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この人達を失いたくない僕

 しずくを殺してから1ヶ月近く過ぎた。


 その間に、このコミュニティも変わった。


 拠点になってるマンションの出入口部分と一階は、かき集めてきた木材や鉄を使って補強して、さらに防御をしながら攻撃が出来るように、包丁などの刃物が通るくらいの隙間を、出入口を塞いでる鉄扉に作った。それに加えて各自家庭菜園を始めさせて『自分の食い扶持は、自分でどうにかする』を基本に生活している。


 何度かゾンビらしき者が数体襲ってきたが、全部鉄扉や一階で対処出来た。


 二階からの投石も効果があったかも。


 ここを元々襲っていた野盗グループからの襲撃もなかった。


 僕が立てた作戦で、しずくを殺してからここは平和だ。


 ──平和は、誰かの命や幸せを犠牲にして成り立っているんだ。


 "だったら僕が、幸せになる為なら他人を犠牲にするのは、悪い事じゃない"



「青年!」


 部屋のドアを叩く音と、藤崎さんの声に我に返る。


「はい! 今!」


 ドアを開けると、寝グセそのままに、その癖目がぱっちりなおじさんが立っていた。


 まだ30代半ばくらいで、若いって言われるんだろうけど立派なおじさん。


 朝からおじさんに起こされるって、気分はあまり良くないんだよなぁ。


「青年、まだ寝てたのか? ちょっと話をしたい事があってな。あとで、篠崎も来る」


「まだ朝の7時てすよ? そりゃ寝てますよ」


「そりゃ悪かったな! しかし、大事な話なんだ、9時になったら篠崎の部屋に来てくれ」


「わかりました」


 すぐに集まらないなら30分前くらいに来ても良かったって思うんだけど……。


 それにしても話ってなんだろ?


 この地域は、なぜかゾンビらしき者が極端に少なく、たまに橋向こうから来ただろう奴らを倒すくらいで、それを除けば至って平和だ。


 何かトラブルか?


 食料? いや、食料は定期的に橋向こうの地域に行って缶詰めや飲み物を調達してたり、自家菜園しているから問題ないはずだし……。


 まぁ、考えてもしょうがない。


 ちょっと早く起こされ、暇だから軽く流す程度に走りに行こうかな?


 どん! どん! どん!


 その時、外からドアを叩く音が聞こえてきた。


 襲撃か!?


 枕元に置いてある、銛を持ち、窓を開けて、音のした鉄扉の方を確認した。


「助け……て、助けて……」


 血と泥に汚れた衣服の女が二人。一人は左手に手錠がぶら下がったままになっており、手錠を外す時に無理矢理引っこ抜いたのだろう右手首が皮膚が破れて赤く腫れ上がっている。もう一人は首輪に南京錠をされていて、鉄扉を叩いて助けを求めていた。


「なんなんだよあれ……早くマンションに入れてあげなきゃ」


 急いで出入口に向かったら、藤崎さんと篠崎さんが鉄扉の前に陣取って、よしみさん(木川さんの奥さんだ)と藤崎さんの奥さんが何やら言い合いをしていた。



「ちょっと! 藤崎さんあの二人を匿わなきゃ! 明らかにどっかのグループに捕まってて、逃げてきた人達だ! あれは!」


「そうだよ義人! 助けなきゃ!」


 え? もしかして藤崎さんと篠崎さんは、外の二人を助ける気がない?


「ダメだ。罠かもしれない。それに今は、余分な人間を助けてやれるほど食料や飲み物がない。」


「俺っちも、藤崎に賛成だ。助ける理由がない。」


「そんな! あんた達だって、外の二人の容貌見ただろ!? あんなぼろぼろになって助けを──」


 その時藤崎さんが、よしみさんの左頬を叩いた。


「ちょっと義人!?」


 藤崎さんの奥さんが、食ってかかろうとしたらすかさず、篠崎さんがバットを向けて威嚇を始めた。


「二人とも黙れよ。俺っちはみんなの事を考えて動いている。一時の感情に流されたら堪らないですよ」


「女の出る幕じゃない。女は黙って──」


「藤崎さん!」


 我慢の限界だった。


 綺麗事かも知れないけど、どんな理由があっても女性に暴力はダメだと思う。


 よしみさんは、優しい人だし藤崎さんの奥さんは元々看護師さんで、怪我の手当てなどしてくれてる人だ。


 暴力や暴言を受ける言われなんかない!


 今だって、二人は助けを求めてきた人を助けたいって理由で何も間違ってない!


 許されるわけがない。


 それにしても、僕を受け入れてくれた藤崎さんとは思えない。


 だからちゃんと話をしたいんだ。


「なんだ青年? 青年までたてつこうってのか?」


「五十嵐君、俺っちは戦友じゃないか? 戦友を攻撃させないでくれよ」


 肌が、ピリピリする。


 頭のどこかで逃げろと叫んでる。


 それでも……それでも僕は──



 バンッ!!!!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 奴らが来た! 早く! 早く中に入れてよ!」


「あそこの生活に戻りたくない!! 助けて! ねぇ!!」


 外にいる女性が、扉をいっそう強く叩き始めるも、藤崎さんも篠崎さんも開ける気はないらしい。


「どいて!」


 その時、よしみさんが藤崎さん達を押し退けたが、すぐに肩を掴まれてぐいっと引き戻される。


 そのタイミングと同時に藤崎さんと篠崎さんに、覆い被さって倒れた。


「木川さん! 五十嵐くん!」


 言われる前に木川さんの奥さんは、扉の鍵を開け二人の腕を掴み引っ張り込み、すぐに扉を閉めた。


「おい! ふざけるな! 何勝手な事をしてやがる!」


「うるさい! 助けを求められてたら助けるのが人間でしょ!? こんな世界になっても私達はちゃんと人間でいたい! 旦那だって……生きてれば助けたはずだよ!」


「甘い事言ってんじゃねぇぞ!? その女どもをどこの野盗集団かもわからねぇ連中から奪った事になるんだ! そうなったら他のみんなまで被害に遭う! そんな事もわからねぇのか!?」


「う……それは」


 藤崎さん言う事も最もだ。


 だけど、だからって木川さんの奥さんやよしみさんが間違っているわけでもない。


 って今はどちらが、正しいとか正しくないかを考えてる場合じゃない!


