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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
おいでませ勇者の村
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0.賞金荒稼ぎコンビの噂


 吸血鬼は思った。

 銀河様のお望みとあれば、それは如何なる願いだろうと即座に叶えられるべしと。

 狼男は思った。

 広い世に出て実際の世界という物を見ておくのは、魔王陛下にとっても良いことだろうと。

 そして魔物の大物二人の間で、即座に決定した。

 即ち、魔王陛下銀河が人間の国々へ赴く、視察旅行。

 銀河はそれをこう呼んだ。

「つまり、社会科見学ですね」

 そんな感じのノリで受け取ったらしい。


 銀河様の赴かれる場所ならば、何処へでも!

 忠実なる吸血鬼は、何処へなりともお供致します!!

 …と、普段であれば言ったのでしょうが。

 常であれば目をきらりん光らせる筈の吸血鬼は、苦悶の表情で悔しがっていた。

 それも、シルクのハンカチ噛んで。

「あーあ…クリュスさんの牙、鋭いのに」

 レイヤが呆れて鼻で笑う。

 ハンカチは哀れ、吸血鬼の牙でずたずたになった。

「この仕事さえなければ、この仕事さえなければ…!」

「その仕事がなければ?」

「そうすれば、私だって銀河様に同行できますのに…!!」

「そんな血の涙まで流して悔しがらないでよ。本当に芸達者よね」

「誰かを喜ばせる為に、私は血の涙を流している訳では…!」

 クリュスさんがそんなに悔しがるところを見たのは、誰もが初めてだった。

 そう、800年という付き合いの長さを持つ、狼男でさえ。

「どんな仕事も瞬殺☆がモットーのお前にしては、仕事が残っているなど珍しいな」

「私だって悔しくてなりませんよ」

「「「それは見れば分かる」」」

「私の無念が、全員に伝わっているようで幸いですよ…!」

 吸血鬼の血の涙が、ぶわっっとその流れる量を増した。

 だばだば流れて、貧血が心配になるレベルだ。

 いや、出血多量のショック死を心配しても良いかもしれない。

 …血の涙で出血多量とは、珍しい死因である。

 しかしながら丈夫で長持ち☆が信条の吸血鬼は、そのくらいじゃ死にゃしない。

 繊細なレースの襟飾りを血で赤黒く染め上げながら、吸血鬼は無念に奥歯を噛み締める。

 ぎりりっといい音がした。

「クリュスさんは有能で、いつも助かっていますけど…本当に、クリュスさんが仕事を終わらせられずにいるのは、初めて見ました。どんな仕事が残ってるって言うんですか?」

「嗚呼…銀河様、無能な私をお許し下さい」

「クリュスさんは有能ですから! だから落ち着いて、何が残ってるのか教えて下さい」

 もしかしたら、皆で手分けすれば仕事を終わらせる事もできるかもでしょう?

 自分もできればクリュスさんと旅行したいから、と。

「銀河様、なんとお優しい…!!」

 銀河の優しい言葉に、クリュスは拝まん勢いで銀河の前に膝をつく。

 このまま新興宗教でも作りそうな勢いだった。


「それで結局、何の仕事が残ってるって?」

「ああ、それですね。実はここ最近、中央東大陸各地の有力者(魔物)達が次々撃破されていまして。倒された同胞の情報を総合すると、どうやら下手人は『勇者』らしいと判明しまして」

 その関連で後処理や関係各所への指示、情報の精査など、仕事が山積みに…

 己の溜まった仕事をそう説明した吸血鬼は、直後、怒濤の質問攻めを受けた。

「超大事な仕事じゃん!!」

「魔王城にとって、勇者関連の仕事って最優先の重要事項じゃないの!?」

「それ以前に、なんで僕がその情報を知らないんですか!? 聞いてませんよ!」

「あ、銀河様には確証取れてからお知らせしようと思って情報止めてました」

「詳しくわかってからって気遣いは嬉しいけど、勇者関連ならすぐ教えてほしかった」

「気が利かず、申し訳ありません…」

 銀河に困り顔を向けられ、吸血鬼はしょんぼりと項垂れた。

 その横で。

 狼男は一人思案顔。

 やがて脳内情報を吟味し終わると、納得したように何度も頷いた。

「ああ、あの件。だが勇者関連? 初耳なんだが、そう結論づけた判断材料を聞いても?」

「そうですね。幾つかありますが…まず、前提として噂による不確実な情報が元だと言うことを伝えておきます。不確実ではありますが、その中から勇者を示す情報が拾えました」

