1.勇者の村 ~偽名はレンズ~
良く晴れた清々しい朝。
夜の内にこっそり飛竜に乗って中央東大陸に渡った銀河達は、とある村近くまで来ていた。
勇者エリック・ガーリックの実家がある村。
森の中のちっぽけな村は閑静そのもの。
まだまだ朝の光の中、早朝と言うにも朝が早すぎて。
目覚めを待つ村は、誰も起きていなかった。
そんな村へとやって来た魔王様ご一行。
メンバーは驚くほどに王様一行と言うには少ない。
銀河と、レイヤ。
それから引率のローレンスさん。
それだけ。
人間の村にも立ち寄ると言うことで、外見からあからさまに魔物と分かる者は連れていない。
クリュスさんは重要な仕事が山と積み上がっている為、お留守番。
ジャックはすっかり仲良くなった羊鬼のトニィ君とクリュスのお手伝いを買って出た。
それが故、一行はたった3人という少人数で。
引率にして護衛のローレンスは、言わないが結構な重圧を感じていた。
主に、吸血鬼からの。
多分、帰った時に銀河に何かあったら、狼男と吸血鬼の本気の決闘が繰り広げられるだろう。
そんな未来にゾッとするものを感じつつ、そうなったら面白いとレイヤは思った。
「それでは、今回の旅行について最後の確認を行う」
「「はい!」」
狼男がそう言う眼前、魔王と村娘はびしっと気をつけの姿勢で頷いた。
人間と接することがわかっているのだからと、出発前から繰り返された約束の最終確認だ。
「まず一つ、今回の俺達の素性、その設定は?」
「僕が駆け落ちして消息を絶った母親を捜す息子、でしたよね」
「そして私が、銀河の従兄弟でローレンスさんの妹役」
「よし。間違えない様、自己暗示を掛けておけ」
「いや、そこまでしたらいざという時に柔軟な対応ができなくなるんじゃ…」
人里にわざわざやって来た三人。
その目的は、最近噂になっている勇者の身上調査。
そんなもんわざわざ魔王本人がすることじゃなさそうだが、魔王本人が望んだこと。
自分の宿敵となる勇者が、純粋に気になった。
だから、その弱点なり弱味なり探るにも、自分でやってみたいと思ったのだ。
まさかその勇者が、魔王の宿敵としては未だ役不足も否めないなどとは、知らないで。
実際にはいもしない母親を捜すという設定で、村に入り込もうという三人。
一応真面目に母親を捜すふりをするが、そんなものはいないので見つからないのが当然。
ただ見慣れない余所者が彷徨くのに、相応の理由付けがしたかっただけである。
「偽名はしっかり覚えたな?」
「大丈夫です。まず、僕がキサラ」
「私がレミー」
「「そしてローレンスさんがレンズ」」
少年少女二人の声が、ぴたりとそろった。
ローレンスの偽名: レ ン ズ
ちなみに命名クリュスさんだ。
「……………その偽名は、何とかならないのか?」
「でもこれ以上インパクトのある偽名は、ちょっと」
「一発で覚えられたし、間違えようもないわ。私は良いと思うけど」
「うん。そうそう忘れられそうにないよね」
そう言って呑気に生温く微笑む二人の前、狼男が眉間に指を当てて深い溜息をついた。




