3.勇者の村 ~病弱なおかあさま2~
教えて貰った場所へと銀河達が向かうと、そこには2人で暮らすのも精一杯の小屋があった。
庭先の畑で、病み衰えた女が鍬を振るっている。
病み細り、骨と皮だけになった身体。
その姿は、村人からの話に聞いていた年頃よりもずっと老けて見えた。
だけど遠目に見ても、彼女が病みついていようと心根まで病んでいないことは分かる。
側にいるだけでホッとする様な、温かな気配。
ああ、あの人は何かに守られている…一目見て、銀河は直感的にそう思った。
だけど病に蝕まれた身体で、畑に出ている方が問題で。
一目見た感想など、女のあまりにも危うい様子で直ぐに消し飛んだ。
心配してだろう、隣の家の女将が付き添ってあれこれと声を掛けている。
どうやら女に農作業を止めて家に入るよう、口添えているようだが…
細くなってしまった身体に、農具は重すぎる。
振り上げる度、鍬の重さに振り回されてあっちへよろよろ。こっちへよろよろ。
見ているだけでも、何とも危なっかしい。
体力の消耗も激しい様で、農作業は遅々として全く進まず。
蹌踉けるたび、その農具で惨事を起こすのではないかと………
見ているだけで、背筋が凍える様だ。
女の現状を正しく認識した瞬間、銀河とレイヤはだっと駆けだしていた。
「お願いです! 無理しないで下さい!」
「その鍬を置いて、涼しいところで寝ててよ! 農作業なら私達がするから!」
「そうです! 休んで下さい! どうか僕達に、手伝わせて…!!」
なんとも必死な、本気の懇願だった。
元々根が善良な銀河と、人並みの道徳観念は一応備えているレイヤ。
どうにも女の様子を見ていられなかった2人は、土下座の勢いで頼み込んだ。
お願いだから、どうか貴女は休んで下さいと。
いきなり現れた旅装の少年少女に、女が目をパチパチと瞬かせる。
だけど自分を心配してくれたのだと分かるや否や、警戒することもなく、やんわりと微笑んだ。
まるでとろける様な、柔らかい笑顔だった。
「気持ちは嬉しいわ。でも、これは私の仕事で…」
「すまない。どうかこの2人の気の済む様にやらせてもらえないか」
銀河達の頼みを断ろうとした矢先、追いついたローレンスが割り込んだ。
穏やかながらも有無を言わせない器用さで、女に真っ直ぐ視線を向ける。
「この子は生き別れの母親を捜している最中でな、母親と同じ年頃の女性が大変そうなのを放っておけないんだ。だから頼む。この子の孝行心を満たすと思って、協力してやってくれ」
大の男にそこまで言われて、無下にできる者はそうそういない。
相手が一児の母親と言うこともあり、母性を擽るナイスフォロー。
少年達は内心で、ローレンスの手腕を称えてグッと拳を握った。
--流石ローレンスさん、年の功ー!
狼男にとって、全く嬉しくない感想は、幸いにして狼男に悟られることもなく。
「それじゃあ、お手伝い、頼もうかしら…」
女が子供達の熱意に折れたのは、半ば自然なことだった。
しかしながら、最終的に畑仕事を手伝ったのは少女と狼男の2人だった。
畑仕事は手慣れたものの、村娘レイヤ。
亀の甲より年の功、長生きによって培われた知識と経験の狼男ローレンス。
彼等にとっては畑仕事などちょちょいのちょいだが。
銀河1人が、畑仕事は初体験で。
鍬の握り方がなってない! と、作業開始早々に鬼の形相でレイヤから駄目出しをくらい。
銀河は、勇者の母リーナの付き添いを厳命され、看病に勤しんでいた。
「ごめんなさい、ありがとうね」
「お礼なんて止して下さい。僕達、好きでやってるんですから」
ただの自己満足だと言いながら、銀河は温かい香草茶を用意する。
滋養が大事だよね。そう思いながらお昼ごはんの献立を考えていた。
「でも、申し訳ないわ。初対面なのにこんなに良くして貰って…」
「言ってたでしょう? 僕はお母さんがいないから、貴女みたいな人を放っておけないです」
それは嘘じゃないと、内心だけで呟いた。
銀河の父母は、もう10年も前に他界しているのだから。
銀河の強い勧めを断ることもできず。
この日、日暮れまでリーナは銀河達の献身を受け入れることになった。




