取扱説明書クリュス1号のご案内 ~次は攻撃魔法でどうですか?~
回復魔法を創ろうとして、うっかり女神召喚なんて言う大作を創ってしまった銀河。
というか、それをやったら聖人ではないかとレイヤは思う。
その一方で吸血鬼は、半端な聖人よりも銀河の方が尊いとマジ賛美。
色々とちぐはぐな三人は、面白い魔導書という玩具に、未だ期待は薄れない。
何しろ女神召喚という、「成功作」と言える実績があるのだから。
いつの間にか三人は、次第に悪ノリし始めていた。
「と、言う訳で。次は攻撃魔法などいかがですか、銀河様」
「そうよね。回復魔法って言う後顧の憂いは断たれた訳だし、次は自衛手段がほしいわよね」
「わぁ。二人とも楽しそうだね」
そう言う銀河も、隠しようが無く楽しそうだった。
「でも、この世界の攻撃魔法って、どんなのなのかな」
一口に攻撃魔法といっても、なまじ創作の盛んな国にいた銀河は困ってしまう。
何しろ思い浮かぶ「例」が多すぎて、逆にイメージが固まらないのだ。
それに銀河は、この世界の魔法の企画というか、一般的な概念、常識を知らない。
それで何かを作っても、また「回復魔法」みたいにとんでもないモノができるのでは。
魔導書を胸に抱え込み、不安がる銀河に…吸血鬼がふわりと柔らかく笑いかけた。
「所で銀河様、何か恐ろしいと思うモノを思い浮かべてみて下さい」
「え?」
唐突なクリュスの言葉に、脳内が勝手に反応してとある一文が輝いた。
それに連動して、胸に抱えた魔導書も輝いた。
「え゛!?」
ぎょっと胸の魔導書を覗き込む銀河。
その目が驚愕に見開かれた時
チーンッ
毎度お馴染み、あの音が鳴り響いた。
「「………」」
にこにこと笑みを深める吸血鬼の前で、魔王と村娘が困り顔でページを捲る。
果たして、目次に新しい項目が浮かんでいた。
第二項目「攻撃魔法」
攻撃魔法(雷)レベル1 …8P
攻撃魔法(雷)レベル2 …9P
攻撃魔法(雷)レベル3 …10P
「また、このパターン、か…」
「なに? 銀河ってば、雷が怖いの?」
「僕としては、特にそんなつもりないんだけど…」
「そうですよね。この城の周囲は頻繁に雷雲が騒いでいますが、銀河様が怯えた姿は終ぞ見た覚えがありませんから。レイヤ嬢も、銀河様と同じく平然としていますしね」
「あら。私だって雷は好きじゃないわよ? ただ、この城に来てから…昔みたいに騒ぐ気が起きないだけど。これって、、所謂「慣れ」ってヤツなのかな?」
三人は口々に疑問を呟きながら、忙しなくページを捲る。
やがて現れた目的の項目。
そこには、こんな記述があった。
攻撃魔法(雷)レベル1 消費魔力1
発動条件:呪文
「地震、雷、火事、親父」
効果:
地震の如き地響きを伴い、頭に火のついた雷親父…
近所で怖いと評判の塚本さんちのお爺さん(若い頃の異名:鬼正)を召喚する。
「………攻撃魔法?」
記された内容の魔法っぽくなさに、銀河は頭を抱えて項垂れる。
「また微妙なモノができちゃったね…。僕の頭って、どうなってるんだろ」
「なんだろうね。一度は変な失敗しないと、まともなモノができないとか」
「何にしろ、珍しい魔法ではありますね」
レイヤとクリュスも首を捻り、コメントの内容に悩む。
攻撃魔法と言うには、あまりにも内容がファンタジーとは懸け離れている。
銀河は二人が何か言う前に、今度こそという思いで再びチャレンジすることにした。
さっきの、回復魔法だって思い改めてやれば成功したのだ。
今度だって、頭を捻ればなんとか良いものが完成するかもしれない。
銀河は聞こえてくる音の全てを遮断するつもりで心を落ち着かせ、一気に集中した。
イメージは、雷。
鋭く空を引き裂き、天から降される裁きの光。
そのイメージを一気に高め…
………る、その途中で。
銀河の脳裏に、余計な情報が過ぎった。
そう言えば、本来の僕は受験生だけど。
受験祈願で有名なあの神社の祭神って、確か…
ある意味ファンタジーといえばファンタジーだが、この場合、何かが違う。
魔王の発想として、何かが違う。
今居る世界の世界観とも、ちょっとそぐわない。
しかしそんな予備知識が、うっかり銀河の脳裏を過ぎってしまったのだ。
…その結果は、お約束通り結果に反映した。
カッと光を放ち、閃光は地に落ちた雷さながらに魔王城を照らし出した。
そしてお約束の、あの音が響く。
チーンッ
どことなく間抜けで、どことなく馬鹿にされている気になる音。
銀河の耳に、それは今までで一番虚しく響いた。
「や、やっちゃった…」
顔が引きつり、結果を見るのが怖くて堪らない。
村娘と吸血鬼の二人は、そんな魔王を前にやはり首を傾げているのだった。




