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襲撃と裏切り

 はぁ···はぁ···。


 喉が渇く、足が痛い、お腹も痛い、苦しい──


 Tシャツは背中に張り付き、水をぶっかけられたようにびちゃびちゃな顔。


 あと少し······あと少しで終わる。


 もうちょい。


 はぁ······はぁ···。


 やっと······走り抜いたー!!


 そのまま地面に座りこんでしまい、乱れに乱れた呼吸を整えようと大の字になって寝転んだ。


 コンクリートの地面がひんやりとして気持ち良い。


 だんだん過ごしやすい季節になってきた。


 これから紅葉の季節、栗に柿に食欲の秋!


 山に入ればあるのかな? それかどこかのお店にあるかな? 2週間のトレーニングが全て終わったら外出許可もらって物資の調達行かないと。


 先週持ってきた物資がまだまだあるから、残り1週間の今トレーニングだけに集中したい。


「朝早くから精が出るね五十嵐君」


 角刈りのサングラス·······悪い人じゃないけど苦手な隣人篠崎さんと眼鏡をかけたスーツ姿のひょろひょろ男の宇喜多さんが、夜の警備が終わり戻ってきた所みたいだ。


「あ···はぁ···はぁ、おはようございます。篠崎さんに宇喜多さん」


「あっ! 呼吸を整えてからで良いよ。無理しないでね」


「なんだよ、やっぱり最近の若ぇ奴は─」


「宇喜多さん、そんな言い方したらダメですよ? おっさんキモい、うざいって思われてしまいますよ」


 この間みんなに面通しされた時も思ってたけど、長身でモデルみたいなイケメン──


「神埼てめえ! 誰がおっさんだ!? ごるぁっ!?」


「はいはい、威嚇しないの。五十嵐君、彼はこんなんでも──」


「誰がこんなのだ!? おい! 神埼!!」


「篠崎さん部屋に戻りますよ、朝からマンションの前で迷惑ですよ。ほら、行きますよ」


「ちょっ!? 宇喜多! てめえまで!? って、ちょっと待て! そんなに強く羽交い締めにしてまで引っ張らなくてい──だから、わかったから!」


 宇喜多さん力が強いんだなぁ。


 宇喜多さんより背が低いとはいえ、筋肉がそれなりにある篠崎さんをズルズルとマンション内に引っ張り込んで行ってしまった。


「······で、えっと、どこまで話したっけ? あ、そうそう彼──篠崎さんはあんなんでも仲間思いだし、僕達他のメンバーだって悪い奴はいないと思う。口が悪い奴は、まぁまぁいるけども」


