女総長
辺りを壁が四角を描くように立ち、ゾンビ達も簡単には突破できない作りにしてある。
唯一の出入口は一つだけ。
そして、この壁の内側ではバザールが開かれている。
「お米は相変わらずないけど、鳥肉を醤油で炒めたやつが50円だよ! 野菜炒めなら80円! 腹を満たして午後も仕事頑張ってよ!」
「いらっしゃい! 今日は、なまずがオススメだよ!」
「今日入荷された、塩胡椒! なかなか手に入らなくなった香辛料! ズバリ! 今なら1万円!」
荒廃した世界でも、こうして活気があり、みんな生き生きしている。
人が集まり、狩猟班、駆逐班、商売人、建設要員、接待要員、警備班、ちゃんと各々に役割を与えて労働させる事が出来るようになった。
最初は、私と美奈の二人しかいなくて、女だからとなめられていたっけ。
本当にやっとここまで来た。
それなのに何故脱走する奴が現れる?
今回逃げたのも女。
男の性欲を満たさせる仕事を与え、金を与え、食べ物を与え、寝床を用意し、何よりゾンビ共の恐怖から逃げられる場所だぞ。
そもそも、狩猟は無理、料理は無理、販売は無理、力仕事なんかもっと無理だから、そんな役立たずでも仕事を与えられているのを感謝するべきじゃないのか?
「いやぁ!! もう勘弁してください!」
「はぁっ!? こちとらもう金は払ってんだろうが! 何でもありのコースに2000円も払ってんだ!」
突然叫び声と共に、アパートの一室の扉が開き、全身切り傷だらけの女と、醜く太ったおっさんが出てきた。
「ねぇ、京子。どっちを処罰の対象にする?」
さっきからずっと私に撫でられていた、茶髪で猫耳をつけたボブカットの美奈が、目をギラギラさせて私の事を見上げている。
「警備班! 警備班はいるか!」
「京子うるさぁい、声大きすぎだよぉ」
「すまんな」と美奈に詫びを入れたタイミングで、目の前からプロテクターをつけ、手には警棒を持った男達が走って駆け寄って来た。
「はい! 今しがた騒動を聞きつけ、駆けつけた所です!」
「見回りお疲れ様、ちょっとあそこで騒いでるバカ共を連れて来て欲しい」
「はっ!」
警備班の男達は、すぐに駆け足で向かいその場からいなくなった。
本当にどうして、何も取り柄のない奴ほどわがままなのだろうか?
世界がこんな事になる前までは、政治なんか全然興味がなかった。
ただ、ひたすら勉強をし良い大学に入り、一流企業に入る事だけを目標にしていた。
政治なんか一個人の何の力もない女が不満を言っても変わらない。
変わるわけがない。
なら、私は私の事だけを考えれば良いのだ。
そうして、一流企業に入社が決まって数ヶ月でこの騒ぎだ。
私の努力は、全てパァ。
突然暴力、殺戮、略奪、ゾンビが溢れる世界に変わってしまった。
そして、私は駅でゾンビに襲われて気を失ったんだ。
目を覚ました時に私は、全身のひどい痛みと空腹に襲われ……
「京子さん! 連れて参りました!」
警備班の声で、ちょっと前の事を思い出す作業を中断し、連れて来られた男女を睨みつける。
女は、美人でも可愛いくもない至って普通の女。
男は、この私が作ったコミュニティ『パビリオン』に来なければ、一生女に縁がなかった男だろう。
「京子さん! 私は、精一杯この方の相手をしました! でも、1日ずっとは無理です! 全身を切られるなんて聞いてないです!」
「こっちは、2000円も払ったんだ! それに何でもありのコースを選んだ僕に正当性がある! ですよね京子さん? このパビリオンでは、金こそ全てですよね?」
どちらが正しいか?
もう答えを言ってるじゃないか。
「ねぇ! 京子! どっち? どっち?」
ふふふ。
美奈は本当に可愛い……私に子供がいたらこんな感じだったのかな?
