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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
間話・先代魔王を倒した勇者達
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禁じられた魔術の本 (略して魔本)

今回、銀河達は出ません。


所変わった場所で、銀河の家族の登場です。


 バタバタと、騒がしい足音が家の中で響く。

 足音を立てているのは四人。美貌の兄妹と、その伴侶達。

 何れも綺麗な顔をした、二十代の若者達だ。


 彼等は両親から受け継いだ広い家の中で途方に暮れる。

 家の居間で、顔を青ざめさせた青年達が何事か話し合っている。

 焦った顔で家中を駆け回り、扉という扉を開けて回る二人の女。

 この家の表札には『如月』と記されていた。


 今よりも少し前のこと、世界には勇者がいた。

 この世界ではない別の世界、本の中にある世界(・・・・・・・・)でのことだ。

 一人の巫女姫が祝福を授け、二人の勇者が魔王を倒す。

 それはただの物語ではなく、実際に起こったことだった。

 四人はそのことを知っている。

 誰に教わったわけでもなく、現実としてそのことを知っているのだ。

 見て、聞いて、体験として経験したのだ。

 勇者のことも、巫女姫のことも、そして魔王の事も知っている。

 逆に言えば、この四人が知らないわけはなかった。

 知らないなんてことがあるはずはない。

 そんなことをこの四人が言ってはいけない。

 誰よりも何よりも、この四人が一番知っているはずだった。


 …それと関係のある話だが、四人は一つの本を所有していた。

 一冊の本を誰の目にも触れないように仕舞い込んでいた。

 今は亡き兄妹の祖父が、どこからか手に入れた物。

 その遺品に紛れ込んで、兄妹の手元へと渡った物。

 決して開いてはならなかった本。

 だけど如月兄妹に何よりも得難い、最も大切な物を与えた本。

 その本の表紙には、文字の様にも見える不思議な文様…否、文字が記されている。

 今はもうどこでも使われていない、忘れられた神聖古代文字でこう書かれていた。

 ――『開けるな危険』




 階段を急いで駆け下りながら、風月は大きな声を上げた。

「あなた、あなた! 花鳥兄さん!」

 居間へと駆け込んだ風月は、夫の体に縋り付きながら、涙目で見上げてくる。

 焦った様子を隠そうともせずに、断片的な言葉を告げた。

「本が、あの【本】が――!」

 風月の言葉に、風月の兄たる花鳥と風月の夫エーベルトは目の色を変える。

「本…まさか、あの本が!?」

「銀河は、お祖父様の遺品を整理していたみたいなの」

 狼狽を示す二人の男に、風月は混乱を抑えて何とか的確な説明をしようとした。

「それで、あの本が床に落ちているのをマーシアさんが見つけて…!」

 それが指し示す事実は、四人にとっては明らかだ。

「たぶん銀河君はあちらに落ちたのだろうって」

「………それしか、考えられないか」

 あの子は無断外泊をする様な子ではないと、家にいる全員が分かっている。

 こんなに時間が経っても帰ってこないのは、止むに止まれぬ事情があるのだと。

「それで、マーシアは?」

「何とか引き留めておいたわ。兄さん、このまま放ってはおけないわ」

「ああ、急ごう」

 花鳥の妻マーシアは、行動力のある女性だ。

 急がなければ先に旅立ってしまうという確信は三人共に共通で。

 三人はそれぞれ自分の部屋へ駆け足で飛び込んだ。


 それから僅かの時間が過ぎた後。

 準備を済ませた彼等が、部屋から飛び出してくる。

 その姿は、まるで本の中に見られるような昔の旅姿だった。

「…まさか、再びこの服に袖を通すことになるとは…」

「それは至って同感ですよ、お義兄さん!」

 鋭く美しい剣を装着しながら、エーベルトが言う。

 見事に服を着こなし、慣れた動作で三人は階段を駆け上がる。

 エーベルトなどは先程までのTシャツよりも慣れているように見える。

「そう言えば…」

 ボソッと、エーベルトの耳にしか届かない程の声音で花鳥が呟く。

「え? なんですか」

 エーベルトの声には構わず、花鳥の腕が伸びる。

 花鳥は妹に見えないように義弟の背中に腕を回し、渾身の力を込めて抓りあげた。

「いたっ…!」

 花鳥がエーベルトの口を押さえ込んで、綺麗に微笑んでいる。

「さっき・・・風月は俺よりも先にお前を呼んでいたな」

 もがくエーベルトの背中を、声と共にさらなる力を込めて花鳥が抓る。

「兄であるこの俺を差し置いて、風月に先に呼ばれたな?」

「…子供っぽい嫉妬でこんなことするのは止めてくれませんか。頼みますから、いい加減シスコンは卒業してくださいよ!」

 義理の弟の抗議など知らぬ素振りで、花鳥はそっぽを向いている。家族至上主義なのは結構な事だが、新しい家族をないがしろにするのは止めてほしいと泣きたい気分でエーベルトは俯く。

 思わず涙が零れた。



 扉の向こうに、一冊の本が落ちていた。

 古ぼけたぼろぼろの本。開かれすぎてべらべらになった羊皮紙。

 一体いつ作られ、いつからこのような力を持つようになったのか。

 それは誰にも解らないことだった。

 だが如月家に来た時には、既に【禁じられた本】であったことは間違いがない。

 三人を待っていたマーシアと合流し、それぞれに意味ありげな視線を本へ向ける。

「…また、この本を目にするとは思わなかったな」

「全くだわ。やっぱりこんな本、燃やした方が良かったんじゃない? もしくは供養に出すとか、教会で清めてもらうとか」

「それは危険だって四人で判断したじゃないか」

「そうよ、マーシアさん。そんなことして、マーシアさんやエーベルトさんの身に何かがあったらどうするの? 向こうには故郷があり、親しい人がいるのでしょう? 本を燃やすと同時に消滅したらどうするの?」

「どちらにしろ、これ以上被害を受けないためには…誰の運命も狂わせないためには、この家に置いておかなかった方が良かったんじゃないの? 花鳥もエーベルトも風月も、そう思わないの?」

「それはっ」

「現に銀河君は、向こうだと思って間違いはないはず。手元に置いておくのは危険だったわね」

「それは、今更どうこう言っても仕方のないことだろう」

「そうよ、マーシアさん。今はそれよりも、銀河を何とか助けてあげなくちゃ。銀河、今頃どうしているかしら」

「無事だと良いんだが…」

 如月兄妹の弟である少年のことを思い、落ち込む一同。

 朝からずっと姿の見えない銀河のことを、四人は大好きだった。


 そして四人は、封じたはずの【禁じられた本】を開いた。

 目の前に開かれる、此処とは違うもう一つの世界。

「銀河君、無事でいて…」

 四人の心には、ただ弟の銀河を案じる気持ちだけがあった。



 --まさか、当の弟が魔王などという存在に即位しているなどとは…

 ましてや、魔王ライフをエンジョイしているなどとは露とも知らず。




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