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究極ぼっちの異世界転移  作者: 志賀飛介
初めての異世界編
7/26

(7)牛乳売りのクルミ

更新が空いてしまい申し訳ないです。

 翌日、まだ薄暗い早朝五時。横助とクルミは牛乳瓶を積んだ荷車を引いてクルミの家から続く一本道を歩いていた。

「横助さん!途中で必ず交代しますからね!」

「ああ、交代交代ね、分かってるって」

 昨日の話から、まずは一番近い西都という街に行ってみたいということで、横助は牛乳を売りに行くというクルミについて行くことにした。しかしまあ、とにかく朝が早い。クルミはこれでも遅いくらいだと言うが、ラジオ体操を完全無視していた横助からすればもはや夜だった。

「で、この道をまっすぐ行くと西都ってとこに着くんだよな?」

 横助は欠伸をかみ殺し、尋ねた。

「はい、西都はこの大陸で一番の商業都市です。元々は街道の交差する場所に商人が集まって市場を開いたのが始まりなんですが、徐々にその数が増えて、街として機能するようになりました。そして三年ほど前、ついに正式に王都から独立し、国として認められました。ですが国王がいるわけではなく、国の運営は議会を中心に行われています」

「へぇ~」

「その辺りのことは私もよく知らないんですが、どうも前任の議員の方々の汚職が発覚したようで、それで新しく議長に就任された方が独立のために色々と動いたらしいです」

「やり手なんだな」

「そうですね。私は会ったことがありませんが、まだ若い方らしいですよ?」

「ほーん?」

 横助は特に興味もなさそうに頷いた。前方に小高い丘が近づいてくる。西都の姿はまだ見えない。

 それからクルミと横助は引き役を代わりながら西都の街まで歩いた。小さな起伏を上ったり降りたりして、何度目かの坂を登った先に壁に囲まれた街が広がっていた。

「おお……ここが?」

「はい、ここが商業の街、西都です!」

 西都の中心には円形の広場のような空間があって、その周りに無数の建物がひしめいている。そして街の外縁をぐるりと壁が囲っていた。まさしく横助が落下中に見たドーナツ型の街だった。中心から十字に道が通っている。

「結構広いんだな」

 他の街がどんな感じなのか横助には分からないが、軽く迷子になってしまいそうなくらいの広さはあった。

「あの中央の広場でいつも牛乳を売っているんです」

 クルミが中心部のぽっかり空いた場所を指差して言った。

「あの場所が西都の始まった場所なんですよ」

「へえ」

 クルミに言われて中央の広場をよく見ると、小さな屋台らしき物がたくさん並んでいた。

「今日は少し多いですね」

「そうなのか?」

「はい、場所が空いているうちに早く行きましょうか」

 二人はそのまま坂を下って西都の街に入った。一応西都の入り口には門番らしき鎧姿の男が二人いたが、クルミを見るなり「おう、クルミちゃん」「今日は早いね」と笑顔で手を振っていた。

「あんなあっさり通していいのか?」

 横助が耳打ちするとクルミは「ええ」と少し困ったように笑った。

「本当はダメなのでしょうが、この西門は私達ルルリエ家の人間しか利用しないので……」

「顔パスってやつか」

「だから商業都市といってもこちら側はあまり栄えていなくて。やはり広場よりも東側、特に王都側の東門から広場までの通りはとても活気があります」

「なるほどね」

 そう言って横助は西都の町並みを見渡す。ヨーロッパの古い町並みを思わせる石造りの建物が並んでいる。脇道こそ土がむき出しだが、メインとなる通りには地面にも石が敷き詰められていた。ただどこかおとなしめというか、様々な店が軒を連ねて商人が闊歩しているような活気はなかった。しかし西都という街が発展してきた歴史を踏まえるとそれも当然だった。大きな都と都を結ぶ場所に人が集まり、人が集まるところに商人や店が集まる。そうして出来た街が商業都市西都なのだ。

