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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
羊鬼の村
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9.勇者の功績




 ――一方銀河は、実はまだすぐそこにいた。

 消えたように見えたのは、元いた隠し通路に飛び込んだからだ。

「メリィちゃん、大丈夫!?」

「ブメエェェッ」

 薄い通路のすぐ向こうで、銀河はメリィちゃんを抱えて走り始める。

 この道には炎が届いていなかったが、それでも危険だった。

「魔王様、顔は見られませんでした?」

 メリィちゃんが尋ねかける。

「大丈夫だと思うよ。いざという時のために仮面も被ってたし」

「いつの間に…!?」

 銀河の顔には、大きな仮面(ドミノマスク)。

 その仮面はイタリアのお祭りで見られる派手な仮面に似ていた。

「急いで皆と合流しよう。人質は解放して、真夜城に帰ろう」

「はい。お伴します!」

 こうして魔王と羊鬼達は、真夜城のある西の大陸へと去った。

 羊鬼達には、後に改めて新しい村が与えられたという。



 炎燃えさかる館の前で、脱出したばかりのエリックがへたり込んでいる。

「……………」

 呆然と、彼は身じろぎもできずに館の炎を見ていた。

 彼に新たなトラウマと、不思議な出会いをもたらした館を。

「………?」

 他に何も目に入らない感覚のまま、呆然としていたエリックの耳に微かな声が聞こえる。

 それは、子供の泣き声に聞こえた。

「…泣き声?」

 どこから聞こえるんだろう。

 エリックは、きょろりと周囲を見回した。

 いつから其処にいたのか。

 炎に怯え、崩れる瓦礫に怯え。

 小さな腕で顔を拭いながら、大粒の涙を流す男の子。

 小さな幼子が、エリックのすぐ側で泣いていた。

「え?」

 本当に、いつから其処にいたのか。

 エリックには、全然分からなかった。

 それも仕方のないこと。

 エリックが呆然としている間に、煙に紛れて姿を隠したサルメがわざわざ運んだのだから。

 そう、あたかもエリックが燃えさかる館から救出したかの様に見える様。

 直ぐにでもエリックが保護できる様、そのすぐ側に。

 羊鬼達の人質になっていたジョニー君は、周囲のいきなりな変化について行けず…

 どうして今、館が燃えているのか。

 自分はどうして、泣いているのか。

 それすらも分からないまま、驚いた衝撃で涙が止まらない。

 もう何も分からないままで、とにかく誰か、すがれる相手に泣きつきたかった。


 人質になっていた領主の息子、ジョニー君のことを思い出したエリック。 

 目の前の幼子がそうだと、その用紙の特徴と服装で判断する。

 泣きじゃくる小さな子を保護しなければならないという気持ちは、元からある。

 それに加えて、相手が魔物に囚われて恐い思いをしていたに違いないという感情。

 エリックは慌ててジョニー君を保護しようと、その両腕を差し出した。

 差し伸べられた腕に、縋るものを求めていたジョニー君はしがみつく。

 腰が抜けたへたり込んだままのエリックと、泣きやまないジョニー君。

 二人は混乱収まり平静を取り戻した騎士達に発見されるまで、ずっとそのままだった。


 エリックは人質となっていた領主子息を救助、保護したことになった。

 本当のところはどうなのか。

 混乱していた面々(エリック含む)には分からない。

 ただ、状況から判断した結果、ジョニー君を救ったのはエリックだということになった。

 エリックに憤慨していた騎士達も、それぞれエリックを見直したと友好的に声を掛ける。

 

 本当に自分が助けたのか。

 エリック自身、分からないまま。

 トトヨ国の貴族達から称賛され、騎士達に見直されて。

 少年は勇者として、局地的にだが功績を認められることとなる。

 新月の勇者エリック。

 これが彼の、勇者としての実績の第一歩だった。




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