取扱説明書クリュス1号のご案内 ~能力を確認してみよう~
本人の心の内にのみ、不満と蟠りを残しつつ。
それでも何とか無事に、銀河は魔導書との契約を完了させた。
その途端に不気味な書物から放出される、不安を高らかに煽る謎のエネルギー。
何となく、この魔導書はクリュスと同じく繰りの存在ではないかとレイヤは感じていた。
とてつもなく常識が通用しない。
そんな予感が、一同の胸に去来する。
だけど誰も、それを口に出来ないまま。
ただ、ひたすら良い笑顔で利用案内を続けるクリュスに注目していた。
「それでは準備も整ったところで、早速実践に移りたいと思います」
「もう?」
「はい。この魔導書は契約さえ済ませられれば、即機能を発揮します」
「機能…つまり、魔法の作成?」
「はい。その通りです」
「どうやって創るんだろう」
いざ魔法を創るぞと言われ、ぐしゃぐしゃに萎んで潰れた筈の期待がちょっと膨らむ。
キラキラした子供達の瞳を前に、クリュスは大袈裟に手を広げて指示を出す。
「それでは、本を閉じて表紙に手を置いて下さい」
「はい」
指示に素直に従う、銀河。
「その状態で創りたい魔法、もしくは望む魔法の効果を思い浮かべて下さい」
「え? まだできていないのに、思い浮かべる?」
「そこはイメージです、想像です。想像力で補って下さい。それが一番重要なのです」
やたらと真剣な顔で「イメージ、イメージ」と繰り返すクリュスさん。
「どうして、そんなに大事だと繰り返すんです?」
「歴代魔王様にはイメージを練ることが不得意な方もいました。そういった方は満足に魔法を創ることもできず…この魔導書を使いこなすのに一番必要なのは、想像力なのです」
どうやら歴代魔王には、想像力の欠如という深刻な理由で魔法の使えない方もいたらしい。
自分はどうだろうか。
銀河はちょっとだけ、不安になった。
「それでは銀河様、とにかく何か創ってみましょう。ご所望のレイヤ嬢の健康に関する対策となる様な…そうですね、回復魔法などいかがですか?」
「え!?」
「レイヤ嬢?」
クリュスの提案に驚きの声を挙げたのは、レイヤで。
そのレイヤに不思議そうな顔を向けながらも、吸血鬼は魔王に見えない様、こっそり人差し指を口許に立てた。「内緒ですよ」そんな囁きが微かに聞こえる。
銀河は二人の遣り取りに気付くこともなく、ドキドキそわそわと試しに手を置く。
「僕にできるかなぁ」
「できますよ、銀河様なら大丈夫です!」
そっと目を閉じ、想像力を働かせる。
頭の中に浮かぶのは、回復のイメージ。
ゲームや小説を参考にしようとしたけれど、何となく具体的には浮かばない。
なんだかフワフワしているな、と。
どうしても抽象的にしか想像できず、銀河は困り果てる。
「回復、回復、回復…?」
「銀河様、何となくでも大丈夫ですよ!」
吸血鬼の応援を受けて、ふと、心の中に浮かぶ光景が。
「あ」
頭に浮かんだ光景が、くっきりと像を結ぶ。
その瞬間、本が鈍く光り出し…
チーンッ
一際強く輝いた瞬間、どことなく聞き慣れた音がした。
「う、うわぁ…何だかそこはかとなく、懐かしい音が。台所で耳にする、電子音が」
「完成ですね!」
にこやかな吸血鬼の笑顔と、レイヤの意味がよく分かっていない顔。
疑問を顔に乗せ、銀河は疑う顔で魔導書を凝視している。
裏表引っ繰り返しながら、必死に探すのは何なのか。電子レンジか。
戸惑いを意に介さず、吸血鬼が先に進める。
「ページを開いたら銀河様の個人データと目次が記されている筈です。そこに完成した魔法も記されているはずですよ。ちょっと開いてみましょう」
にこっと微笑む、吸血鬼の笑顔は誠実そうに見える。
恐る恐ると開いてみれば、確かにそこには言われた通りのモノが。
現在、1ページ目には契約書(捺印済み)。
2ページ目に目次(空欄の多い中、一番上に『回復魔法』の項目が)。
3ページ目には銀河のデータが記されたページ(一昔前のテレビゲーム風)。
「銀河様のページは、本人にとって分かりやすい形式で表示される様になっています」
「僕のステータスって、こうなってたんだ…」
「ステータスって、なに? この訳の分からない数字のこと?」
「ははっ なにこれ。僕、レベル3なのにHP高すぎ…」
魔王 如月銀河
レベル:3
HP:8900000 MP:6650000
攻撃力:600000 魔法攻撃力:450000
防御力:570000 魔法防御力:430000
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などなど。
「レベル3って、こんなに能力値高かったっけ………」
「魔王だからでしょ?」
普通、人間であれば有り得ない様な数値がずらずらと続く。
自覚の無かった己の非人間性、魔王っぽい能力値。
乾いた笑いを漏らしつつ、人間離れしちゃったなぁと困った様に笑う。
その姿は別に、全然困っている様には見えない。
ふわっと笑いながらも、目はページのステータスから離れない。
こんな形で改めて己が魔王であることを実感する、新米魔王銀河であった。




