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究極ぼっちの異世界転移  作者: 志賀飛介
初めての異世界編
24/26

(24)力

 南門にて、横助は震えていた。武者震いかも知れないし、恐怖のためかも知れない。それでも悪い気分ではなかった。向こうの世界にいたときは、己の命を犠牲にして誰かを助ける、そんな勇者に憧れていたが、実際にその場面に直面した今、死にたいとはとても思えなかった。

「でも、油断したら死ぬな……これは」

 あのゴブリン達はおそらくクラウディアが襲われたときと同じアンデッドゴブリンだ。ということはかなりの長期戦になる恐れがある。それはなんとしても避けたかった。

「まあでも、やるしかないよな」

 横助は右手を地面につけた。

「氷よ!!!」

 声と同時に地面を氷が走って、アンデッドゴブリンの群れの前で放射状に広がった。そのまま一瞬のうちにゴブリン達を氷漬けにする。冷たい風が横助の髪を揺らした。

「よし、いい感じだな」

 この世界に来てから数週間、魔法という全く未知な力もだいぶ横助の体に馴染んでいた。それによってある程度のコントロールは感覚的に出来るようになっていた。中でも特に横助が嬉しかったのが、女神の言葉通り魔法とは想像、すなわち想像した魔法を自由に生み出せるということ。それはつまり、横助自身が漫画やゲームにあるような派手な技を放てるということだった。中二病患者にとってこれほど嬉しいことはない。

「さて、これで終わってくれればいいんだけど……」

 氷像となったアンデッドゴブリンの群れを見て横助は呟く。が、すぐにその顔を歪めた。氷漬けのゴブリン達の後ろから炎が吹き出してきたのだ。

「なんだ……?」

 横助はその光景を見てすぐには理解できなかった。赤々と燃える炎はゴブリン達を覆っていた氷をあっという間に溶かしていく。そして白く湧き上がる水蒸気の先から出てきた魔物を見て横助は目を疑った。若干肌の色が違うが、姿形は周りにいるアンデッドゴブリンとほぼ同じゴブリンだった。しかしその手には杖が握られていた。

「まさか、アンデッドゴブリンの魔法使いなのか……?」

 数は少ないが、ゴブリンなどの人型の魔物の中には稀に魔法を使う者がいるというのは聞いていたが、その希少さ故、実際に出会うとは横助も思っていなかった。しかも相手はそれ自体が希少といわれているアンデッドだ。横助の想像通りなら、相当なレアモンスターと遭遇してしまったことになる。

「これはちょっとまずいか……」

 横助は苦々しく呟く。

「でも、やるしかない」

 この時点で、横助の中に逃げるという選択肢はなくなっていた。通常のアンデッドゴブリンだけならまだしも、魔法使いまでいるとなると、もはや壁だけで防げる可能性はゼロに等しい。

(最優先はあの魔法使い……それなら……)

 横助は右手をゴブリンの魔法使いに向ける。何かしてくると察した周りのアンデッドゴブリン達が一斉に飛びかかってくる。が、横助の魔法が一瞬だけ早かった。

「土よ!」

 魔法使いの足下から土が棘状に隆起し、串刺しにする。同時にアンデッドゴブリン達が横助に群がる。横助はそれをギリギリで躱すが、全ては避けきれず左腕に一太刀浴びてしまう。

「くっ……」

 見ると、アンデッドゴブリンの一体が短剣を持っていた。アンデッドらしく刃こぼれしたボロボロの剣だが、逆にそれが傷口を広げていたようだった。よく見ると他のアンデッドゴブリンも何かしらの武器を持っているものが多い。横助の心が一瞬だけ恐怖に染まり、それに呼応したかのように体からふと力が抜ける。

(……っ!?駄目だ、飲まれちゃ駄目だ……。気を強く持たないと……)

 強く息を吐いて恐怖を追い出すと、横助は再び右手を地面につける。

「凍り付け!」

 その言葉と共に氷が地面を走ってアンデッドゴブリンの群れをまた氷漬けにした。体から力が抜ける感覚に顔をしかめつつ、横助は氷像の群れを見据える。

「やったか……?」

 だがそこで横助の目にあり得ない光景が映る。またしても氷像の奥から炎が吹き出したのだ。

「なんで!?魔法使いは動けないはず……!」

 一気に氷が溶け、水蒸気が立ち上る。その奥にアンデッドゴブリンの魔法使いが見える。なんと土の棘に貫かれた状態で杖を掲げていた。

「あいつ……!あの状態でも魔法使えるのかよ!?」

 無論、普通の魔物なら使えない。アンデッドだからこそ出来る芸当だった。そしてこの瞬間、横助は自分がいかに困難な状況にあるのかを改めて悟った。

(やっぱり凍らせるんじゃなくて土の壁で囲うべきだったか……?)

