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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
魔王城の日常~少年ジャック~
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6.ある意味、侵入成功

 魔王と邂逅を果たした少年、ジャック。

 しかし彼は目の前に魔王が居るとは知らず。

 呑気にも程があるが、当の魔王に自分の城への侵入経路を尋ねていた。

 そして魔王は頭を抱える。

 一体どうやって、少年の誤解を解いたモノか。

 全てを話してしまおうか。

 それとも誤魔化してしまおうか。

 その決断によって、少年の感情がどう歪むのか…

 魔王でありながらも未だ子供の銀河。

 彼は、ジャックを前に困惑を深めるばかりだった。


 そして銀河は、決断を下した。

 心中で、もうどうにでもなればいいと、半ば自棄になりながら。



 銀河は、目の前で小さな身体を伸び上げて縋り付いてくる少年を見た。

 細く小さなその肩をしっかりガッチリ握り締める。

「君、名前は?」

「え、じゃ、ジャック…」

 いきなり真剣な様子を浮かべる銀河に、ジャックは戸惑いの目を向ける。

 銀河はそんな少年の戸惑いにも構わず、真っ直ぐにジャックを見つめていた。

「そう、ジャック君。君が魔王の城に侵入したいって言う事情、話してくれないかな」

「話せば、方法を教えてくれる…?」

「それは君の事情次第だけど…そうだね、お城に入る協力はしてあげるよ」

 例えその方法が、目の前にいる銀河には朝飯前のことだろうと。

 そんなこと、ジャックは知らないから。

 だからジャックは、銀河の言葉に居住まいを正して己の真剣さを述べるのみ。

 そんなことをせずとも、多分銀河を人質にするか倒せば、城に入れる。

 でもやっぱり、そんなことは知らないから。

 まず、ジャックの能力では魔王を倒すことも不可能だったけど。


 やがてジャックの話は終わり、銀河はジャックの事情を知った。

 彼の姉が魔物に攫われ、生死不明であること。

 村の衆は諦めたけれど、まだ子供のジャックは諦められなかったこと。

 そうして、村から命がけの体力勝負で無茶を重ねつつ、此処まで来たこと。

 今は此処でこうして身を潜め、何とか魔王の城に潜入する隙を窺っていること。

 自分は姉を取り戻すか、死ぬまで諦めないという決意。

 ジャックの言葉は拙かったが、それらの事情は銀河の胸に染みいった。

 元々銀河は、親無し子として兄姉に育てられた身。

 兄弟愛モノの話は、どうしても感情移入してしまって他人事とは思えない。

 彼だって、いつか兄と姉が消息不明になった時はがむしゃらになって、必死に探したのだ。

 ジャックの姉への思いは、その慕う一心で一途で純真な思いは。

 銀河にとって何よりも同情に値し、共感できる部分。

 ブラコンといわれようと、シスコンといわれようと、彼は兄姉が大好きだったので。

 だからこそ、銀河は残念でならない。

 少年に、残酷な現実と真実を告げねばならない、そのことが…


 魔王は難しい顔でジャックの話を吟味していた。

 その難しい顔に、自然とジャックの不安が募る。

 だけど魔王は、やっぱりジャックの不安とは的はずれな部分で思い悩んでいた。

「ジャック君、一つ聞くよ」

「何を、ですか」

「君の、お姉さんの名前は?」

 真面目な顔のままで銀河が尋ねるから、ジャックはおずおずと応えた。

「アメリアだけど…」

「そう。アメリア、だね」

 脳裏で情報を整理して、銀河は名前を脳内目録から探す。

 銀河は思う。

 確か、その名前は記録に残っていたはずだ、と。

 やがて刺して時間もかけずに該当する記憶を掘り起こすと、銀河はやはりと頷いた。

 やはり、聞き覚えがあったはずだ…と。

 彼の思っていた通りの情報を記憶の波から拾い上げ、銀河は一つ溜息をついた。

 それには多分に諦めと、同情めいた哀れみが混じっている。

 ああ、こんな所まで、嘗て兄姉を捜した自分を彷彿とさせるなんて、と。

 銀河は視線と少年の肩を掴む手に意思を込め、ジャックを見据えた。

「それじゃ、ジャック君。君に一つ聞いて貰わないと行けないことがあるんだ」

「え、なに…」

「覚悟を決めて、良く聞いてね」

 あまりにも銀河が真剣な様子を見せるから、ジャックは思わず息を呑む。

 こくりと唾を飲み込む音が、大きく響く。

 緊迫した状況の中で、緊張感を誘う慎重さを交え、銀河は事実を告げた。

「君のお姉さんは、もうあの城の中には居ない」

 