 そう言って、吸血鬼が纏めた根拠はこうだった。


 ☆ 倒された魔物の住処を時系列順に並べると、真っ直ぐ神聖法国を目指していること。

 ☆ 各地の魔物を倒しているのが、圧倒的実力を持つ男女の二人組だったこと。

 ☆ 二人組の内、男の方が自分の剣に話しかけている姿が各地で目撃されていること。

 ☆ 男の持つ剣の装飾が、誰も見たことのない様な意匠であったこと。

    → どうやら勇者の武器に共通の、神代の神意を示す装飾の様だ。


「…と、こんな所でしょうか」

「これだけで、その噂の男とやらを勇者だと判じたのか?」

「これだけなら偶然かとも思いますが、しかし武器が銀朱色を帯びていたと聞きまして」

「銀朱…? では…」

「ええ。銀朱色の金属は、この世で勇者の武器のみに共通する特徴です」

「そうなんですか?」

「銀河様には説明しておりませんでしたね」

 そう言って吸血鬼の説明するところには、どうやら銀朱色の金属は特別らしい。

 元々勇者の武器とは、光の大神が我が身から作り出したと神話にある。

 それだけ特別な武器なので当然、素材も人知を越えていて。

 勇者の武器と同じ金属は、未だ人間の手で扱われたことがないという。

 未発見、及び未開発。

 加工の仕方も一切が不明。

 普通の武器を勇者の武器に見える様、仕立て上げようとした者も過去にはいるが。

 しかしその悉く、企みには失敗した。

 どうしても似せることができず、工夫を凝らしても近づけることのできない。

 勇者として選ばれた者にしか扱えない武器の象徴が、銀朱という色に込められる。

 そんな武器を持っているのだから、噂の人物は勇者なのだろうと。

 魔王城の者達はそう結論づけた。


「じゃ、あの時の勇者さんが…」

「羊鬼達を追いつめた勇者は、男女の二人連れだと聞いています」

「それなら噂の相手は、十中八九それだろうと思ったわけ?」

「そう言うわけです」

「ふーん………本当に、そうなのかしら?」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ~同時刻、中央東大陸の某所~


「この魔物、手配書の額の割には弱かったんじゃない?」

「相手がどうあろうと、銭は銭。適正価格と判断されていようと無かろうと、貰える物は貰っておくだけだ。それより、報奨金の手配元はリシュルダ王国だろう?」

「そうね。手配書には、確かに発行元:リシュルダ王室となっているわ」

「リシュルダは確か、あの国でしか産出しない特殊な鉱石があっただろう。利権もリシュルダ王家が独占していたな。ここ3年は豊作続きで作物の輸出で稼いでいるとも聞く」

「…何が言いたいのかしら?」

「金はあり余っていることだろう。手配金よりも多めにふんだくるぞ」

「アンタって人は…」

「強突張りだと呆れたのか? それとも強欲だと軽蔑したか」

「アンタねぇ…私は職業:盗賊よ? お金の管理にきっちりしてる相手は嫌いじゃないわ」

「なんだ。つまり、惚れ直したのか?」

「………何、言ってるんだか」


 ぷいっとそっぽを向いてしまった嫁に笑い。

 近頃、中央東大陸の各所で手配されている魔物を次々と蹴り倒しながら。

 かつて勇者と呼ばれた男は、神聖法国を目指していた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 銀河達は勇者の動向を気にし、羊鬼の村を潰した原因を思い出し。

 あの少年が魔物達を次々倒しているのかと、思案を巡らせる。


 魔王城の者達は「噂の賞金荒稼ぎコンビ」がエリックかと思いこんでいるのだが。

 その正体は…


 勇者は勇者でも、花鳥兄さん(勇者違い)だった。

 




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