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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
羊鬼の村
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4.騎士団長はアフロになった




 じりじりと熱い太陽の下、田舎ながらも堅固な作りをした領主館の前。

 焼けた鉄の甲冑を着込んだ兵達が、怒りと苛つき、憎しみの目で館を睨み付けている。

 敵はその外見を裏切って、何とも手強い一面を目前で展開してくれた。

 たかが羊モドキ、簡単に潰せると誰もが思っていた。

 だのに羊鬼達は、驚愕に値する高速回転の頭脳戦を展開してくれたのだ。

 今だって魔物達は切り札に値する人質を手に閉じこもっている。

 更に兵達にとって災難だったのは、人質となったご子息の血筋だろう。

 ジョニー君は、母親から傍系とはいえ王族の血筋を引き、末端ながら王位継承権を持つ。

 つまり、やんごとなき御身分なのだ。

 もしも人質に危害が加えられたりしたら…人質が怪我でもしようものならどうなるか。

 兵達は知っていた。そうなれば上級貴族の命により、兵達皆の首が飛ぶのだ。

 迂闊には手を出すこともできず、睨めっこは続いている。


 この睨めっこの発端である少年は、それでも簡単に考えている。

 元々彼は外国人で、何かがあったとしても首が飛ぶのは彼ではない。

 つまり、これは他人事なのだ。

 それなのにこの少年は、無責任にこの状況をすぐ打開できると思っている。

 館に乗り込み、速く殲滅すればいいと言っていたことを、皆は苦々しく思う。

 誰か彼奴に社会の厳しさを教え込んでやれという台詞が、最近の騎士達の定番と化す程に。

 少年が騎士団長に呼び出されたのは、そんな時だった。

 青い顔で、怖いおじさんの天幕へ入っていくエリック。

「君は確か、旅行者だったな」

「えと、はい、そうです」

「では言うが、これ以上この問題に首を突っ込むのは止めたまえ」

「え?」

「もう良いから、本来の生活に戻りなさい」

 それは半ば親心のような親切からの言葉だった。

 できることなら一般人に、このような危険と関わらせるのは嫌だった。

 そして一番強い理由として、邪魔だということもある。

 だがエリックは、そんな団長の親心など理解もしない。

「そんな訳にはいきません! 俺、お手伝いします。是非魔物退治に協力させてください!」

 一片の曇りもない、輝く瞳でそういうのだから質が悪い。

 騎士団長は深い溜息をつくと、一言告げた。

「邪魔だ。むしろ目障りだ。更に言ってしまえば役に立たない」

 痛恨の一撃! エリックは心に300のダメージを受けた。

「正直に言ってしまおう。実は状況を全く理解せずに無責任なことを口にする君に対して、私の部下達が憤慨している。此処に長居していると、高確率で私刑(リンチ)を受ける羽目になるぞ」

 騎士団長は、本当に正直にエリックを懇々と説教した。

 その言葉を聞いている内に、次第に己が置かれている現状を理解し始めたらしい。

 エリックの顔が蝋人形の様になっていく。

「それって、かなりヤバイ?」

 やがて口を開いたエリックの第一声は、これである。

「ああ、かなり危険だ。だから君は、本来の日常に戻りたまえ」

「――否、放っとけない。だって俺は、勇者だから! 勇者だから、魔物に苦しめられてる人を見棄てるなんてできないんだ!」

「エリック君、君はいても邪魔なんだ」

「でもっ」

「だいたい、私は勇者を自称するのはどうかと思うぞ。憧れる気持は解るが、もしも咎められたらどんな罰を受けることか…」

「え、自称って………俺は本当に、勇者なんだけど!」

「勇者とは、伝説の武器に選ばれた人間のことだ。エリック君」

「だから、俺も選ばれたんだってば!」

 どうしても信じてくれない。そんな悲しさに肩が震える。

「そうだ、俺が信じられないんなら、これを見てくれ!」

 そう言ってエリックは、己が携えていた剣を差し出す。

「よく見てくれよ、ほら、どう見ても本物でしょ? この剣を持ち歩けるのは、俺のように選ばれた人間だけですよ!」

 さり気なくエリックは、自分が特別であることを強調した。

「……私には剣の真贋など付けられん。そもそもこの剣は、確かに立派だが…別にその辺で売ってないこともないのでは?」

 小国の騎士団長は、曇った目を持っていたらしい。

 彼が剣に対して評価を下したのと同時に、エリックの脳裏には激しい声が響いていた。

 それは【月喰らう剣】が怒りに震わせる声だった。

『--おのれ、我をそこらの普通の剣と一緒にするとは!』

 そして、団長も剣の凶悪な必殺技を食らう羽目になるのである。

 中年の騎士が餌食となる光景を見て、思わず同情するエリック。

 電撃が止んだ時、団長の頭はアフロになっていた。


「…エリック君、君が本物であることはよく解った」

 蹌踉めきながらも立ち上がろうとする騎士団長。

 しかし体が麻痺していて、立ち上がることができない。

「だが、それなら尚更此処にいる場合ではないのではないか? 新たな勇者が現れたという噂は、まだ聞いていない。もしや君は、まだ神聖法国に行っていないのではないかね」

「え…と、確かに行っていませんけど」

 エリックは、団長(タフな男)が何を言いたいのか解らない。

 戸惑いながら、慎重に問いかける。

「もしかして、行かなきゃいけない理由が?」

「君は知らないのかね! 神聖法国の巫女姫と、伝説の武器との関係も知らないのか?」

「関係って、巫女姫様と?」

 エリックは、本気で何も知らなかった。

「これはいけない。エリック君、君は何も知らなすぎる」

 そして騎士団長は、何かを告げようとしたのだが…

「大変だあぁぁぁぁぁ………っ」

 遠くから、切羽詰まった声が聞こえた。

 運の悪いエリックにとって、良いところで邪魔が入るのは当然のことだった。

 いつもここぞと言うところで何かしらの妨害が入り、その結果遠回りをする羽目になる。

 そして当の本人にその自覚がないことは、ある意味で幸いといえるかもしれない。

 それでも騎士団長は、あえてこの会話を進めようとする。

「良いか、エリック君。よく聞くんだ…!」

「ぎゃああぁぁぁあぁぁぁっ!!」

 天幕のすぐ外から、無視することなどできなさそうな、凄絶な悲鳴が上がる。

 続いて凄まじい破壊音が響く。

 騎士団長はとうとう放っておくこともできず、天幕から身を乗り出して声を張り上げた。

「何事だぁー…って、うわぁぁぁああぁあぁぁ!」

 今度は、騎士団長が悲鳴を上げる。

 どうやら彼程の男でさえ悲鳴を上げる、何かが起こったらしい。

 つられて外に出たエリックもまた、絹を引き裂いた様な悲鳴を上げるのであった。





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