2.勇者の村 ~病弱なおかあさま~
気付けば1ヶ月以上が過ぎてしまいました。
待っていて下さった方、済みません! お待たせ致しました。
村に入り込んだ余所者は、どう考えても目立つ。
それが旅人と言うにはそぐわない、取り合わせもちぐはぐな集団なら尚のこと。
善良そうな少年少女+ワイルド系青年という不思議な組み合わせは、ことのほか目立った。
「ロー………レンズさん、そんな堂々と…」
「耳、隠さないの?」
無邪気に本名を口に仕掛けた銀河とレイヤの視線は、狼男に釘付けだ。
原因:ウサギの垂れ耳が剥き出しのままだから。
初見の時は銀河達も本物のうさ耳だとは気付かなかったのだが…
それが本物だと知ってしまった後ともなると、どうにも気になって仕方がなかった。
「問題ない。むしろこの質量だからな。無理をして隠した方が不自然だ。幸い、俺の耳はどうも頭に飾り布の一枚でも巻いていれば、そういう布飾りに見えるらしい」
不自然な所など何処にもないという態度で言い切る狼男に、少年少女は勝算の拍手を送った。
「ああ、そうだ。忘れていた」
村に入って直ぐ。
物珍しげに貧村の家々を見て回る銀河に、狼男が一振りの剣を差し出した。
細身の、初心者でも扱いやすそうなサイズの剣。
「これは?」
「レイピアだ」
「いえ、そう言うことではなくて、何故?」
「護身用だ」
村の小さな寂れた武器屋を見て、忘れていたことを思い出した。
内心でそう呟きつつ、狼男は強引に銀河へとレイピアを押しつける。
「そんな、貰えません!」
「安物だ。気にするな」
何しろ、大量生産品だから。
正直さが時に美徳とは言えないと知っている狼男は、それでもレイピアの価値を暴露した。
遠慮する銀河に、何が何でも受け取って貰うつもりだった。
「どうしてそんなに頑なに、押しつけようとするんです?」
「理由は二つばかり、あるな」
「二つもあるんですか?」
「ああ」
そう言って狼男は、二つの理由とやらを語る。
曰く、偽装の為。
曰く、用心としての護身用の為。
簡潔に言われても分からなかったので、銀河は詳しい説明を要求した。
「つまりだ。丸腰で旅をする様な不用心で危なっかしい人間なんて、どこにもいない」
「それは、旅人のふりをするなら、剣の一つも持っていないと妖しいってこと?」
「だから、そう言っている。それに実際、護身用に刀剣類の一つも持っていなければ危険だ」
「…僕、魔法が使えますよ?」
「だが、何時暴走するか分からない危険必至の腕前なのだろう。クリュスから聞いている」
「クリュスさん…正直に暴露しすぎです」
「それに魔王の魔法は特殊だからな。陛k…キサラも魔王専用魔法なら失敗はないらしいが、わざわざ正体を隠している時に、それを使って正体を暴かれたくはあるまい」
「でも、人間さんの魔法を使うと、本気で暴走しかけ…」
「だから、魔法は余り使うなと言っている」
「そう言われると、僕は本気で役立たずになっちゃいますが」
「そうならないでも良い様に、物理面での戦い方を教えよう」
「ロー…レンズさん、サラリと言いますね」
「伊達に長生きはしていない。そのくらいは些細な労力だ」
狼男は自分で自分の提案に満足そうに頷き、銀河に有無を言わせない。
年の離れた年長者に世話を焼かれるのに弱い銀河は、拒絶できないでいる。
「陛k…キサラの体格や腕力でも使いやすい剣を選んだつもりだ。当面はこれを使ってくれ」
「でも使い方、分かりません」
「だから、俺が教える。実戦経験はないがキサラも剣術を習っていたそうだが…」
「あ、はい。5歳の頃からコツコツ練習してました」
「それら一切、当分忘れろ」
「僕の10年、無駄扱い!?」
「仕方がない。陛下の剣術専用の剣が、此方の世界には無いらしい。なれば剣の方を陛k…キサラに合わせて誂えるよりも、既存の剣と剣術をキサラに仕込んだ方が早いだろう」
「ずばっと簡潔に結論づけた、その結果なんですね…」
神妙な顔で手に持つレイピアを、銀河はしげしげと眺める。
旅の同行者の一人でありながら、戦闘能力皆無のレイヤは少々寂しげだ。
自分が仲間に加われないと言うよりも、戦闘云々に適正のない己を嘆く様な。
退屈でつまらなさそうな顔で、態とらしく小石を蹴った。
狼男を引きつれ、村の家々で銀河とレイヤは聞いて回った。
「この近辺で、10代の息子と生き別れた母親はいませんか?」
一応は銀河の設定に沿うて訪ねている訳だが、敢えて誤解してくれたらと期待もしている。
こういった言い方をすれば、上手いこと勇者の母親の情報が引っかからないかと。
勿論訝しむ村人に理由を聞かれることも多いが、その度に銀河はこう答えた。
寂しげで健気な微笑み付で。
「実は、生き別れの家族を捜していて………その、手掛かりが、欲しくて」
銀河そもそもの生い立ちと被る部分も無くはない為、妙な真実味が付与されていた。
あえて誤解も訂正せずに、村人に聞いて回る少年少女。
その地道な努力は程なく実を結び。
やがて3人は、一人の女性の名前を知る。
その名前はリーナ・ガーリック。
勇者がどうのと口走って出奔した息子以外に見寄もない、身体の弱い女であった。