 起きてしまった事象に、どういう対策、解決策を考えないと。


「今はこんな争いをしている場合じゃない! もうこの二人を助けたんだから、次に考えなきゃいけないのは、どうやって僕達が匿っている事を知られないようにするかが大事だと思うんだけど!?」


「ちっ! 確かにな。起きちまったもんはしょうがねぇ。で、追っ手は何人いた?」


 藤崎さんが少し冷静になり、続いて篠崎さんも落ち着き、今は藤崎さんの横に立って僕の話を聞いてくれてた。


 ドン!! ドン!! ドン!!


「おい! 今中に入れた二人の女をこっちに引き渡せ! 素直に渡せばここには一切手は出さない。渡さない場合は……」


「渡さない場合は、どうなるんだ!?」


「殺すしかないだろうなぁ?」


 扉のせいで顔や体格まではわからないが、そう言った男の表情は絶対あくどい顔をしているって容易に想像出来てしまう。周りからもゲタゲタと笑い声が聞こえる。


「で、何人いるんだ?」


 強がっているが、藤崎さんも焦りや不安を隠しきれていない。滝のような汗をかき、少し早口になってる。


「見たのは4人です。なんか私達のせいで危ない事に巻き込んでごめ──」


「話はあとだ。今はこっちの対策だけに集中しろ。4人か……こちらの戦力は、青年と俺と篠崎の3人じゃ、ちょっと厳しいな」


 相手の装備や正確な人数がわからないのに、無闇やたらに攻撃を仕掛けられない。


 なら、二人を連れ出して交渉──無理か。


 周辺にゾンビらしき者は、ほとんどいなくて仲間に出来ないし……。


 考えろ考えろ考えろ考えろ!!


「戦えるのが男だけじゃなく、女だって戦えるんだよ? 義人」


「ただ、黙って待ってるだけが女じゃない」


 先端を尖らした1mくらいの木の棒を手にしたよしみさんと、野球のキャッチャーが身に付けているプロテクターを装着して、サスマタを持った木川さんの奥さんが扉の前に立っていた。


「なっ!? 何を──」


「黙りなよ義人。他のみんなは、訓練通り外部から攻めて来たってわかったら部屋に篭ってんだ。私らみたいに血の気の多い女は、戦いたいんだ!」


 藤崎さんも篠崎さんも顔を見合せて、たじたじになってる。


 こうなったら女性は強いし、こうなった女性に男は弱い。


「ちっ! 仕方ねぇ、参戦は頼むが俺らの後ろを守ってくれ」


「で、藤崎、俺っちはどうやって奴らを殲滅する? 何か良い案は……?」


 そう聞く篠崎さんに対して、腕を組ながらう~んと考えている藤崎さんだが、隣でなぜかにやにや笑ってるよしみさん。


「義人ぉ! あんたに考える事なんか無理で猪突猛進するのが良い所だろ? それがあんたの良い所だろ?」


「よ、よしみ!? てめぇ! 俺だって少しはだなぁ!?」


 敵はさっきから扉をガンガン叩いているのに、この人達は。


 ──あぁ、この人達を僕は失いたくないな。




「あの、僕に考えがあるので、僕1人で行かしてもらえないですか?」


「おい! 青年がでしゃばるな! お前はまだガキで戦闘だって俺らに負けるような弱さじゃねーか!?」


「そうだぜ!? 五十嵐くんには悪いが、女二人に対する追っ手だから相手は雑魚だろうけど、多勢に無勢で勝てないのは明白! ダメだってば! 俺っちと藤崎で最初に仕掛けて……」


「それだとダメです! 力押ししたら必ず誰かを失う! それが嫌なんだ!」


「そんなのは俺っちだって!」


 はい、スト~ップ!とよしみさんと、木川さんの奥さんが僕らの間に割って入ってきた。


「熱くならないの! 五十嵐くんには考えがあるんでしょ? だったらやってみなよ?」


「おい! よしみ!?」


「ありがとうございます。僕に任してください。誰も失わない事を約束するので」


「青年まで……わかった! 青年に任せる! 死ぬんじゃねーぞ?」



 ──みんな、ありがとう。僕を信じてくれて。


 扉ってこんなに重かったか?


 呼吸が少し乱れてる。


 情けない。


 僕はみんなを守るって決めたんだ。


 ビビるな自分。


「お、ようやく出てきたか……って、ガキの男じゃねーか!? 女二人はどうしたんだ!?」


 1…2…3、4。


 情報通り4人か。


「ごめんなさい、彼女達じゃなく代わりに僕を皆さんのアジトに連れ帰った方が、収穫はデカイって思うけど?」


 でも、本当に良いタイミングで人間が来てくれた。


 だって、僕はついさっきから凄くお腹が減り出したんだから───

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