1.エリックの災難 ~羊鬼の村編~
銀河がトトヨ国へと向かう決意をする三週間前のこと。
打倒魔王を目指して旅立った少年エリックは、路頭に迷い掛けていた。
いつしか森の中の道を踏み外し、連れの少女と共にフラフラ谷底を彷徨い歩く。
そうして気付かぬ内に、人間が誰も今まで足を踏み入れた事のない領域まで来ていた。
両足はガクガクで、額からは止め処なく汗が流れる。
いつ倒れてもおかしくない身体で、それでも一歩一歩と前に進む。
エリックよりも旅慣れているシャロンは、何故かエリックよりも彷徨うのに慣れていた。
道に迷うのも、悪路もヘッチャラな様子で、足取り軽くエリックを先導する。
そうして更に道を踏み外していくのだが、二人は生憎、そのことに気付かなかった。
シャロンは方向音痴だった…。
だけどそれでも、歩いていれば何れ、何処かには辿り着くもので。
明るく輝く表情で、シャロンが一点を指差し、エリックを促す。
「うわぁ! エリックさん、ほら、村ですよ!」
「本当だ。こんな所でも人なんて住んでんだな」
エリックは疲れていた。
実は隣国への国境越え(密入国)をした直後で、彼はお尋ね者になりかけている。
それでもエリックは、その村へ入る決心をした。
もしかしたら、こんな人里離れた村なら捕まることもないかもしれない…
そんな、甘く、夢見がちな希望を抱きながら。
だけどやっぱり現実は甘くなんてなくて…
村に踏み込んで早々、未熟な勇者一行を更なる災難が襲う。
ずざざざざっと砂煙を上げて結集する、小さな影。
あっと言う間に二人を取り囲んだ、もこもこの集団。
エリックが何か反応する前に、少年の額にスリングショットを決めていた。
カーンッと、何故か金属質の音が高らかに響き…
エリックは、抵抗する前に意識を刈り取られていた。
二人は、群がる羊鬼に縛り上げられ、荷物没収の上で納屋に放り込まれたのだった。
何故こうも、災難にばかり見舞われるんだろう。
納屋の明かり取りから見える星を眺めつつ、エリックは考えていた。
もはや、涙も出ない。
「思えば災難は、あいつに会ったことから始まっている気がする…。それは俺の気のせいか? 気のせいなのか?」
膝を抱えてぶつぶつと呟き続けるエリックを、シャロンは気の毒そうな目で見ていた。
色々な意味で気の毒そうな視線だった。
そして何を決心したのか、少年はシャロンの方へ振り返った。
「シャロン、シャロンは神官なんだよな!」
「はい、そうですよ」
「じゃあさ、自由になったら一番にお願いしたいことがあるんだ! 俺の剣を憑き物落としして呪いを解いて、更に呪い返ししてから浄化してくれ!」
必死の形相で、勇者は宣った。
「いいですよ~」
不思議そうな顔ではあったが、それでも笑顔でシャロンは請け負う。
だけどその次に言った言葉が、妙に現実的だった。
「でも、自由になんてなれるんでしょうか?」
「うっ」
「なれたとしても、荷物って戻ってくるんでしょうかー?」
「うぅっ!」
次々と出てくる疑問に、打ちのめされるエリック。
突っ伏して、エリックは現実という辛い波に耐えるのだった。




