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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
旅立ちの準備
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羊鬼の半分は羊でできております




 狼男なのに兎耳のローレンスさん。

 彼の急な来訪に、可愛すぎるロップイヤー。

 本体が目つきの悪いワイルド系なだけに、意外性が在りすぎる。

 すっかりそっちの気を取られていた銀河は、うっかり訪問の本題を聞き忘れていた。


 好奇心旺盛な子供達で取り囲み、きらきらの瞳でローレンスを見上げる。

 寛大なローレンスが拒絶しないのを良いことに、御子様達はローレンスに集(たか)っていた。

 目的は、ズバリ耳。

 無言の瞳が訴える。

 さわらせて、さわらせて! もふもふしたい、もふもふしたい!…と。

 子供達の瞳は、夢と希望と欲望にまみれていた。

 そしてローレンスは、拒みはしなかった。

 無邪気な子供に取り囲まれる経験が、今までに無かったということもある。

 対応に首を傾げながら、垂れる耳を存分に触らせる。

 ちょっとだけ、手垢が気になると思いながら。

 …抵抗しろ、狼男。

 

「そう言えば、うさ耳狼さんのご用はなぁに?」

 さっきのお手紙ご用はなぁに? のノリで軽い一言。

 思う存分、欲望のままに耳を触り倒した後で、良い笑顔のレイヤ。

 ふと口から出た言葉に、周囲の時が止まった。

 そう言えば、なんだっけ? みんな忘れていたね? と。

 笑顔のまま微笑ましそうに銀河達を見守っていたクリュスさん。

 彼はすっかりローレンスの本題を忘れていたことを思い出し、窓から逃走しようとした。

 ローレンスが弄ばれるのを、止めなかった。

 ローレンスにも用事があって登城したことを、銀河に進言しなかった。

 そのことに気まずさを感じて、遠いお空に逃げようとしたのだ。

 しかし彼の逃走は阻まれた。

 他ならぬ、ローレンスの手によって。


「はぅ…!?」

 びたんっ


 壁に叩きつけられた蛙の様に、クリュスが床に張り付いた。

 いつの間にか、その足には逃亡阻止を目的とした荒縄。

 繋がれた先は、ローレンスの腕。

 純粋な腕力勝負なら、狼男のローレンスに勝てる者は少ない。

 逃げようとしたクリュスの行動は、どうやら見抜かれていたらしい。

 無表情のままに、ローレンスがじっとクリュスを見つめる。

 無言に込められた意思は、抗議。

 クリュスは逃げられなかった空へと視線を這わせた。


 一連の遣り取りに唖然としたのは、ローレンスの耳を弄んでいた子供達だった。

 彼等は思いがけない光景に、思わずじりじりと後退る。

 身体が咄嗟に、ローレンスとの距離を取った。

 彼等が妖怪と信じて疑わず、異常生物と認識していた、吸血鬼。

 その行動を手の上で転がし、やりこめるのは、狼男。

 存在するとは思いもしなかった、吸血鬼の上手を取るイキモノが、目の前にいる。

 魔物(ひと)は見かけによらない。

 一見まともそうな狼男も、大変な曲者に違いない。

 その認識が、銀河達の心に塗り込められた。

 まさか吸血鬼と狼男が単純に昔なじみで、互いの行動を熟知しているだけとは思わない。

 魔王と村娘と従者の三人に、ローレンスは侮れない魔物と刷り込まれた。

 ローレンスも敢えて訂正しない。


 すっかりローレンスへの認識が改められて。

 気安く耳をさわらせてーと集っていた子供達が場所を弁えた位置に戻る。

 銀河は玉座へ、レイヤとジャックは部屋の端へ。

 それでも互いに声が聞こえる距離を保っているのは、やはり互いに気安い関係だから。

 まるで仕切り直す様に、その場所には「やり直そっか?」という暗黙の声が交わされていた。


「それで、始めましてだよね、ローレンスさん」

 どのような用件で来たんですか、と銀河が首を傾げる。

 対して、狼男は一つ頷いて口上を述べる。

「本日は拝謁賜り…」

「それは、もう良いから。今更だし、仰々しいの苦手だし」

「…では、簡潔に。今日は二つの用件で参りました」

「二つの用件?」

「はい。一つは羊鬼についてです。魔王様におかれましては、彼等の新しい集落を作る場所を探す様、魔物に命を下されたこと、覚えておいでか」

「はい! 確かに、僕が皆さんにお願いしました」

 狼が羊の用事で来たとな。

 思いもしなかった用件だが、羊鬼の集落検討地を求めたのは本当だ。

 行き場を失ったか弱い彼等の為にも、早く新しい生活の基盤を作ってやりたい。

 真実そう思っていた銀河は、嬉しい知らせに顔を綻ばせた。

「その最適と思われる候補地を幾つか絞り込むことができましたので、今日はそのご報告に」

「うわぁ! わざわざありがとうございます!」

 素直に喜んで、そしてはたと気付く。

「でも、どうしてローレンスさんが?」

 先程受けた紹介では、ローレンスは狼男の代表で。

 魔王から与えられた役職も、防衛の重要な拠点たる、とある砦の守護だという。

 そんな彼が、何故に羊鬼に関する報告に?

 銀河の疑問を当然のものとして、逃亡を阻止された吸血鬼が解説を入れた。

「銀河様、申しておりませんでしたが、ローレンスは人狼の代表であると同時に、獣系魔物の代表でもあるのですよ。其方の方は副次的な役職で、格魔物の長達をまとめているだけだと、ローレンスは言うのですが…今回は、其方の関係で参ったのです」

「羊鬼関係の用だから、トニィ君が接待してたんだね。でも、羊鬼って獣系なの?」

 獣と言えば獣だが、羊鬼は鬼の一種だと聞いていた銀河。

 結局、獣なのか鬼なのか。

 見た目敵には鬼よりも羊成分の方が強そうだけど、実際はどうなんだろう。 

 その疑問に答えたのは、今度は狼男の解説だった。

「羊鬼は、獣系と鬼系の調度中間に当たる。分類は鬼に分けられているが、実際には半々の真ん中。問題が起きた時は鬼系、獣系それぞれの纏め役で責任を持つことになっている」

「へぇ、そうなんですか。それでローレンスさんが…鬼系の方は、来ないんですか?」

「羊鬼の生活形態は、どちらかと言えば鬼系よりも獣系に属する部分が強い。集落を作る環境も、鬼共が検討するより、獣系の魔物が探す方が適している」

「あ。それじゃ羊鬼達の集落探し、獣系の皆さんが主流になってやってくれたんですね!」

「そうだ。だから、俺が報告に来た」

 淡々と話すローレンスの口調が、徐々にぶっきらぼうになっていく。

 どうやら彼は敬語があまり得意ではないらしい。

 苦笑を噛み殺しながら、クリュスはローレンスを諫めるべきか考えた。

 考えるだけ考えたが、止めた。

 咎められないのを良いことに自分の話したい様に話すローレンス。

 それを疑問を感じることなく、咎めもしない銀河。

 咎めるまでもないなと、寛大な魔王と図々しい狼男のやりとりに、心中で爆笑していた。

 

 

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