 苦笑いというかひきった笑顔を神埼さんがしているから、癖のある人はいそうだな。


 僕が初めて宇喜多さんと手合わせした時、ひどい事言ってた人もいたから覚悟はしてたけど。


「あ、大丈夫です、皆さん良い人って思ってますから!」


「嬉しい事言ってくれるじゃねーか? まだちゃんと話した事もないに俺らの事がわかるってか?」


「いい加減な野郎だなぁ、こういう奴むかつくわ」


「大谷達と一緒で口ばかりのおべっか野郎なんじゃねぇの?」


「······ウザ」


 初めて口を聞いたと思ったら、罵詈雑言か。


 みんなキャッチャーが着けてる装備をしている。


 スキンヘッドの男が木川。


 なんかナスみたいな頭した奴が鈴木。


 これまた角刈りだけど、サングラスはしていない佐藤。


 最後が小柄で何かぶつぶつ言ってる薄気味悪い男が、村井。


 この4人があれなんだよなぁ······。


「4人ともやめないか! 五十嵐君はまだ17歳なんだぞ? 僕達大人がそんなんで──」


 ぺっ! と突然神埼に向かって唾を吐いてきた。


 人に向かって唾を吐く奴なんて本当にいたんだな。


 漫画や小説の中でしか見た事なかったから驚愕だ。


「お前うるせぇんだよ。何様だよ?」


 スキンヘッドの男は、そのままマンション内に消えていき続いて3人も部屋に戻っていった。


「ごめんね五十嵐君、彼らも決して悪い人達じゃないんだけど"子供に何ができるんだ"って態度を隠せないだけで、時間が経てば仲良くなれると思うんだ」


「仕方ないですよ、好き嫌いは誰しもあるし」


 実際僕だって篠崎さんが嫌いというか苦手だし。


 それを表に出すか出さないかの違いで······むしろ、表に出す人間の方が裏表なくて良いって思う。


 みんな腹の底では嫌ってたりするのに、それを『相手の気持ちを考えて言わないだけ』と善人ぶった所で、憎悪や嫌悪は育つわけで、それを発散しないと人間は壊れる。


 だから必ずどこかで吐き出しているはずなんだ。


 表では良い人、裏では誹謗中傷が当たり前。


 それが人間。


 だから僕はあんまり人間が好きじゃない──


「五十嵐君が、人間出来ていて良かったよ。トレーニングの邪魔して悪かったね」


「いえいえ、ちょうど良い休憩になりましたよ」


 神埼さんもそのままマンションに入って行った。


 さ、トレーニングしながら何故か記憶にある拳法の練習してから、みんなを使った戦略も考えないとな。


 みんな人間のように動かせるけど、それだけなんだよな。


 数で来る人間には負ける。


 やる事がたくさんだ。


 ······世界がこんなんになっても空は変わらないなぁ。


 青い空に雲に太陽に。


 このコミュニティにゾンビらしき者は来ないし、平和だ。


 コミュニティを襲って来るっていう野盗集団も、僕が来て1週間何もないし、今世界が荒廃しているなんて思えない。


 さ、トレーニングをやるか──



 ────────


 あと2日で約束の2週間になる。


 身体能力は上がったと思う。


 いや、上がってくれてないと困る。


 何せ毎日ランニングを20km、拳法の型の練習を3時間、あらゆる筋力トレーニングを6時間。


 みんなを使ったフォーメーションや戦い方を教えたというか、脳に直接命令しているというか······。


 それから人肉を求める発作も来ていない。


 良いことなんだけど、そうなるとやはりこのゾンビらしき者になった原因は何かの病気と思って間違いないって僕は思っている。


 それで残りの時間は畑仕事を手伝ったり、みんなと談話していたり平和な時間を過ごしていた。


「おいおい、ガキは楽で良いよなぁ! こちとら毎日夜の警備で疲れているってのによぉ!」


「ちょっと! あんたやめなよ! 五十嵐君はまだ高校生なんだよ! それに警備ったってゾンビもあいつらも来やしなくて、今はそこまで大変じゃないでしょ!?」


「いや、大丈夫ですよ、木川さん」


 木川さんの奥さんは、気っ風のいい人でみんなを引っ張る人だ。


 ──旦那と違いすぎて、何故この2人が夫婦なんだ。


 いや、面倒見が良いからこそかも。


「五十嵐君は、トレーニングを頑張りながら畑仕事だって手伝ったりしてくれて助かるんだよ。それに私達だっておっさんより若い男と話せる方が楽しいしね」


 ぱちりと片目を瞑りウインクして僕を気遣ってくれる。


 本当にこんな時間がずっと続けば良いのにな。


「じゃ、僕また山の方に行ってトレーニングしてきますんで、また明日」


「本当に頑張り屋だね、あんたは。明後日の手合わせで宇喜多さんに負けても気を落とすんじゃないよ」


「ありがとうございます!」と言葉を残して、みんながいる山に向かう。


 僕がゾンビらしき者を操れるから安全と言っても信じてもらえないだろうし、コミュニティの人達をいたずらに不安にさせても仕方ないし。


 車を横にしたバリケードを通りすぎ、しずくを一度見つけた住宅を過ぎて──


「さぁ、みんな、今日も武器を持った練習だ!」


 みんなに名前は与えていない。


 名前を与えると情が湧くから。


 みんなは戦闘要員で、いつ壊されても仕方ないんだから。


 ちなみに先週からみんなに木の棒やナイフ、ノコギリを持たしてる。


 フォーメーションも基本的には──


 その時それは起きた。


 突然雷が落ちたかのような轟音が響き、空気を揺らし、木々にいた鳥達が一斉に飛び立つ。


「なっ!? なんだ?」


 コミュニティの方から?