 しばらく進むと、通りの先に一際明るい空間が見えた。

「あれが中央広場か?」

「そうです!」

 クルミが嬉しそうに頷いた。そのまま広場をずんずんと進む。やがて広場の端っこあたりで立ち止まった。

「ここです!」

「ここ?」

「はい、場所は基本的に早い者勝ちなのですが、私は大体いつもこの辺りで売っています。実は私の家はこの広場でも古株なので、人通りは少ないですが意外とお客さんは来ますよ?」

 クルミは自信ありげに言うが、横助は内心疑問を抱いていた。というのも、あまりにもその場所が閑散としていたのだ。

(古株って言うけど、固定客がいるのか?とてもじゃないがこの量の牛乳瓶が全部捌けるとは思えないけど……)

 横助はせっせと設営をするクルミと牛乳瓶の積まれた荷車を交互に見た。


(と、思っていた時期が私にもありました……)

 地べたに座り込んで横助は心の中で呟いた。

「大丈夫ですか?」

 クルミが心配そうに覗き込むが横助は「大丈夫じゃない……」と首を振った。

 結論から言えば牛乳は爆売れだった。人が来ないなんてとんでもない。クルミが『ルルリエの牛乳でーす!』と叫んだ途端その声に引き寄せられるように広場の東側にいた人たちが続々と集まってきた。古株というのは本当のようで、常連と思われる人たちが「クルミちゃん元気?」だの「クルミちゃんはいつから学校なんだい?」だの応対中でもお構いなしに話しかけていた。その一つ一つにクルミは丁寧に答え、時にあしらいながらお金を貰い牛乳瓶を渡していた。

 一方の横助はというと、クルミの隣で同じく牛乳を売る作業をしていたのだが、接客なんてしたことがないのでそれはそれはひどいものだった。そもそも笑顔なんて出来ないし、何か聞かれても答えられない。まごつく度にクルミにフォローされ、何度も瓶を落としそうになりながらも何とか最後までミスなくやりきった。

「俺ぁダメだ……。俺ぁダメ人間なんだ……」

「もう、そんなことないですよ」

 すっかり自信をなくしてしまった横助に、クルミは優しく言った。

「今日は少しお客さんが多かったので、横助さんがいてくれて助かりました」

「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ……」

「むぅ……!お世辞じゃないです!」

 可愛らしく頬を膨らますクルミを見て、横助はぼんやりと考えた。

(しかしクルミは凄いな、ずっと笑顔だったもんな……いや、それはいつもか。おまけに敬語も完璧だし……ってそれもいつもか。あれ?天職か?この仕事、クルミにとって天職なのか?)

 そうやって横助がモノローグをやっていると徐々にクルミがモジモジとし始める。

「あの、横助さん?お疲れなら私が癒やしましょうか?」

「癒やす?どうやって?」

「それはもちろん、治癒魔法です」

「え、治癒魔法って精神的な疲労も回復できるの?」

 横助は驚いてクルミに尋ねる。治癒魔法と言えば身体機能の回復というイメージだった。

「一応出来ます。やはり物理的な回復と比べると難しいのですが、沈んだ気持ちを癒やすことくらいなら私にも出来ますよ?」

「まじか……」と横助が言っている間にもうクルミは両手をかざして治癒魔法の準備に入っていた。

「じゃあいきますよ~」

「あ、ちょっと待ってまだ心の準備が……」

「えいっ!」

 かけ声と共にクルミの両手がほのかに光る。と同時に横助の体がふわりと温かさに包まれた。

「あっ……あっ……ああぁぁ…………」

 横助はだらしのない声を上げてふにゃりと地面に座り込んだ。暗い気持ちが消えて、少しだけ元気が湧いてきた。

「どうですか?」

 クルミが横助の顔を覗き込んで尋ねる。

「ああ、なんか元気が出たよ。でも……」

「クルミの足を引っ張った上にクルミに癒やして貰って……。やっぱり俺ぁダメ人間なのかも知れない……」

「よっ横助さん!?」

 さすがの回復魔法でも、一度失った自信はそう簡単には戻らないようだった。


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