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少年銀河は魔王です  作者: 小林晴幸
魔王城の日常~少年ジャック~
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1.ジャックが走るワケ



 僕の姉さんが、魔物に攫われた。

 ほんの少し、父さんが目を離した間に。

 それは暫くという程に前ではなく、近頃と言うにも微妙な前のこと。

 攫った魔物は森や、山や、谷に住む魔物じゃなかった。

 あれは勇者が相対する様な、強い魔物。

 魔王城を根城とする、強い魔物の一種。


 大人達は、みんな諦めろと言う。

 暗澹とした、絶望をよく知る顔で。

 そんなにくらい顔をするくらいなら、助けに行こうよ。

 そう言った僕を、大人達は冗談じゃないと殴る。

 無謀な夢を見て、死んでいった村人は沢山いた。

 そんな一人になるつもりかと、するつもりかと。

 大人達は、聞き分けない僕に蔑む様な目を向ける。

 ああ、大人達の思うところは…

 その、考えるところは…

 僕に十分に思い知らせる。

 それくらいに、大人達の目はまざまざと感情に濁っていた。


 魔物の食い物にされるのは、いつも。

 いつも…僕達みたいな女子供で。

 そんな現状がとても嫌だったから。

 どうしても、姉さんを失いたくなかったから。

 誰もが姉さんはもう、生きて帰ってくることはないだろうと言う。

 そんなの、嫌だ。

 姉さんを失わせてしまうような未来、来てほしくない。

 実現するのを、阻みたい。

 その一心で、僕は何も言わずに村を飛び出した。


 魔王の住まう大陸に、たった一つの人間の村。

 僕達が暮らす場所は、大陸の中でも魔王の城から格別に離れている。

 そう、少しでも魔王の影響から逃れようと。

 遠ざかろう、遠ざかろうと隠れ住んだ先人の意思。

 平穏から遠ざかるばかりの大陸で、安全は何よりも得難い。

 ひっそりと物静かに、魔王の城から遠い村。

 普段はそれが何よりも安全に近く、心細さを慰めるけれど。

 今は何より、遠いという距離が忌々しい。

 幾ら駆けても。幾ら駆けても。

 魔王の城に近づいているとは思えなくて。

 体力の限界が来るまで。

 体中から力を失い、倒れ臥すまで。

 息も切れ、熱っぽく頭が沸いてしまうまで。

 それ程に走っても、まだまだ魔王の城は遠い。

 僕はそれでも、走ることを止められない。

 僕が走るのを止めた時。

 その時こそ、姉さんの命が失われてしまう気がして。

 走っている限りは、姉さんが無事だと根拠もなく自分を誤魔化せたから。

 僕は走ることを止められない。

 だって、走るのを止めた時は…その時は、きっと僕の命も終わってしまう。

 

 此処は、魔王の城に程近い。

 暗黒の居城を取り囲む樹海は、光の加護を持たない人間を容易く殺してしまう。

 ううん。殺すのは、森じゃない。

 魔物だ。

 魔物だ。

 森に住まう、魔物。

 凶悪にして邪悪な、魔物だ。

 少しでも魔王の側近く侍ろうと、この森には他所の比でなく魔物が巣くう。

 その巨体が立てる音。

 獰猛な吠える声。

 争い、騒ぎ立てるのはどんな理由があってのことか…考えたくもない。

 僕の様な小さくちっぽけな子供は、見つかったらぺろりと一口。

 間違いない。

 魔物に見つかった時、それが僕の終焉。

 だけど棒は死にたくないから。

 姉さんにも死んでほしくないから。

 だから僕は、我も忘れて走り続けた。

 身も世もなく、走り続けた。

 死にたくないし、死んでほしくない。

 それだけが、力尽きても走り続ける、僕のたった一つのワケだった。




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