「デブ男」
「はーい!」
美奈は、そう言うと地面が抉れるほど強い力で地面を蹴り、あっという間にデブ男の前に到着した。
「な…なん──」
「いっただきまーす!」
小さく細い指が、目の中に突っ込まれ、そのまま下に向かって引きちぎる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーッ!!」
デブ男の手が美奈の小さな体を掴み、そのまま抱きしめ圧死を目論む。
痛みと恐怖で力が増している男もなかなかなもので、美奈の骨がミシミシときしむ音が聞こえてきた。
しかし、突然男の胸から血が吹き出しびくんびくんと男が痙攣を始める。
「もう聞こえてないかもだけどな、何故お前が処罰の対象になったかというとだな。大事な商品に傷を付けられちゃ堪らないんだよ! それとお前は、自分で答えを言ったじゃないか? このコミュニティ、パビリオンは金が全てと。お前より稼げるこの女を生かすのは当たり前だろ!?」
それと同時に美奈を抱きしめていた腕に力が入らなくなり、骨のきしむ音も止んだ。
美奈はどんどん顔を埋めていく……顔や髪を血に濡らしながら。
「おい! 美奈! 私の分も取っておいてよ!」
ったく! 夢中になりすぎだろ。
すぐさま腹に噛みつき、ホルモンを美奈と一緒にいただく。
最後のデザート『脳ミソ』は、綺麗に洗って川にさらしよく冷やしてから、食べるんだ。
プルプルした濃厚な白子みたいで美味いんだぁ。
ポン酒があれば嬉しいんだけど、最近調味料関係が手に入らなくなってきてるからなぁ。
「あ、あの京子さん? 私はどうしたら?」
食事に夢中で、こいつの事忘れてた。
まぁ、私の株を上げる駒になってもらうか。
「おい! 警備班、彼女の手当てをしてやれ。あと、今月は体を休めろ。休んだ分の給料は私が出してやるから」
「あ、ありがとうございます!」
「よし、こっちに来い。京子さんに感謝するんだぞ?」
残酷な一面を見せた後に、慈悲深さもみせる。
人心掌握なんて簡単。
それより最近調味料関係が手に入らなくなってきている、原因はわかってる。
西の方に10kmほど行った所にあって、以前の世界では商業施設だった場所を根城にしているコミュニティ『奪還者』
奪還者のリーダーで遊木って言うんだけど、彼ハーフゾンビでメンバーは人間が30人くらいって事だ。
とにかく実力者揃いだし、奴ら燃料をたくさん所有している。
同盟は結んでいるけど、納税が厳しい。
肉や魚、野菜を合わせて週に10kg納めないと見せしめが行われる。
それにあちこちで略奪をして、ここいら一帯のスーパーなんかも根こそぎやられた。
最初は戦ったけど、遊木の能力は多分……私の能力の無力化。
だから、美奈は連れていけないし、私自身本来ゾンビに襲われないんだけど、遊木の能力のせいか、あいつの近くだとゾンビに襲われるし、戦略で必ずゾンビを何十って飼い慣らしてる。
一番厄介な相手だ。
東にいるコミュニティはここから5km先に拠点を構える『フォーリンエンジェル』
このリーダーもハーフゾンビに変異した敬介と言って、こいつも能力は一体のゾンビだけを仲間にする事ができ、そのゾンビの全身を防御強化であらゆる攻撃から身を守らせる。さらにそのゾンビにもゾンビを操るって事が出来るらしいが、先月にお気に入りの女子高生ゾンビをやられひどく落胆していたが、当分回復しないだろうな。
意外と純情で、あんまり人を襲わない奴で、争いになるのを嫌がって、同盟を結んだりしないし、郊外にいるからか奪還者にもその存在がバレていない感じ。
んで、南の方はなんか新興宗教みたいなコミュニティがあるって遊木が言ってたけど、あそこは攻めにくいって言って無視してるとか言ってたな。
遊木が無視するって結構凄いんだけどね。
それより脱走した二人を追わせた5人帰って来ないなぁ。
そんなに遠くに行けないはずなんだけどなぁ。
ケチってバイクを一人だけに与えたの悪かったかなぁ?
燃料もったいないからってケチった私も悪いから気長に待つか。
「さて、食事も終わったことだし、今日は昼寝しようかな?」
「えー!? 京子、私ここより外に行きたい! 遊びたい!」
「んー。ちょっと近場にでも行こうか? その代わり絶対私と手を繋いでる事! わかった?」
「守る! 守る! やったー! で、いつ行く? いつ行くの?」
ブロロロロロ。
ん? バイクの音? 戻って来たか?
「京子さん! 京子さんは!?」
「こっち! どうしたの? そんなに慌てて。他のみんなと女達は?」
息が荒くなって、ひどく怯えている。
こいつら、うちのコミュニティでも捨て駒要員で、探索とか物資調達をやらしていたんだが、元々アウトローだったらしく喧嘩慣れはしてる予想していたが、ここまで弱いなんて。
「女達は橋を渡って、少し進んだ先にあるマンションの連中に助けを求め、そこの連中にみんな殺されて!」
なるほど。
まぁ、こいつらには、期待してなかったし、連れて帰って来れないのも想定済み。
こいつ……明日のご飯に決定。
「わかった、一回落ち着け。そのあとで、ゆっくり話を聞くよ。誰かお水を──」
「あのガキ、昌さんを食いやがった」
食いやがった?
「それはゾンビって事?」
「違います! 多分京子さんと一緒のハーフゾンビだと思います! 最初昌さん達とあのガキ話していたっぽいし」
これは思わぬ収穫だわ。
女二人なんて、またどっかで拾えば良かったんだけど、ハーフゾンビは大体コミュニティのリーダーをしているから仲間になんてそうそう出来ないけど、ガキなら説得して仲間に出来るかも。
今は戦力が欲しい。
奪還者を潰すために。
「美奈……明日早速、東にお出かけだよ」
「本当に? やったー!」
必ずハーフゾンビのガキを仲間にしてやる。
従わなかったら、そのガキの居住地であろうマンションの人間を殺していってしまえば良い。
「狩猟班! 狩猟班はいないか!?」
「京子さん、ただいま狩猟班は、狩りに出ている最中です。戻るのは本日の夜中になるかと……」
このタイミングで、狩猟班が狩りに出ているのは体力の問題が少し心配だけど、仕方ない。
戦いは突然起きるからね。
「なら、伝言をお願い! 明日の昼12時に出入口にて集合! 各自武器や防具の点検を怠るな! 以上だ」
「はっ! そのように伝えておきます」
とりあえず、女達を奪ったって大義名分で攻めこもう。
明日がとても楽しみ。
だけど奪うだけの戦いって、どうしてこんなに面白いのかしらね──




