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究極ぼっちの異世界転移  作者: 志賀飛介
初めての異世界編
22/26

(22)ガロンと相棒

 西都の北側は小さな森と村が転々とする比較的静かな場所である。しかしその場所が今、戦場と化していた。いや、戦場と言うと語弊がある。一人の人間を狙う複数の魔物。その目は戦場で相手の力量を測るような生やさしいものではなく、目の前の餌をどう調理しようかという卑しい余裕をはらんでいた。しかしそんな彼らに対し、建築ギルド長クラウディアは一歩も退かず、毅然とした態度でにらみ返していた。

 魔物達は北門で作業をする建築ギルドの前に突然現れた。そしてクラウディア達に驚く隙も与えずに襲いかかってきた。建築を専門とする建築ギルドの者達は当然戦えない。しかし周囲にはもっと戦えない、西都の市民や外からやって来た商人達がいた。間違っても彼らを襲わせてはならないと、建築ギルドの面々はクラウディアの指揮の下、腕の立つ者を中心に防衛戦を張った。幸いなことに敵の数はあまり多くはなかったが、やはり戦いに慣れていない彼らは一人、また一人と傷ついていった。それでもなお戦おうとするギルド員達を無理矢理下がらせ、クラウディアは前線に立ち続けた。

 そして今、彼女はたった一人で魔物達と対峙している。

「くそ……こいつら相当やっかいだね……」

 クラウディアは鉄パイプを握りしめる。ギルド員達もかなり善戦していたはずだが、魔物の数は全く減っていない。それもそのはず、魔物達は倒しても倒しても起き上がってくるのだ。

「やっぱりアンデッドか……」

 クラウディアには一目見てすぐに分かった。目の前に現れた魔物は自分に怪我を負わせたあの魔物と同じ、アンデッドゴブリンだと。しかしまさかここまで苦戦するとは思わなかった。

「こんなにやっかいな相手だったとはね……」

 詳しい能力は分からないが、中途半端なダメージじゃ致命傷にならない。倒すなら一撃必殺、それこそあの時の横助のように、まとめて吹き飛ばすぐらいでなければ。だがクラウディアには魔法が使えない。サンズのようなパワーもない。

「結局あたしは、ただの大工か」

 戦士ギルドであの二人と会ってから、クラウディアは変わった。人を拒んでいた一匹狼が人を受け入れるようになったのだ。すると不思議なことにクラウディアの周りに多くの人達が集まるようになった。それが嬉しくて、そんな者達を守るためにクラウディアは誰よりも努力を重ねた。だが、どうしても強くはなれなかった。周りには理想が高すぎるんだとも言われたが、それでもクラウディアは強くなりたかった。強くなって、仲間全てを守れるようなヒーローになりたかった。戦士ギルドを辞めて建築ギルドに入った後もその思いは変わらなかった。

(結局、ヒーローなんておとぎ話だったのかね……)

 クラウディアは自嘲的に笑う。それを見て一番先頭にいたゴブリンが苛立ったように雄叫びを上げ、クラウディアに踏み込んだ。

(来る────)

 クラウディアは瞬間的に思った。だがそれとほぼ同時にある声が戦場に響き渡った。


「お姉ちゃんから離れろーーーッ!!!!」


 続けてどこからか小石が飛んでくる。その小石はコツンとゴブリンの頭に当たると、地面に落ちた。小石は続けざまに二つ、三つのゴブリン達の群れに向かって飛んでくる。

 まさか、とクラウディアは小石の飛んでくる方向に目を向けた。するとそこには以前クラウディアが身を挺して守った少女、エリンが立っていた。エリンは必死に恐怖を押さえ込みながらこちらを睨んでいた。

「お姉ちゃんから、離れろーーーッ!!!!」

 エリンは再びそう叫んで、抱えた小石を必死に投げる。

「や、やめろ……」

 クラウディアは声にならない声で呟いた。しかしゴブリンの標的は完全にエリンへと切り替わっていた。剣呑な雰囲気が立ちこめる。

「やめてくれ……!」

 クラウディアは必死でゴブリン達の注意を引こうとするが、張詰めていた糸が切れたのか、少しも体を動かすことが出来ない。肝心なときに動けない自分が情けなくて、クラウディアは奥歯をかみしめる。しかしそうしている間にもゴブリン達はジリジリとエリンへとにじり寄っていた。そしてついにリーダーとおぼしき一体がエレンへと飛びかかる。

「や……やめろぉぉぉぉっ!!!」


────バァンッ!!!