 あのコミュニティを度々襲ってる野盗が来たのか!?



 "本当に頑張り屋だね、あんたは"



 なんで!? なんで今、木川さんの奥さんの顔が浮かぶんだよ!? なんで宇喜多さんの顔が!?


 くそっ!


 くそっ!


 くそっ!


 なんでいつも僕はいざって時に、守りたい人達を守れてないんだ。


 僕はみんなに付いてこいと命令して全速力でコミュニティに向かう。


 来るとしたら北のバリケードから。


 北に!


 マンションまで近づいた時に異変に気づいた。


 見た事のない奴の死体が転がっている?


 なんでコミュニティの中枢に?


 僕は何か胸騒ぎがして、マンション内に恐る恐る入ってみた。


 壁のあちこちに血飛沫が、階を進んでいくと知らない連中の死体が4体。


 そして──


 宇喜多さん、佐藤さん、村井さんが血まみれで絶命していた。


「なんで!? どうして!? ここまで敵が入り込んだ!?」


 うぅ···。


 "五十嵐···君"


 ─ッ!?


「宇喜多さん!? 宇喜多さん生きてた!! すぐに治療を! 藤崎さんを呼びに!」


「待···て、はぁ···はぁ···僕はも···う助から···ない。」


「そんな!? ダメだ! 諦めちゃダメだ! 宇喜多さんは明後日僕と戦うし、僕は今日まであなたが陰で木川さん達を説得してくれていたのは知ってた! あんたみたいに良い人を死なせたくない!」


「う···嬉しい···ね。でも、だ···からこそ、聞いて。神埼が内通者だったんだ」


「神埼さんが!?」


「ぼく···達の、かた···きを──」


「う、宇喜多さん!? 宇喜多···うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!」


 なんで神埼さんが僕らのコミュニティを裏切ったかわからない。


 宇喜多さんが死ぬ間際に嘘を言うとは思えない。


 僕はコミュニティに来て2週間だけど、それでも仲間だ!


 ぎぃぃぃ。


 と、ドアが開く音がして木川さんの奥さんが顔を出してきた。


 僕は言葉より先に彼女を抱きしめていた。


 良かった。


 本当に良かった。


 そっと頭に手を添えて撫でられた。


 とても落ち着く。


「五十嵐君···良かったよ、無事で。このマンション内にいる女子供、年寄りは無事だ。宇喜多さんや佐藤さん、村井さんが入り込んできた連中を倒してくれた。」


「他の···藤崎さん達は?」


「ここに攻めてきた人数は10人くらいいたんだ、残りの野盗連中は勝てないと思ったのか突然北に逃げ出して、それを追っていった」


 北に逃げ出した?


 人数で勝ててるのに?


 何か腑に落ちない──


「わかりました! 奥さん達は引き続き避難しててください! 僕も藤崎さん達の所に行きます!」


「五十嵐君もここにいなよ! まだ子供なんだ! 戦って命を落とす必要なんか──」


「大丈夫です。僕は負けない。黙ってたけど僕にはある能力がある。だから力になれる」


「わかった。五十嵐君だって男だもんね、男が決めた事に口を出すなんて野暮ってもんだ。ただ1つ約束して! 必ず生きて戻る事。良いね?」


「当たり前です! 僕はコミュニティの人とまだまだ話したい事がたくさんあるんだから!」


 背中を思い切り叩かれ「行ってきな」と。


 神埼···あんたが本当に密通者かわからない。


 問い詰めて内通者ってわかったら僕は絶対あんたを許さない。


 こんな時でも、青い空に雲に太陽は、普段と変わらないままに存在している──

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