女神光臨(実際に、試してみた)
折角創ってみた魔法。
ソレがどんなにとんでもなく、魔王っぽくないモノでも。
折角創ったからには、活用しないと損だよね?
「という訳で、クリュスさん」
「はい、何なりとお申し付け下さい」
「それじゃあ、魔王城内の傷病持ちの全魔物を広間に召集させて下さい。決して強制ではないけれど、できれば参加して貰える形で」
「はははっ 無用な心配ですよ、銀河様。銀河様がお望みとあれば、どんな場所にいようと、いつであろうと、魔物は誰であれ即座に馳せ参じますから!」
そんな銀河の言葉で、癒しの加護を無用としない全ての魔物が集められた。
目的は勿論、癒しの女神召喚を試す為。ついでに、可愛い魔物達を癒す為。
魔王城はただっ広く、端から端までで半径3㎞を余裕で越える。
だからこそ、癒し漏れのない様、銀河は魔物達を一つ所に集める様に指示を下す。
その数は、膨大となった。
「うわー」
「壮観。その一言が全てね」
銀河はレイヤと二人、肩を並べて乾いた笑いを浮かべてしまう。
ちょっとしたグラウンド程もあった広間は、全て犇めく魔物で埋め尽くされていた。
それが全て何かしら身体の不具合を抱えているというのだから、銀河は胸が痛んでしまう。
「こんなに沢山の、魔物が辛く不便な思いを…」
「暗くなる必要ないでしょ、銀河。それもすぐ終わっちゃうんだから。銀河が癒すんでしょ」
「そうだね。この魔法がどれだけ使えるのか分からないけど…早く、皆を楽にしてあげなきゃ」
決意を胸に、銀河はキリッとした顔で前を見据える。
その視線に先にあるのは、司会進行役クリュスさん。
彼は広間の魔物達の前に立ち、派手な立ち居振る舞いで魔物達に演説している。
演説内容は、勿論のこと毎度お馴染みの銀河賛美だ。
「ちょっと、僕のこと、持ち上げ過ぎじゃ…」
「いつものことだけど、今日は殊更ヨイショが凄いわね。銀河、えらく期待されてるわよ」
「あまり過剰に期待されても、僕だって戸惑うよ」
あまりにもよく言われすぎて己とは思えない内容に、銀河の顔は若干引きつった。
「それでは! おいでいただきましょう!! 我等が主君たる闇の主、魔王銀河様に!!」
「「「「おぉおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉっ」」」」
熱の入った演説はいよいよ最高潮に達し、クリュスの銀河を呼ぶ声がする。
それに続いて銀河を待ち望む、魔物達の雄叫びも。
凄まじい熱狂に、銀河は足が退けそうになる。
それでも自分は彼等の主なのだと言い聞かせ、銀河は一人で進み出る。
自分の為に用意された講壇に昇り、頑張って掻き集めた根性を支えに魔物へと向かい立つ。
「僕の求めに応じて集まってくれて有難う。僕のする行いを、どうか受け入れてほしい」
懇願する様な気持ちでも、何とかギリギリで頭を下げず、銀河は魔物達に語りかける。
銀河の言葉に奮い立つ魔物達は、銀河という存在を心待ちにして歓迎する。
彼等の魔王を慕う気持ちは、あまりに素直で…疑うこともなく、真っ直ぐだった。
自分を慕うモノ共への慈悲と、真摯な気持ちで彼はこっそり呟く。
呪文として叫ぶには、あまりにも情けなさ過ぎる呪文を。
癒しの女神を召喚する為の、魔法の呪文を。
「だれか、たすけて…!」
救いを求めて誰かに縋る魔王というのも、ちょっと情けないと思うけど。
でも、銀河には全てを救うに、まだまだ力が足りなくて。
誰かを頼り、力を貸して貰わなければ、できることなど限られるから。
どうか全てを癒してほしいという切望と共に、銀河は女神の召喚を願う。
気持ちと共に広げた両手から、眩しい光が迸った。
それは温かで気持ちよく、ふわふわとした羽毛の様に軽やかな光。
まるで心地よい、春の陽射しの様に心に染みいる。
そんな、温かな気持ちを光らせる様な輝き。
それが広間全体に広がった時、一際眩しい閃光と共に…
ナニか、高次元の存在が光臨したことを、場の全ての命が感じとっていた。
眩い光はうっすらと残りながら、それでも何とか視界が効く様になって。
銀河は己の眼前に光臨したモノの姿を見る。
それはどこか、銀河の母にも姉にも重なって見えた。
まるで銀河の知る、『母性』を具現化した様な。
銀河の知る、『癒し』のイメージと重なって。
全てのモノにとって、癒しと重なる、その姿。
視覚的には朧に霞み、はっきりと顔を見ることは叶わなかったけれど。
きっと美しい姿をしていた。
誰にとっても、美しい印象と重なる姿だった。
白い薄衣を纏った、麗しの『母性』。
『女神』は銀河に慈愛溢れる笑みを向けると、その右手を差し伸べた。
釣られる形で、銀河は女神の右手を手にと手しまう。
何かを触った感触は、微かにもしなかった。
確かに触ったはずなのに、それはまるで陽射しの光を手に掴もうとしたかの様で。
何も掴めないのに、確実に触っている、そんな不確かさで。
確実に触っているのに、何も掴めない、そんな虚しさで。
ただ、自分よりも遙か高みにいるナニかに触れた。
その瞬間に、銀河の背筋をぞくりと悪寒が走った。
まるで全てを吸い取られ、奪い取られ、頭の中身を掻き乱される様な。
身体の中に持つ、自分という全てを女神の持つ力で書き換えられそうな。
自分という存在を見失ってしまいそうな。
そんな心許ない不安と、混乱が銀河に押し寄せる。
自分が消えてしまいそうな苦しみに、一瞬だけ精神が軋んだ。
苦しみは一瞬。
痛みは直ぐに失せ、己の中を駈け回る不安も直ぐに薄れる。
だけどソレを感じたという記憶は、脳裏に熱く刻まれる。
直ぐに薄れた苦しみはもう、思い出せない。
でも苦しんだという記憶が残るから、銀河は脂汗に額を濡らす。
銀河の悪寒が駈け回るのと同時に、女神と触れた手から、先程以上に激しい光が迸る。
銀に星を散らした、闇と光を交えた様に斑の光。
くるくると駈け回りながら、それは眩い星の帯となって広間を覆う。
キラキラと空から弾け飛び、降り注ぐのは金平糖の様に愛らしい煌めきで。
それが身に触れた端から、その場に集まっている魔物達を癒していく。
闇に身を置く魔物であっても、関係なく。
女神の癒しは、間違いなく命を持った全てを癒した。
ただ一人、銀河に高位の存在と接触する危うさを身に覚えさせながら。
銀河の催した癒しの集いは成功し、魔法は間違いなく滞りのない発動を見せた。
魔導書に書かれた記述は誤ることなく。
その魔法は全てを癒し、怪我と病を退散させたけれど。
自分とは相容れない、高みの存在。
神と接するに、我が身はあまりに矮小で。
癒しの女神召喚を多用するには己の精神が危ういのでは…
銀河はそんな危機感を覚え、この魔法を最終奥義とすることに決めた。