 クラウディアの絶叫は突如響き渡った破裂音にかき消された。飛び散る血飛沫にクラウディアと、そしてエレンも目を見開く。頭を打ち抜かれたゴブリンはどっさりと崩れ落ちた。それを見てエレンも尻餅をつく。

「すまない、少し遅れた。馬があれば良かったんだが……」

 クラウディアは声のした方にゆっくりと顔を向けた。そこにはかつての上司であり、師匠であり、また恩人でもある男の姿があった。

「ガロン……さん……!」

「数は思ったより多くないな」

 いつも通りの感情の見えない顔でガロンは冷静に状況を分析した。頭を打ち抜かれたゴブリンは倒れたがまだ息はあるようだった。しかし周りのゴブリン達も先程の銃声でひるんだのかこちらを軽快して動く気配はない。

「ガロンさん、あたし……!」

 クラウディアは思わず泣きそうになりながら声を絞り出した。

「顔を上げろ、クラウディア。お前が助けた奴らにそんな情けない姿を見せるな」

 そう言いながら、ガロンは西都の城壁を一瞥した。クラウディアも同じ方向に顔を向ける。すると西都の城壁の上で泣きながらクラウディアの名前を呼ぶ建築ギルドのメンバー達がいた。

「…………なんだよ……いい年した男共が泣くんじゃないよ……」

 そう呟きながら、クラウディアは自分の中に何か温かいものが流れ込んでくるのを感じていた。それは今までずっと麻痺していた、生きる意思のようなものだった。

「よく一人で守り切った。後は俺に任せろ」

「……っ!はい、お願いします!」

 クラウディアは軋む体にむち打って走り出した。その動きに反応してゴブリン達も動き出すが、ガロンが銃で牽制する。その間にクラウディアはエレンの元に滑り込むと、そのままエレンを抱えて北門へ走った。北門では通用口を開けて建築ギルドのギルド員達が待っていた。皆顔をくしゃくしゃにしてクラウディアを呼んでいる。

「そんなに叫ばなくても……分かってるよッ……!」

 走りながら悪態をつくクラウディア。そこでふと後ろを振り返る。魔物相手に一人で立ち向かうガロン。その背中があの時の横助のものと重なって見えた。

「一人で十分だなんて思ってたはずなのに、よくもまあこんないい仲間達に出会えたもんだ」

 そう、にやりと笑いつつ、クラウディアは同じく仲間達の待つ北門へ走り込んだ。




「さてと」

 ガロンはアンデッドゴブリンの群れを見て呟いた。数は三十体ほど。そこまで多くはない。


バァンッ!!!

バァンッ!!!


 銃声をとどろかせて二発、ガロンの撃った弾は正確にゴブリンの頭部を貫く。二体のゴブリンがどっさりと倒れる。が、その二体もしばらくするとまたゆっくりと起き上がった。

「なるほど、これがアンデッドか。確かに厄介だな」

 ガロンはかつて戦士ギルド長として様々な魔物と戦ってきたが、アンデッドは初めてだった。加えてガロンの使う銃という武器は薬莢に詰めた粉末状の魔石をあえて暴発させることで鉄の弾を飛ばす武器で、速射性は高いが威力が低く、急所を確実に狙わなければならない。そのため急所というものが明確に存在しないアンデッドには些か分が悪かった。しかしそこは歴戦の元戦士ギルド長。抜かりはない。

「となればやはりこいつの出番だな」

 ガロンは腰に差していたもう一丁の銃を引き抜いた。先程の銃よりも一回り以上大きく、銃口も馬鹿みたいに大きい。もともと魔法を使えない者でも使用できる武器として開発された銃だが、高価で扱いづらい上に危険であるということで余り普及しなかった。そこに来てこの銃はかなり特殊である。

 戦闘では常に冷静沈着、知識と経験に基づき一つ一つのことを確実に成してきたガロンにとって、この銃との出会いは衝撃だった。値段は通常の銃よりもさらに高価で重すぎて取り回しが悪い。その上使う魔石の量も多いため危険度も一級品。どう考えても人のために造られたとは思えないこの銃がガロンには新鮮だった。

「CROCUS12……」

 そう呟いて、ガロンはグリップに刻まれた文字を指でなぞる。ゴブリン達が少しずつ動き出していた。やがて雄叫びを上げながらガロンめがけて襲いかかってくる。

「喜べ、お前の初陣だ……!」

 同時にガロンは右手で銃を、そして左手を右の手首に添えて引き金を引いた。

 腹の底に響くほどの銃声が一発、二発と轟く。銃から全身にズドンと衝撃が伝わる。放たれた銃弾は正確にゴブリンの頭部を撃ち抜いた。ゴブリンの頭が派手に吹き飛ぶ。先程は頭を打たれても再び起き上がってきたゴブリン達だが、今度は起き上がることはなく、正真正銘の物言わぬ死体と化した。

「さすがに頭を吹き飛ばされたら復活は出来ないみたいだな」

 ガロンは続けて四発、計六発の銃弾を撃ちきると、迫り来るゴブリンの群れから距離を取って素早く次の六発を装填した。そしてさらに六発、ゴブリンの頭を打ち抜く。余りの銃声にガロンの鼓膜は麻痺寸前だった。

 ガロンはその後も銃を撃ち続けた。アンデッド達は仲間の頭が吹き飛んでも怯えることなく襲いかかってくるが、ガロンもそんな彼らに戸惑うことなく引き金を引いた。避けようとする者、飛びかかってくる者、フェイントをかける者。通常のゴブリンよりもやや洗練された戦い方をアンデッドゴブリン達は仕掛けてきたが、ガロンは合計で三十六発、一発も外すことなく撃ちきった。

「ふぅ…………」

 クルクルと銃身を回して、ガロンは腰のホルスターに銃を差す。

「悪くない」

 そう呟いて、ガロンは地面に散らばった薬莢を拾い集めた。戦場はおろかプライベートや一人の時でさえ笑うことのない男だが、その口角がわずかに上がっていたことを知るものは誰もいない。


いつもありがとうございます。

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