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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
間話・先代魔王を倒した勇者達
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吸血鬼クリュスの十年前語り ~目撃証言☆その勇者は鬼だった~

今回は大部分がクリュスさんの語りで進みます。

彼の目から見た、先代勇者…特に酷い方に対する心象が主な内容です。


 

 それは朝から鬱陶しい弱酸性の雨が降り注ぎ、退屈な午後のこと。

 お茶会の席で給仕に精を出していたジャックに、魔王が椅子を勧める。

 すると村娘がお菓子をとりわけ、吸血鬼がねぎらいのお茶を出す。

 可愛がられている小姓の少年は、休憩の許しを得てお茶の席に加わって。

 まったりとした空気の中で、吸血鬼に一つお願いをした。


「クリュス様、クリュス様はもうずっと前から魔王様の城におられるんですよね」

「ええ、その通りです。ここ500年ばかりは、ずっとこの大陸住まいですから」

「それなら、10年前の先代勇者様方のこともご存知なんですか?」


 先代勇者…10年前、この世界を闇で覆わんとした先代魔王を退治した、二人の勇者。

 勇者を崇めて子供を育てる村の出身らしく、小姓の少年は勇者に憧れていた。

 特に一番身近で伝説的な存在として、10年前の先代勇者たる二人を。


「おやおや。ジャックは勇者などに興味があるんですか」

「ぁ…いけませんでしたか? そうですよね、此処、魔王城ですし…」

「駄目とは言っていませんが…」

 

 困った様にちらっと魔王の方へ、吸血鬼と小姓の二人が視線を送る。

 どうやら二人が気を遣い、慮っているのは同一の存在の様だ。

 その目線に気付いた銀河は、にっこりと優雅に微笑む。


「僕なら、特に気にしませんよ。むしろ僕も聞いてみたいです。特にこの城でどのような振る舞いだったか、侵入経路は何処だったのか、等々…。今後、僕にも勇者と対峙する機会は来るでしょうし、傾向と対策を練る参考までに、是非。何かあれば、今後に生かせますし…ね」

「魔王様がそのおつもりであれば、話すのは吝かではありませんが」

「それでは、僕からもお願いします。僕達に是非、勇者のことを教えて下さい」

「かなり面白そうよね。私も聞きたいわ、クリュスさん」

「そうですか…。私は勇者とは短時間しか向き合うことができませんでしたが、諸事情あって勇者と先代魔王様の最終決戦を見ることができました。その話でも構いませんか?」

「はい。十分です」

「「有難う御座います!!」」


 そうして吸血鬼は語り始めた。

 仕草に振る舞い、その全て。

 どれを取っても歴代の勇者と比べ、異質としか言い様のなかった異色の勇者のことを…



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 10年前、当時の魔王様は解りやすく言うと、銀河様とは正反対の御方でした。

 そのお体は筋骨隆々として、岩山の様な大きさと存在感が圧巻です。

 御心の方も銀河様とは大きく違い、歴代の分かりやすい魔王様方と同列にありました。

 即ち、世界征服。

 より細かく言うのであれば、この世界で我等の住まう闇の領域と正反対にある…

 光の大神の魂が眠る島、レーガを打ち砕き、完全に葬り去ること。

 そうすることで我等魔物の祖であり、主である闇の大神の復活を志しておられたのです。


 え? 闇の大神と魔王は、どんな関係か…ですか?

 銀河様はご存知ありませんでしたか?


 そうですね、簡単にご説明しますと、闇の大神と魔王は親子の様なものです。

 遙か昔、光と闇の大神が相争い、両者共倒れでノックアウトとなりました。

 その倒れ臥した肉体を大地に生命は栄え、今の世界となっているのですが…

 光と闇の大神は殴り合いの中、走狗としてそれぞれ配下を生み出しました。

 光は使徒として元から従えていた使徒に、特別に闇を切り裂く力を持った武器を与え、

 闇は己の一部から生命を生み出し、闇の軍勢の王に立てて組織力、結束力を強化しました。

 光の大神が使徒に与えた武器…光の大神の欠片から生み出された武器は今も残っています。

 ええ。そうです。

 自ら己の主を一度だけ選び、魔王を倒す唯一…勇者の武器のことです。

 そして闇の大神が生み出した王こそ、魔王。

 歴代の魔王様方は、その力を、魂を継承して生まれ出でるのだといわれています。

 

 つまり、魔王様と勇者は、神話の時代から因縁を持ち越した宿敵だと言うことですね。


 え? 爽やかな笑顔で言われても困る?

 大丈夫です、銀河様。

 歴々の魔王様方は確かに、勇者によって殺されてしまいました。

 ですが我等も、むざむざ魔王様を殺させなど、致しません。

 全身全霊、全力を以てお守りします。


 ん? なんですか、レイヤ様?

 …え? 10年前も先代魔王様を守っていたんじゃないのか…ですか?