 横助は最初に氷が簡単に溶かされたのを見てその作戦も思いついていた。だが失敗する可能性も考えると、使い慣れない大技を使うのはためらわれたのだ。そのためらいが今回は仇となった。

(もう一度串刺しにするか?それともあいつだけ凍らせて…………)

 そう考えているうちに氷から脱出したアンデッドゴブリン達が再び横助に群がってくる。

「くそっ……!」

 ボロボロの剣、手斧、棍棒、それらを避けながら、カウンターで身体強化した拳を入れる。付け焼き刃の身体強化だが、手応えはある。しかしアンデッドゴブリンは倒れてもすぐに起き上がってきた。

(駄目だ、押し切れない……!)

 身体強化は比較的高率がいいが、それでも少しずつ肉体、精神共に疲弊していく。対してアンデッドゴブリンは二度も氷漬けにされたにもかかわらず、最初と変わらない動きで襲いかかってくる。少しずつ、少しずつ横助の動きが鈍くなっていく。

 目に映るものや聞こえるものがぼんやりとしてくる。まるで泥水に沈み込んだような感覚の中で、横助はふと考えた。なぜ自分はこんなにも必死になっているのか、と。

 確かに横助は女神に召喚された勇者で、チートである。とはいえ、横助には技術もなければ気持ちもない。所詮はただ能力があるだけの一般人だ。アーサーとの模擬戦では技術の差を力で覆したが、横助はアーサーの方が断然強いと思っていた。それなのに、なぜこんなにも必死になって戦っているのか。なぜ、異世界からやって来てこんな見ず知らずの街を守ろうとしているのか。疑問が次々と頭に浮かんでは消える。

(そもそも俺は、そんな大層な志を持ってこの世界に来たわけじゃない…………)

 気付けば横助の体は傷だらけになり、身体強化も切れかけていた。それが切れた時が横助の終りだ。走馬燈のように今までの出来事が思い起こされる。


 その時、横助の心がざわりと疼いた。


(……なんだ?)

 それは泥水に沈んでいた体がようやく息苦しさを思い出したかのように、ざわざわと体中に広がっていった。

(なんだ?なんだ、この感覚は……この気持ちは……?俺は…………)


「──────横助さんっ!!!!!!」


 突如響いたその声に、横助は目を見開いた。水中から引き上げられたかのように、視界が、音が、体中の感覚がクリアになる。

 後ろを振り返ると南門の通用口のそばにクルミが立っていた。痛みをこらえるように顔をしかめている。

「クルミ……」

 横助は呟く。クルミの声が聞こえたあの瞬間、横助の体に不思議なことが起こった。死の寸前まで枯れかけていた魔力が突然爆発するかのように体の中から湧き出したのだ。

「魔法とは……思いの力……」

 女神が確かそのようなことを言っていたと横助は思い出す。

「横助さん!!!」

 もう一度そう叫んで、クルミが横助の元に駆け寄ろうとするが、横助はそれを手で制した。

「大丈夫だ」

 詳しい原理は分からなかった。ただ、横助は今、露ほども負ける気がしなかった。

 横助は両手を前にかざす。

「足止めなんてけちなこと考えるから駄目なんだ。止めても止まらないような奴には、火力あるのみ!」

 かざした両手に魔力が集中する。そして横助はイメージをする。するとアンデッドゴブリンの群れをすっぽりと覆うように炎が円を描いた。ゴブリンの魔法使いも異変に気付き、何かをしようとするが、もう遅い。

 横助は両手に一層力を込めて、叫んだ。

「燃え上がれ!!!!」

 声と同時に、円の内側に巨大な火柱が立ち上った。それは渦巻くようにアンデッドゴブリンの群れを飲み込み、燃えさかる。

「グギャアアアアアアアアッ!!!!!」

 火柱の中からアンデッドゴブリンの叫び声が聞こえる。それを聞いて、横助はより一層火力を高めた。離れていてもやけどしそうなほどの熱風が頬をかすめる。

「すごい…………」

 その光景を見て、クルミは惚けたように呟いた。




 しばらくして、そろそろいいだろうということで横助は魔法を解いた。黒焦げになった草地の上に、同じく真っ黒に炭化したアンデッドゴブリンが転がっている。動く気配はない。

「さすがにここまですれば死ぬか」

 横助は呟く。そこへ背後からクルミが飛びついてきた。

「横助さん!!!」

「おわっ!」

「横助さん!大丈夫なんですか!?い、今回復を……!!!」

「大丈夫だって」

 慌てて治癒魔法を使おうとするクルミを横助はなだめる。しかしクルミは首をブンブンと横に振った。

「そんなはずありません!だって私が駆けつけたときにはもうボロボロでした。その状態であんな大きな魔法を使ったら、マナ切れで死んでしまいます!」

「でも、死んでないし……」

「死にかけてるって事ですよ!」

 クルミは必死にそう訴えるが、横助には余り実感はなかった。前回マナ切れになったときのような脱力感もないし、普通に立っていられる。いや、正確には実感がないわけではない。実際、クルミが来る直前までは確かにボロボロで、死にかけていた。脱力感を通り越し、意識が遠のくところまで行っていた。しかし不思議なことに、クルミが来た瞬間、クルミの声を聞いた瞬間、それらが全て吹き飛んだのだ。

 あれは一体何だったのか、横助はクルミに治癒魔法を掛けられながらぼんやりと考えていた。


この話、果たして最後まで書けるのかどうか……。

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