 え…


 ジャックの見開かれた目は、残酷な結末を予想して、零れ落ちんばかり。

 彼自身の危惧していたことだけに、真に迫って追ってくる現実に呑まれそう。

 もしかしたらあるかも、という予想ではない。

 本当は確信していたから、ジャックは告げられた言葉を自分なりに理解してしまう。

 そうして、受け入れたくない現実に脳内を染め上げられそうになった。

 

 みるみるうちに盛り上がり、目の縁に堪っていく大粒の涙。

 今にも流れ落ちそうなそれに、魔王は慌てた。

 狼狽えながらも急いで取り出したハンカチで、未だ流しては居ないジャックの涙を拭う。

 小さな子供が痛がろうと構いはしない。そしてジャックは、それどころではない。

 自分の足りない言葉で子供が胸を痛めている。

 その事実に自分自身も胸を痛めながら、銀河は言い切れなかった続きを述べる。

「ご、誤解しないで…君のお姉さんは、お城にいないだけで、ちゃんと生きてるから」

「え…」

「今頃は命の心配もなく、ちゃんと元気でいるはずだから!」

「…え?」

 自分の脳内許容量が、銀河の言葉に停止するのをジャックは感じていた。

 目の前で告げられた姉の情報に、完全に理解力が追いつかない。

 一度、その死を受け入れてしまっただけに、尚更に。


 硬直し、完全に思考停止してしまったジャックに、焦りのまま銀河は続ける。

「君のお姉さんは、もうお城には居ない、でも別に死んだ訳じゃない。本当だよ!」

「あ、じゃ…魔物のなg…」

「多分君の考えてることは全部外れてるよ!? 一つもきっと当たってないから!」

 明後日の方向へ思考を走らせ、呆然としたままでとんでもないことを口走ろうとしたジャック。銀河は持ち前の勘の良さでそれを事前に察知し、更に慌ててジャックの口を塞ぐ。

 最早、騒いだらマズイという意識は二人の頭にはない。

 銀河の方は、元々持ち合わせていなかったけれど。

「そ、それじゃ、もしかして姉さんはお城から逃げられたんですか!?」

 自力で!? という驚きの声もまた、銀河の否定で打ち消される。

「お、おにいさんが協力してくれたとか…」

「協力は否定しないけど…別に脱走に成功した訳でもないから」

「じゃあ、一体何だって言うんですか!!」

「落ち着いて、落ち着いて! ほら、深呼吸して、ジャック君!」

 混乱の極みで、理解停止に陥りそうなジャック。(半ば既に理解停止)

 銀河はジャックの小さな背中を懸命にさすりながら、どう続けようかなぁと銀河は悩む。

 これ以上続きを話したら、少年の頭はどうなってしまうだろう?

 そう心配しながらも銀河は思い切って言ってみた。

「安心して? 君のお姉さんは今頃、生まれ故郷の村に間違いなく居るはずだから!!」

「………え゛」

 ジャックの頭は今度こそ、パーンッと弾けて真っ白に染まった。



 死に物狂いのがむしゃらさで、何が何でもと必死になった。

 そうやって死ぬ覚悟、力尽きそうになりながら、此処まで来た今まで。

 それらが全て脳内で弾けて、大きく口も目も開けたままジャックは動かない。動けない。

 完全に機能停止してしまったジャックを抱えて、銀河は途方に暮れるのだった。



 姉を求めて命がけで疾駆した、小さな身体の少年。

 銀河にとって城の中の客間まで担ぎ込まれる彼は、自分の今後を未だ知らない。

 ただ、この時。

 この時だけは、彼は一つの真実を知っていた。

 銀河に教えられた、彼の真実。

 それは、彼の全ての努力が無駄と運命に嘲笑われたこと。

 彼は己の努力と根性の全てが「徒労」と知り、茫然自失。

 そのまま、意識を飛ばしていた。



 ある意味で、自分が魔王の城への入城を果たしたこと。

 彼がそれを知るのは、意識が回復した後。

 後暫しの時間を要した。

 だけど決して、それは彼の望んだ形とは限らない。

 最早目的も無意味なモノと成り果てた、今。

 彼にとって魔王の城に幸いとなることはあるのだろうか…

 魔王にはそれが分からなかった。

 だけど放置することもできず、甲斐甲斐しく介抱するのだった。




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