強くなりたい······強くならなきゃいけないんだ。
「なるほどな」と藤崎さん。
今日あった事を一通り藤崎さんに説明をして、この辺の野盗連中の情報を教えてもらおうと思った。
敵の数、戦力、戦い方の情報を元に対策を練り、一つ一つのグループを制圧して、しずくを拐っていった連中を割り出そうって思う。
「青年······悪いが、青年は今貴重な戦力だ。それをやすやす失うような蛮勇を許すわけにはいかないんだ」
「······藤崎さんには悪いけど、止めたって僕は行くよ。しずくを守れなかった僕の責任だ。」
「早まるな青年。助けに行くなとは言ってないだろ? 今の青年の実力を見せろ。持っている力を全部出せ!」
───────
マンションの駐車場にコミュニティにいる戦力の男7人を呼び、藤崎さんが前に出てきた。
「青年、俺達は青年よりは少なからず戦闘の経験がある。そんな俺達でも手を焼く状態の連中がいる。グループ名とかそんなんは知らねぇけど、連中は手の甲に蠍を模した焼き印をしている。」
「前言ってた、度々このコミュニティを襲って来るっていう?」
「そうだ。連中を討伐できたら、しずくちゃんを探しに川向こうの地域へ行く許可を与える! まずは強くなれ!」
そう言われ、突然差し出されたのはプラスチックで出来たバット。
「?」
「青年の実力を見る。うちのメンバーである宇喜多と手合わせしてみてくれ。」
眼鏡をかけてスーツ姿のひょろひょろな男性が前に出てきて、ぺこりと一礼してにっこり笑顔。
疑う余地もなくこの人絶対サラリーマンだ。
「よろしくな。五十嵐君······だっけ? 僕は見た目通り争いが苦手なんだ。僕にすら負けるなら、五十嵐君は外の世界に行ったらすぐ死んでしまうからね。それじゃ、いくよ?」
宇喜多さんの目付きが明らかに変わった。
今までは虫も殺せないような雰囲気だったのが、素人の僕でもわかるような殺気。
脂汗が吹き出る。
呼吸が乱れる。
くらくらする。
宇喜多さんの雰囲気に飲まれそうだ。
このまま雰囲気に飲まれて、すぐに負けて楽になりたい──
「あいつダメっすね。藤崎さん」
「んー。彼の若さで本物の殺気に耐えるのは無理だったか」
刹那──
宇喜多さんのバットが僕の顔にぶち当てられた。
「ぶっ!」
何が起きた?
全然動きが見えなかった。
「そこまでだ」
「五十嵐君大丈夫? 力を抜いたけど、鼻血出ちゃってるね。ごめんね」
「はい」と宇喜多さんにハンカチを差し出されて鼻を抑え、差し出された宇喜多の右手を掴みぐいっと引っ張られ立ち上がらされた。
「青年······とりあえず2週間トレーニングと手合わせ」
「わかりました」
僕の実力は弱すぎる。
全然勝てる要素がなかった。
多分だけど、このコミュニティでは宇喜多さんが一番弱いんだろう。
でも、僕は勝てなかった······。
「なんだ? 青年素直じゃないか? てっきり関係ないとか言って飛び出ていくと思ったぞ?」
がはははと藤崎さんは茶化して笑ってくれたが、実力もないのにしずくを助けられるわけがない。
「僕は──強くなりたい」
「そうか······じゃあ、もう日が沈んでしまったから今日はゆっくり休んでくれ。さあ!みんな! 持ち場に行ってくれ」
散り散りになって各自の持ち場へ向かって行った。
"使いもんになるのかよ本当に"
"なんか期待外れだわ"
あちこちから僕へのダメ出しが聞こえてくる。
当然だ。
与えられた時間は2週間、僕は必ず強くならなきゃいけない。守れなかった人を助けなきゃならないから───




