行っちゃって大丈夫ですか?」
藤崎さんは、腕を組み少し考えこんでから篠崎さんの方に視線を飛ばす。
「俺っちは、戦力が少しでも増えるのは歓迎なんだけど、五十嵐君が調達に行っている間の戦力が減る事になるし、そこを敵に攻めこまれたら……」
明らかに空気が重くなる。
元々このコミュニティを襲っていたグループに加え、別グループにまで狙われるなんて気が気じゃない。
戦えるメンバーだって僕含め5人。
最悪なシナリオしか思い浮かばない。
誰かを守りながら戦うなんて漫画や小説でしか知らないけど、あんなの実戦で簡単に出来るなんて思えない。
「五十嵐君! 行っておいで! 私らがみんなを守るからさ!」
普段より明るく、大きな声で場の空気をよしみさんがぶち壊す。
「よしみさん……」
「おい! おめぇ…! よしみ!」
「そうだよ! 五十嵐君がゾンビを仲間にして来てくれたら今より戦略も戦力も幅が広がるし、可能性を少しでも上げられるなら……」
「俺っちで出来る事をやって、五十嵐君は五十嵐君が出来る事をやってもらう。それで良いんじゃないか? 藤崎。」
よしみさんはニコニコ顔をしながら、双葉さんは苦笑いで、篠崎さんは目線を下に向けたまま、藤崎さんはみんなを一瞥した後に、僕をじっと見つめてきた。
「青年……急いでくれとは言わない。だけど、みんなを守る為にも夜までには戻って欲しい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「五十嵐君、ゾンビに襲われないにしても野盗には気をつけてね。」
みんなを助ける──その思いを強く胸に、すぐに僕は出発した。
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鼻をつく肉の腐った臭い。
たまに見かける徘徊しているゾンビらしき者。
この地域だけ何故か生き残りの人間にあまり荒らさた感じがない。
以前僕が調達に来た時も、生き残りの人間は見かけず、野盗の類いと数人戦闘になったくらいだ。
この世界はわからない事だらけだ。
いや、まぁ、人間が人間を襲ったり人肉を食べたりしている事を理解出来るわけもないんだけど。
そして、前回来た時よりも中心部まで入り込んで、何故生き残りの人間や野盗に僕の通った地域があまり荒らされてないかの理由がわかった。
中心部に向かって歩いている途中、嗅いだ事がない悪臭が僕を襲ってきた。
ばっ! と横を見ると時代劇に出てくる、お代官様が住んでいるようなお屋敷から一体、また一体とぞろぞろとゾンビらしき者が出て来てる。
そして、そのまま微かに警報音が聞こえる中心部の方へ向かって行く。
この屋敷に何が? なんでゾンビらしき者がどんどん出てくる?
気になって屋敷の中に入ってみると、座敷牢に入れられた虚ろな目をし、焦点の定まってない人間達が少なくとも20人近くが押し詰められている。
衛星環境は最悪で、糞尿はそのままな為に悪臭が生まれていた。
「おい! あんた達! すぐに助ける! ここを開ける鍵は!?」
座敷牢に入れられた人間達は一斉に僕を見るけども、すぐにまた各々好きな方を見つめ始めた。
何か様子がおかしい──
「あら~可愛いらしい坊やじゃないかぁ?」
「ッ!?」
ぎゅっと体を抱きしめられ、とても甘い香りがする。
頭がふわふわとして、気持ちよくなる匂い。
そのまま意識を持っていかれそうになる。
「おっと! 坊やは、寝かさないよ? ゾンビどもに襲われないわ、人間の匂いがしないわ、私と同じなんですもの。聞きたい事があるわ。」
向き合う形に姿勢を変えられ、僕を抱きしめた者が目に入った。
茶髪の長い髪、タレ目でスッとした鼻、日本人離れしたハーフ顔。
豊満な胸も目に入る……というか、ガン見してしまった。
それにしても、『私と同じなんですもの』ってどういう……?
「少し話をしましょうか?」
意識がだんだんしっかりしてきた。
先ほどまでの甘い香りも気持ちよくなる匂いも感じなくなっていた。
「そろそろ意識がしっかりしてきたんじゃない?」
「は…い…」
「え? まだダメ? やっぱり子供だから抜けるまで少し時間がかかるのかね? なら私から話を進めるわね。」
この人はなんなんだろ?
敵意を感じない。
それどころか寂しい空気を纏っている。
そんな彼女が、淡々と今まで起きた事を話だしたんだ──