 当然、守っていましたよ。

 私も魔王城108の中ボスの一人として、勇者一行をお相手しました。

 その結果は言うまでもありませんが…ええ、不甲斐なくも負けてしまいました。


 言い訳になるかも知れませんが、敢えて言わせて頂きます。

 あの勇者達は、本当に規格外が過ぎたんです………。

 あんなの…倒せる訳がないですよ…。

 私だって幾度も魔王様と勇者の戦いを見て参りました。

 ですが、あんな、あんな…

 あんな化け物、私達にどうしろっていうんですか…


 はい? 私がそう言うとは、余程ですねって…

 ああ、銀河様! そんな深刻で愁いに満ちたお顔も輝かしいばかりですが、

 銀河様の御心痛、この身が原因で憂いを感じさせてしまうなんて…!

 申し訳御座いません、銀河様!

 ですが顔を上げて、安心なさって下さい。

 あんな人の皮を被った鬼神は、そうそう滅多に現れるものじゃありません!

 現に歴代勇者でも、あんなのは10年前の勇者だけでした。

 今回もそうだとは限りませんが…ええ、あんなのが現れる確率は、とても低いと思います。

 

 なんとなくですが、私の第六感がそう言ってるんですよねー…

 と、いいますか、何だか今代の勇者はチョロそうと言うか…容易い気がします。

 何の根拠もない、ただの直感ですが。

 でも、当たるんですよ? 私の予感。

 

 っていうか、あんな化け物がそうごろごろしてたら堪りませんよ。

 もう、人間じゃないですね。あの存在感と力量は。

 108の中ボスも、私以外に五体満足で残った者は殆ど…

 いえ、言い方を変えましょう。

 108の内、105は容赦なくスッパリ殺られました。

 躊躇も何も、あったものじゃありませんでしたよ…


「…俺は目前に立ち塞がる愚か者は、悉く冥府送りにする主義だ」

 

 血に飢えていたんじゃないですかねー、あの勇者…

 そんな感じの内容を、酷薄で冷ややかな笑みと共に吐いていました。

 誰がって?

 二人の勇者の片方がですよ。氷雪の勇者と異名を取る方です。

 まるで狼の様な、どっちが悪役か分からない冷酷振りでしたね。

 

 宣言通り、立ち塞がる魔物を斬っては捨て、蹴っては潰し。

 その上、高値が付きそうな魔物の素体は欠かさず回収していましたし。

 まるで追い剥ぎでした。

 仲間も使って、金目の物は全部奪っていきましたよ。

 血も涙もない、鬼の様な荒武者振りでした。

 108の中ボスは稀少な魔物も多く…牙、角、爪、眼球に毛皮等々、容赦なく。

 …墓を作る時、遺族の嘆きは凄まじかったですねー


 ん? それでなんで、私が生きているのかって…ジャック君も無邪気な顔で言いますねー。

 そこは気になさらずとも大丈夫ですよ?

 …別に、情けをかけられた訳じゃありません。

 ただ、私に関しては…


「吸血鬼? そんなモノ、放っておけ。消しても灰になるだけで、大して金にならん」


 …氷雪の勇者にそんな風に言われて、結構屈辱でした。

 そんなことない、私だって…! と言いかけて、アレ、何言おうとしてるんだ、私って。

 殆どスルーに近い扱いを受けて、私もどうしたらいいのか、戸惑いましたよ。

 

 それでもきちんと勇者一向に挑んだんですよ?

 …顔面に氷雪の勇者に蹴り入れられて、吹っ飛んでしまいましたが。

 しかも此方が顔面抑えて悶えていたら、谷底に向けて、窓からぽいって…

 …ぽいって、捨てられてしまって。

 空を飛んで一命は取り留めましたが、何故か全能力低下していて、手間取りました。

 あの勇者、本当に何をやったんでしょうね?

 今でも私のステータス異常が何によるモノか、私には分からないんですよ…

 次に向けて、がっちり対策を練るのに余念はないんですけどね。


 ただ、原因が分からないので、対策が難しいだけです。

 次はああまで簡単にやられることはないと、銀河様に誓います。

 この命、銀河様に捧げたモノですから。

 命がけの全力で、銀河様を勇者からお守りすると、全ての魔物は誓うでしょう。

 現時点でも、既にこの大陸に住まう魔物からは血判状を回収済みですからね。

 生半可な覚悟と実力で来ようものなら、リンチで微塵のずたずたにしてやりましょう。

 だからその分、安心して下さいね…魔王様。



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 穏やかなお茶の時間。

 吸血鬼によって始まった昔語り(十年前)。

 それはまだ、魔王と勇者の戦いに至る前段階までの話であったが…

 その時点で既に、話を聞き入る子供達は吸血鬼の語りに引きこまれていて。

 

 話をよくよく聞けば引っかかりを覚えたはずの銀河でさえ…

 昔話に滲む先代勇者の痕跡には気付かず。

 ただ内心で

「世の中には似た人が三人いるって言うけど…なんだか、兄さんみたいな勇者さんだなぁ」 

 …なんて、苦笑気味に思うだけだった。



 そして遠い地にいる、エリックは知らない。

 己の瞬殺フラグが、めきめきと魔王の城で乱立していること。

 そもそも、現在のエリックの力量では、魔王の居る大陸にすら到達できない。

 そんな彼が魔王のいる大陸でどんな恐怖体験をするのか…

 黒髭危機一髪的な運命が待ち受ける未来に、エリックは時折悪寒を感じるのみであった。


 そんなエリックが、吸血鬼をして鬼と言わしめた人物と出会うのは…

 今は未だ、当分先のことであった。

 




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