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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
羊鬼の村
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7.エリックの災難 ~タライ祭り開催中~

エリックの本領(笑)。




 羊鬼の罠は上手に避ければ避けるだけ、裏を掻いた罠が連鎖で発動する。

 表面的な罠はとても簡単。大したこともない威力と仕掛け。

 それを避けると、洒落にならない罠が発動する様になっていた。

 逆に言えば、命が惜しければ罠を最初から避けなければ良い。

 避けさえしなければ大したことのない罠しか発動しないということで。

 エリックはそんなこと、微塵も知らなかった。

 だけど彼には罠を避ける技術も勘もなく、真っ正面から引っかかる。

 まさかそれが、逆に自分の命を守ることになっていたとは、夢にも思うまい。

 そして、こんな現実くそったれと、エリックは知ったら叫んでいただろう。

 あまりにも悲惨な、そのトラップ引っかかり振り故に。


 まるで狙ったように、彼はバコバコと軽く、ジョークの様な罠に嵌りまくっている。

 タライとか、タライとか、タライとか。そしてタライとか。

 三歩歩けばタライが降り注ぎ、四歩歩けばタライに当たる。

 まるで此処はタライの園だ。

 晴れ時々、タライ。雨よりも豚よりも、まずタライが降る。

 エリックの意識が朦朧とし始めたのは、三十六度目のタライを頭で受け止めた頃だった。

 もはや動きの鈍った体では、疲れ切ったその体力では、タライを避けることすらできない。

 彼の歩いた後を見てごらん。

 まるで足跡の様に点々とタライが………。

 大小様々なタライは、まるでタライの見本市、展示会。

 今ならただでタライが手に入ります。

 しかしエリックは、もうタライのタの字も見たくなかった。

 そろそろ彼は、前のめりに大の字で倒れ込みそうです。

 そんなエリックの様子を、まるで見計らったように違う罠が襲った。

 狙ったように、飽きたらこちらもどうぞと言わんばかりに。

 べしゃっと一発、メレンゲパイ。

 もはや限界に来ていたエリック。特に頭。

 彼はメレンゲパイの勢いに押されて、後ろに倒れ込んだ。

 そしてまた後頭部をしたたかに打ち付けた。

 今日の彼の災難ポイント、あたま。特に後頭部。

 とどめのごとき衝撃で、とうとう血が流れた。

 だけどそれすら、この場ではコントにしか見えない。

 倒れ込んだ彼を狙って、四方八方から色々な物が飛んできた。

 メレンゲパイとかメレンゲパイとか、メレンゲパイとか、メレンゲパイとか。

 ………ミートパイとか?

 気のせいだろうか、何か一つ、違う物が混ざっている。

 どうやらそれは気のせいではなかった。

 罠はお約束のメレンゲパイから、ちょっと珍しいミートパイへと切り替わった。

 何とか這い上がり、足を引きずるように前へ進もうとするエリック。

 だけど彼には、全方向から大量のミートパイが飛んでくる。

 一体、誰がこんなに大量のミートパイを焼いたのだろうか。

 それはきっと羊鬼に違いないのだろうが、ハッキリ言って食べ物の無駄だ。

 ぶんぶんぶんぶん飛んでくるミートパイは、もはや嵐と言っても良い。

 狙いを定め、エリックに襲いかかる。

 この命中精度は、もはや芸術と言っても良い。

 一歩歩けば、べしゃっ。

 頭上からパイが降ってきた。

 二歩目を踏み出せば、べしゃっっ。

 前方から顔面に、ミートパイが命中だ☆

 もはや気にする余裕もない。暇もない。

 されるがままに顔面でミートパイを受け止めながら、エリックは自分が何か悪いことをしただろうかと考えていた。きっと身に覚えはないだけで、色々悪いことはしている。

 ミートパイ大行進。

 それはもう、滑稽すぎて一人パレードと言っても良い。

 べしゃべしゃべしゃべしゃ。

 ぶつかり、潰れ、体がミートパイに包まれていく。

 もうエリックがミートパイなのか、ミートパイがエリックなのか解らない。

 それほどエリックは、ミートパイまみれだった。

 レシピ風に表現するなら、ラストにこう書くべきだろうか。

 --トパイ人間のできあがり☆

 今日からもう、ミートパイは食べられない。

 エリックはそう思った。

 こうしてまた、傷つきやすい少年の心(がらすのはぁと)にトラウマが刻まれていくのである。

 一体いくつ、その胸にトラウマを刻み込めば気がすむのか。

 それはエリック自身には解りようがない。

 この後もエリックには、色々あった。

 それはもう、いろいろあった。

 悲しいくらいに、いろいろ。

 地面一面に仕掛けられていた鳥もちに、まるでゴキブリほいほいのゴキのように囚われ取り込まれ、何十分も藻掻く羽目になったりとか。地面や天井や、両側の壁から一斉に生えてきた槍に、黒髭もビックリする程串刺しにされかけたり、とか。

 幸か不幸か、やっぱり不幸な事だが、エリックは辛い仕打ちに慣れていた。

 エリックは、その驚異的な忍耐力で前に進む。タフだ。

 でも本音を言うのなら、引き返すのが怖かった。

 彼は今、自分が試されているのを感じていた。

 今ここで使命を諦めるのか、人生の下らない負け犬に成り下がるのか。

 そう自分を叱咤し、励ましていた。

 ハッキリ言ってしまえば考え過ぎとしか言い様がないが、彼はここで自分の勇者としての生命、または資質が賭けられていると自分に言い聞かせる。やっぱり考えすぎだ。

 此処で諦めてしまえば良いと思うのだが、むしろ諦めた方が良いと思うのだが、それでもエリックは頑張って前進する。

 いま彼の根性と忍耐力と、それからしぶとさが養成されていた。

 この責め苦が全て終わったとき…というか、愚かなエリックが諦めることなく前進し続けたとき、彼はきっと立派な一人物になれている…と、思う。きっと、誰もが認める人物に。

 それは我慢大会のタイトル保持者としてだろうけど。



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