一難去ってまた一難
「まず、僕が先に彼女達の代わりに出ていきます。隙を見て1人は確実にやる予定だけど、万が一4人以上いた場合は、素直に奴らに連れて行かれようと思います。」
「なんでだ青年!? それだと危険過ぎるし、第一素直にあいつらが青年を渡したからって、引き下がるとも思えねぇ! 何しろあいつらの目的は、この二人なんだからな」
藤崎さんが顎をくいっと、彼女達に向けて動かしたのに彼女達は驚き、身構える。
よほど暴力を受けてきたのだろう。
男の動きにひどく敏感だ。
それに彼女達の服装が……ボロい大きめのTシャツを着ていて、裾が太ももの半分くらいの所まで来ている。
下は何も履いておらず、下着をつけているかは不明だ。
性欲処理の相手をさせられていた可能性が高い。
こんな世界になっても……いや、こんな世界だからこそ欲望にみんな忠実なんだろう。
「あ、ところで二人は名前なんて言うんですか? 僕は五十嵐浩晃」
「私は狩野絢子」
「うちは杉山由美子」
狩野さんは、ショートカットの黒髪の女性で、杉山さんはポニーテールにした茶髪の女性。
ただ、二人とも大人びているから25歳とかその辺りかな?
「私はよしみ」
「私は双葉」
「俺は藤崎義人」
「俺っちは篠崎」
って木川さんの奥さんの名前初めて知った。
みんなの反応見る限り、知らなかったのは僕だけらしいな。
「それで話を戻すが、青年が危険に晒されるのは……」
「相手が僕らに対しての盲点、決めつけている部分を逆手に取ります」
人っていうのは、まず容姿から入る。
そして、弱いと思われれば、それだけで一気に勝算が生まれる。
自分より弱い、バカな奴に負けるなんて考えないし、もし騙されてても自分が"あんな奴に騙されるわけがない"と暴走を始め、深みにはまり自滅する。
だから、一番厄介なのは、相手の事を絶対にバカにしない、弱いって思わないで最初から全力で強敵とみて襲ってくる獅子のような人だ。
作戦なんか通用しない。
完全な力勝負。
外にいる4人組がそうじゃないと信じたいが、万が一の為の人質になる作戦は、その為に考えた。
「そこまで言うなら任せるけど、青年……絶対死ぬなよ」
「死なないですよ」
──あなた達の事好きですから。ずっと一緒に生きていきたいから。
~・~・~・~・~・~
「お、ようやく出てきたか……って、ガキの男じゃねーか!? 女二人はどうしたんだ!?」
1…2…3、4。
情報通り4人か。
「ごめんなさい、彼女達じゃなく代わりに僕を皆さんのアジトに連れ帰った方が、収穫はデカイって思うけど?」
「はぁ? お前バカか? 俺達はここに逃げてきた女をよこせって言ってんだよ! 男なら間に合ってんだよ!」
息が臭いな。
こいつら完全に僕らに攻撃されるなんて考えてない。
しかも、全員僕の前に立ち、横に回り込んでる奴は0。
戦闘慣れはしていない……はず。
そして僕はいまとてもはらがへってる。
「ぐわぁっ!? こいつ突然噛みつきやがった!?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
「こいつ、離れやが──」
その時扉が開かれて、藤崎さんと篠崎さんが飛び出し、遅れてよしみさんと双葉さんが飛び出してきた。
突然噛みつかれた仲間を見て動揺している所に、武器を手にした4人が現れ、完全に虚をつかれた野党集団の殲滅は他愛もなかった。
そして、女性陣の連携プレイが凄かった。
サスマタで押されバランスを崩し、地面に倒れこんだ所を躊躇いもなくよしみさんが、相手の目に木の槍(と言ってもいい代物だろう。先端を尖らした木の棒だし)を突き刺し絶命させてた。
藤崎さんと篠崎さんは、バットで相手の顎や頭を砕き、残り1人は僕が捕食中。
藤崎さん達が倒した輩は、ゾンビらしき者に出来ないな。頭潰されちゃったし。
それから、僕は自分の変化に気づいていた。
今まで、ゾンビらしき者化している時は、自我がなかった。
だけど、今回は初めこそ自我を失いかけたが、結局今は自我があり、人間を美味いと思い空腹を満たしている。
「五十嵐……くん?」
「人を食べ……食べてるの!?」
そうか、藤崎さん以外は知らない事実だった。
……もう、ここにはいられないか。
なら、この食事の手を止めるわけにはいかない。
コミュニティを追い出されるなら腹は満たしておかないと、旅も出来なくなる。
「まっ、待ってくれみんな! 青年はゾンビ化して人をたまに食うが、俺達には危害を加えないんだ! 今の今までだって、襲って───」
「義人、あんた何慌ててるの? 五十嵐くんが人を食べるのは驚いたけど、五十嵐くんは五十嵐くんで変わりはないよ」
「そ、そうですよ藤崎さん! 私もちょっと怖かったけど、野盗をこうして倒してくれたんですから、五十嵐くんは五十嵐くんです! コミュニティから追い出せとか言いませんよ? ゾンビ映画やドラマだと絶対そういう事人いますが」
「お、俺っちはビビってないし、五十嵐くんは俺っちの仲間に変わりはない!」
……みんな、ありがとう。
ゾンビらしき者化してしまった僕を見ても嫌わないでいてくれて、迫害しないでくれて。
「お前ら……やっぱり俺の嫁と仲間だわ!」
「あれれ? 義人……まさか泣いてる? 鬼の料理長なんて言われてたあんたが、泣くなんてこれが本当の"鬼の目にも涙"だね! あははははっ!」
「う、うるせぇぞ! 俺だって感動したら泣くわ!」
世界は荒廃したかもしれない、常識も壊れた。
でも、ここだけは、この時間だけは笑顔が溢れ、幸せな空間だった。
人が人を思いやり、迫害もしない、暴力も基本的にはない、女性でもちゃんと人権が持てる最高のコミュニティ。
名前をつけたいな。
このコミュニティに。
ブオォン!!
ブロロロロロ………
突然バイクの音が鳴り響き、音が遠のいていく。
あと1人仲間がいた!?
そして、その仲間が拠点に逃げ帰っていった。
それが意味するもの。
「まずい」
「あと1人残っていたのかよ!」
そして、みんなが口を揃えて言った。
「報復をしにやってくる」
一難去ってまた一難。
ぽつりぼつりと雨が降ってきて、僕は何故かこれから起きる何かに天が泣き始めたって思ってしまったんだ。




